大洋の覇者を夢見たシーパワーはなぜ滅びたのか—。19世紀の1871年、プロイセン王国を中心として300の独立王国が統一した新興国家ドイツ。伝統的に陸軍国であり、海軍には無関心だった。戦力も小規模な沿岸警備隊程度の艦隊を保有するのみで事足りると考えていた。それが新皇帝・ウイルヘルム2世により大海軍国である英国に次ぐ海軍兵力を保有し、ドイツ帝国成立後僅か40年余で、第一次大戦を始めるに至った。創設から消滅までの74年に渡る航跡を、人物に焦点をあてた谷光太郎著『提督たちのドイツ海軍興亡史』（光人社ＮＦ文庫）がいま話題を集めている。宿敵英国海軍に挑んだ海の男たちの人物評の一部を、抜粋してお送りする。 ドイツ海軍拡張の立役者と革命による消滅 ドイツが英国に次ぐ大海軍国になり得たのは、ドイツの国力、工業力の増大が根本にあったのはもちろんであるが、29歳で即位したウイルヘルム２世の海軍国への野望があり、有能なアルフレート・ティルピッツ提督を海軍大臣に据え、軍艦の数を増やしていったことにある。 貴族＝ユンカー層が指揮官の中枢を占めていた陸軍と異なり、様々な階級層の若者が海軍兵学校に入校、後にヒッパーやシェーアなどの提督や指揮官を輩出し、新興海軍とは思えぬ戦いぶりを見せるのであった。また新兵器・潜水艦（Ｕボート）による通商破壊作戦は英国を窮地に陥れる。 しかし英独大艦隊が激突したユトランド沖海戦後、ドイツ海軍が積極的攻勢に出ることなくドイツ海軍水兵の反乱をきっかけとした国内の革命により帝国は崩壊する。第一次大戦に敗北したドイツは虎の子の戦艦等の主力水上艦隊を失なったが、ドイツ海軍の再建は細々ながら進められており、幕僚出身のエーリッヒ・レーダーなどがその任に当たった。そして第一次世界大戦の敗戦からわずか21年で英国と干戈を交える第二次大戦が勃発、ドイツ海軍は劣勢な戦力のまま戦争に突入したのであった。 戦争の勝敗を左右させたＵボートの戦いと指揮官・デーニッツ 第一次大戦後のベルサイユ条約により、敗戦国ドイツは潜水艦（Ｕボート）の保有を禁止されたが、潜水艦関係者は技術の温存につとめた。第一次世界大戦当時、潜水艦長であったカール・デーニッツは捕虜となった後に帰国、海軍に復職後は潜水艦部隊の総司令官となる。 ベルサイユ条約の破棄後に潜水艦部隊は再建され、1939年より勃発した第二次大戦中には1000隻にのぼるＵボートを建造、デーニッツは「バトル・オブ・アトランチック」において、第一次大戦以上のUボートによる通商破壊作戦で英国を降伏寸前までに追い詰める手腕を見せる。しかし英海軍の抵抗によりＵボートの被害が増えていくのをデーニッツは認めざるを得なかった。 ドイツ海軍が事実上消滅へ追い込まれた理由 デーニッツの元参謀は、戦後に「バトル・オブ・アトランチック」の敗因を、敵のレーダー改善・改良の早さ、水上護衛艦と護衛空母からの航空機との共同作戦として挙げている。 デーニッツは水上艦隊の作戦失敗により辞任したレーダー海軍総司令官の後任となる。Ｕボート戦中心による戦局の挽回を図るが、先に参戦した米国と連合軍による暗号解読戦により挫折する。 終戦間際のヒトラー自殺後にドイツは降伏、海軍も事実上消滅する。その引導を渡したのがヒトラーの後継指導者となったカール・デーニッツであったのは皮肉である。 【戦闘機】第二次大戦で「日本軍」が“密かに研究していた”…！ 陸軍テストパイロットの「手記」が明かす「航空機史上の残る名機」の知られざる「試乗記録」の中身