世界を侵略しつつある「ソフトな植民地化」…西側諸国が差し出す表面的な「誘惑」の裏に潜む危険な”真実”とは

人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行された。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第109回 『空前絶後の「植民地」ブームがもたらしたのは無惨な「抑圧」のみ…経済発展のカギを握るのは「支配」ではなく“包括的”な「体制」だった』より続く 同じ遺伝子でも文明レベルが違うのはなぜか 人間には奇妙な人々と奇妙ではない人々の2つの異なる“種類”がいるのではなくて、“奇妙さ”の強い人もいれば弱い人もいるという話なのだが、それでもなお、異なる文化によって大まかな強弱のパターンが見つかる。個人主義的な自制、分析的思考、あるいは全般的な向社会性などの要素における相違は遺伝で決まるものではなく、心理特性と、それら特性が生かされる社会状況の両方の進化によってもたらされる。 遺伝や民族の違いではなく、文化進化の速度の違いが、個別地域における社会・技術・政治の発展速度の違いを引き起こしている。学習と協調性によって左右される社会の大きさなどといった要素が、社会においてどの心理特性がどれだけ強く普及するかを決める。 文化進化から学べる重要な教訓は、ある社会の複雑さはそこに生きる個人の特性とはほとんど関係がなく、その社会が文化として受け継いだ実践や制度によって決まる、という点だろう。 およそ400年前にヨーロッパ人が初めてタスマニア島でアボリジニに遭遇したとき、彼らの技術はいまだに石器時代の人類と同レベルにあった。その一方で、地理的にはすぐ近くのオーストラリアに住むアボリジニは、同じころにすでに、舟、槍、調理器具、薬品、輸送用容器にいたるまで、数百の複雑な道具を用いていた。そのような劇的な格差を目にすると、多くの人は遺伝による人種の違いをその原因だと考えがちだ。しかし実際は違う。 今のオーストラリアとタスマニア島を隔てるバス海峡は、およそ1万2000年前まで地続きで、歩いて渡ることができた。最後の氷河期が終わって水面が上昇したため、タスマニア島とオーストラリア大陸の人々が分け隔てられ、孤立したタスマニア島の人々は高い技術水準を保てなくなったのである。集団があまりに小さかったからだ。 西洋化の「矛盾」 ヘンリックは、西洋世界が奇妙な心理をもつにいたった理由と、それが西洋諸国における価値観と豊かさに変化をもたらした仕組みを説明しようとした。ヘンリックが示した歴史発展により、西洋は個人の自由と人間の尊厳という概念を手に入れただけでなく、“裕福”にもなった。 この理論は、一見したところ、植民地支配を正当化するために頻繁に用いられていた、西ヨーロッパ人の知的優位性という民族的な偏見をサポートしているように感じられるため、当然ながら多くの人を不快にさせる。もちろんそのような偏見は、今では否定されたとみなされている。 しかし皮肉なことに、そのような勝利主義批判、つまり事実上の西洋覇権を社会科学的に説明しようとする行為の背後には例外なく知的怠慢な民族中心主義的偏見が潜んでいると疑う態度こそが、言い換えれば、民族中心の考え方を不安視することこそが、奇妙な人々の心理的症状なのである。文化は偶然ではなく、自分たちの価値観や規範は数多く存在する世界観の一つに過ぎないとする普遍的な見方がすでに、極めて西洋的だ。世界のほとんどの地域では、民族中心の考え方が当たり前であり、誰もが、自らの価値観、伝統、そして習慣が唯一正しいものだと考える。 世界各地における現在のさまざまな発展を、市場経済、民主政治、そしていわゆる「消費文化」に収束しようとする試みは、「ソフトな植民地化」と呼ばれることもある。わずか数世代前とは違って、今の西洋諸国は自らの制度や価値観を銃や暴力で他国に押しつけようとはしなくなったかもしれないが、だからといって拡大主義的な動きを止めたわけではない。ただ、侵略者のほうも学習し、文化の同化という繊細で、しかも以前より不誠実な手段を用いるようになっただけだ。 今では、西側諸国は暴力ではなく、現代的な生活スタイルという表面的な誘惑を通じて西洋文化を広めていると言われる。そしてその際、西洋文化をいったん家に入れてしまうとその快適さがもたらす多くの欠点を取り除くことはもはや不可能であるという点には口を閉ざす。 『「西洋化」は歴史の流れが生み出した幻想に過ぎない…今世界が直面している“時代”の大きな「転換点」とは!?』へ続く 【つづきを読む】「西洋化」は歴史の流れが生み出した幻想に過ぎない…今世界が直面している“時代”の大きな「転換点」とは!?

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