きょうはこどもの日。2023年4月に施行された子ども基本法は子どもの意見表明権を定め、国や地方自治体には子どもに関する政策を作る際には、子どもの意見を聴く仕組みを作ることを義務付けています。子どもの意見を聴くとはどういうことなのか?認定NPO法人国際子ども権利センター(C-Rights)代表理事、甲斐田万智子さんに聞きました。 ──子どもの権利を守るとか子どもの意見を聞くといいますが、どのようにしたらいいのでしょうか 実は言葉が話せない赤ちゃんも意思表示をしていますし、大人が聴く姿勢を持てば、子どもの声を聴けるとは私たち子どもの権利にかかわる者が言っていることです。逆に聴こうとしなければ、聴こえない。子どもの声を聴くには、日頃からどんなことでも話していいと子どもに伝えることが必要です。特に家庭の中では親が忙しいと遠慮したり、心配かけたくないからこんなこと言っちゃいけないと思って話さない子もいます。 子どもの声を聴くには、安心・安全の雰囲気を作ることと、日頃から子どもがいろいろなことを選ぶ自由があるのがあたりまえの生活にすることですね。例えば、保育園・幼稚園に行く時、「今日、どの靴下はきたい?」と子どもに引き出しの中を見せて毎日選ばせていた人がいます。日々の生活で、大人が子どもに聞かずに決めがちですが、できるだけ子どもに選ばせる機会を与えていると意見表明の力がついてきて、自己肯定感も高まる。子どもが、自分は選ぶことができる存在、つまり権利の主体なんだと、実感できる。すると性的な自己決定権でも、あるいはいじめられたり差別されたりした時に、これはおかしいと感じて、はね除ける気持ちが育つと思います。家庭、学校、施設や地域で子どもが選べる、意思を表示できるようにする。意思表示することは「わがまま」ではなくて、あたりまえの権利を行使しているだけと考えるように社会が変わっていくことが必要じゃないかと思います。 ──しかし大人からすると子どもにいちいち選ばせると効率が悪いし、たとえば洋服などもとんでもない組み合わせを着るんじゃないかなど不安もありそうです 子どもを信頼してみてください。たとえば時間がかかることが気になるなら「着るものを選ぶのに時間がかかって家を出るのが遅れちゃうから、解決したいんだけど、どうしたらいいと思う?」と尋ねて、何時に起きればいいかを一緒に考えるとか。男の子でスカートを着たがる場合、いわゆるジェンダーバイアス(性別をめぐる思い込み)によって男の子だからこう、女の子だからこうと大人は言いたがりますが、社会からは風当たりが強くても、子どもが着たいものを認めてあげることが子どもの権利を守る社会につながると思いますね。「ゲームばかりして宿題しない」という時にも、「ゲームをやめなさい」と言うんじゃなくて、「ゲームを何時間もすると勉強の時間もなくて、将来的にあなたがしたい仕事ができなくなるかもしれない。どうしたらいいと思う?」と、子どもと相談してみて下さい。こどもが「じゃあ学校から帰ってきて最初1時間はゲームするけども、その後の時間は宿題する。」などと彼ら自身が計画を考える形にする。子どもは「宿題しなさい」と言われたら、むしろやる気がなくなりますよね。自分で決めれば、自分でやろうとするようになるので、子どもの主体性を大切にすることで逆に大人は楽になると私は思っています。子どもの意思を無視して「あなたにはこれが必要だから、こういう勉強をしなさい」「この塾に行くのがいい」と言うのでなく、「あなたはこういうことが好きだから、例えばピアノ習ってみる?」とか「サッカーとこれとこれのスポーツ教室があり、他にも選択肢があるから考えてみて」と、提案をして、子どもの意思をきいて決めることが大事だと思います。 2022年に生徒指導提要が改正され、校則の見直しをするように文科省から推奨されています。その際、校則が子どもの権利を尊重し、校則の制定には、子どもの意見を聴くこととされています。そして、こども基本法の施行にともない、多くの学校で校則を見直し、こどもと一緒に変える動きがありますよね。子どもたちが案を作り、先生と協議して作った校則なら、子どもたちは責任持って守っていこうとすると思います。 ── これまでは先生の言うことをよくきく子、大人の言う通りにする子がいい子だと思われてきました。あるスポーツのコーチが「大人が想定する正解を当てに来る子が多い」と話していました。 いわゆる従順な子がいい子だとされてきましたが、変化の多い不確実な社会を生き抜くためにも先生の言うことをただ聴くのではなく、子どもたちが自ら判断していく力が求められていると思います。判断力や自己決定力に加え、答えのない状況で考えてリサーチする力、人と違っても独自の考えに基づいて行動していくことがむしろ求められています。そんな中で、先生が集団で同じことをすることを強制し、それについていく子がいい子とするのは、子どもの権利を軽視していると感じます。子どもが自分で考えで選んだり、自己主張したりする機会が得られないでいると、社会に出て、ハラスメントを受けた際に、泣き寝入りしがちになると思うんです。子どもの権利で大事なことは、自分が嫌なことをされたらノーと言える権利が誰にでもあると学んで、嫌だと言えるようになることだと思います。差別された時に差別しないでって言えることだと思うんですよね。それが人権をまもる社会にもつながると思います。 ■子どもの権利を教える学校・自治体と教えない学校・自治体の差が開いている ──子ども基本法が施行されて2年。子どもたちの状況は変化しましたか? 自治体や教育委員会で子どもの権利をテーマにする研修が増えています。一方、子どもの権利を学校で教えているところはまだまだ少ない。子どもの権利に基づく学校とそうでない学校の差が開いていると感じます。学校の先生は、これまで子どもを指導する対象としてしかみてこなかったことが多いですよね。いまだに生徒に向かって「権利を言う前に義務を果たせ」と言う先生もいますが、実は「権利と義務は対」というのは、子どもには権利があって、それを保障する義務が大人にあるという意味が理解されていないからです。まるで子ども自身が義務を果たさないと権利を行使できないかのように誤解されています。 そして、子どもに権利を教えるとわがままになるという思い込みが、子どもの権利条約を批准した当時から30年ほどたった今でも非常に強いです。先生の指示のもと、皆で一斉に同じことを成し遂げなくてはならないという集団主義を息苦しく感じ、それがつらくなり、不登校になる子もいるでしょう。不登校や自殺が多い背景のひとつとして、一人ひとりの子どもの気持ちを尊重しない学校のあり方も関係しているように思います。多様な学びの選択肢から子どもたちが選ぶことのできるような学校運営へと変えていく必要があるのではないでしょうか。 ■子ども時代は大人になるための準備期間ではない 今生きている子の幸せを考える 日本では、これまで親や先生が「子どもを自分が理想とする人間に育てなければならない」と思い込んでしつけや指導をしていたかもしれませんが、これからは子どもそれぞれが持っている意思を尊重することが大切だと思います。子ども時代は「大人になるための準備期間」だと思われがちですが、そうではなくて、子どもたちが今幸せに生きること、楽しいことを子どもと共に考えていく、そういう変化を起こすことが必要だと思います。 ── 確かに大人が理想の完成形であって、それに向けて子どもたちは今は我慢して、それになるために逆算して、必要なことをやるべきといった感じの発想が、私たちには染み付いている気がします。 子どもを対等なパートナーとして見るという発想に変えていくためには、たとえば、いじめや不登校などの課題について、保護者だけでなく子どもと一緒に先生が解決策を考えていくことだと思います。子どもが直面している課題は、子どもが当事者として一番分かっているからです。そして、子どもが相談しやすい雰囲気も重要です。たとえば、性的なことをされたらイヤだと言っていいということを、人権に基づく性教育を通して伝えていく必要があります。部活の顧問が小学生女児に性的虐待をしていた例などでも、保護者が「あの先生に限ってそんなことあるはずない」という態度をとったために長年性虐待が続いた例もあります。子どもの声を信じることと性虐待への理解が重要です。 ■世界の子ども権利かるた 自分の不満に気付く子も… わたしたち、国際子ども権利センター(C-Rights)は子どもの権利を子どもたちが理解しやすいように子ども向けの本を出版したり、子どもの権利かるたを制作したりしています。昨年は動画を制作しました。「世界の子ども権利かるた」を使ったワークショップも非常に好評で、「こういう身近なことも権利だとわかった」という反応がよくあります。 かるたにはカラフルなイラストが描かれ、「あ」は「ありのままの自分をみとめてほしい」、「い」は「いのちを大切に自分を傷つけたくなったら話してみて」などとなっています。かるたを使ったワークショップでは、子どもに自分のモヤモヤする気持ちを書いて、オリジナルのかるたを作ってもらっています。たとえば「学校から帰ってきて、すぐ宿題って言わないで」とか、「そんなにきつく叱らないで、心の芯から傷つくよ」「習い事をもうやめさせて」「『貴方のため』自分で決めよう 自分の道」など。子どもたちが心の中ではおとなに不満、不安を抱いているのに言えていないことがわかります。そして、オリジナルかるたに書いてみることで「私はこういう本当の気持ちをおとなに話してもいいんだな」と気付く子もいます。かるたを通じて、親や大人に思い切って、自分の感じていることを言うきっかけになればいいなと思っています。 ■海外で見た実例 意見を言うことで変わっていく子どもと地域 どうして私がこんなにまで「子どもの権利」に取り組むかというと、私はインドやカンボジアなど海外で国際協力に携わるなかで、子どもたちが権利を知って、どんどん変わり、エンパワーされる実例を見てきたからです。児童労働とか人身売買など大変な状況にある子どもたちも、権利を知り、もともと持っている力を発揮し、「貧しい家庭で親を助けないといけないと思ってきたけど、自分の権利を知り、学校に行きたいと言えるようになった」とか「国の取り組みについて意見を言っていい」と知って、政府や役人にはたらきかけ、政策や地域社会がより良い方向に変わっていったのを見てきました。子ども自身が問題解決のために「権利」をツールとして使って、変化を起こす力になれるんです。 ──子どもたちは急に「何か意見ありますか」と言われても「いや、別にないです」となりがちですよね。恥ずかしくて言えない子もいますし。 子どもが安心して意見を聴いてもらえる環境をあたり前にする必要があります。1年に1回だけ、とか習い事を決める時だけ子どもに意見を聴いても、それは無理ですよね、日頃から「靴下どれがいい?」とか「食べ物、どっちがいい?」「今度の休みは、こことここ、どっちに行きたい?」などと会話する家庭と大人が一方的に決める家庭では、子どもの意見形成力が全然違うと思います。場当たり的に聴くのではなく、子どもの声を聴くことがあたり前だという「文化」にしないとだめだと思います。 ── 大人がききたいタイミングで、大人が知りたいことを尋ね、大人がききたいことだけをきく、となりがちですが、日常の文化にするということですね。最後に呼びかけたいことをお願いします。 子どもたちに伝えたいのは、生活のあらゆる場であなたは、「こうしたい」「嫌なことは嫌」と言える権利があり、「自分に影響がある事柄について、こうしたらいいのでは」と提案をする権利があるということです。そうすることで、あなたが嫌なことから守られるということなんです。例えば殴られるとかあからさまな暴力だけでなく、言葉の暴力や心理的な暴力も、です。そして困った時やつらい時には相談する権利があるので、まずは信頼しているおとなに相談してみてください。自分の思っていたような対応がされなかったとしても、他の人がきっと聴いてくれるので諦めないで、いろんな大人を探してほしいなと思います。学校でもこれはおかしいな、イヤだなと感じたら、そう感じるのは自分だけではないことも多いと思うので、おなじように思う仲間を見つけて、一緒になって発言してみてください。一人だったら難しいこともグループになることで変わることがあります。 大人に言いたいことは、子どもを対等なパートナーとして、権利の主体としてみてほしいということです。自治体には子どもの権利条例を作って、まちづくりや子どもが直面する問題解決の際に、子どもの意見を聴いてほしいです。子どもや若者がイキイキするまちは、大人にとっても住みやすいまちになります。 甲斐田万智子:認定NPO法人国際子ども権利センター(C-Rights)代表理事。広げよう!子どもの権利条約キャンペーン共同代表。子どもの権利条約総合研究所理事・運営委員。文京学院大学・立教大学講師。著書『毎日つかえる子どもの権利』(アルパカ)、監修『きみがきみらしく生きるための子どもの権利』(KADOKAWA)、編著『世界中の子どもの権利をまもる30の方法』(合同出版)、共著『こども基本法こどもガイドブック』(子どもの未来社)、監修『世界の子ども権利かるた』(合同出版)
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