旧足尾銅山近くに立つ「孤高のブナ」 煙害で消失した森を再生する懸命の試み【風をよむ・サンデーモーニング】

国連が定めたSDGs=持続可能な開発目標では、「陸の豊かさを守ろう」として、森林の保全や回復を訴えています。日本の「公害」の原点ともいえる場所での、森の再生の取り組みを取材しました。 【写真を見る】旧足尾銅山近くに立つ「孤高のブナ」 煙害で消失した森を再生する懸命の試み【風をよむ・サンデーモーニング】 森の再生は…旧足尾銅山の“公害” 緑に覆われた山々。その中で異様な存在感を放つ、一面、黒く塗られたような斜面があります。表面を覆うのは、銅の製錬過程で発生した廃棄物です。 栃木県・旧足尾銅山の製錬所にほど近い場所で、明治から昭和にかけて、製錬所から放出された有毒な煙の影響で、木々が枯れ、現在、山肌は岩と砂に覆われています。 稜線に沿って登っていくと、姿をあらわしたのは一本のブナの木。もともとブナの林が広がっていたとみられますが、次々と枯れ、唯一生き残ったこの木は「孤高のブナ」と呼ばれるようになりました。 このブナが立つ稜線の左側には森が広がっていますが、煙害を受けた右側は、木がないため、雨で土壌が流され、岩と砂だけになってしまいました。 「孤高のブナ」を見た人 「(人間は)なんてことしてしまったんだって感じ。岩だけですもんね」 「実際に来てみると、環境破壊のすごさみたいなものを実感できる」 資源の採掘がもたらした傷跡。それに抗うかのように立つ1本のブナ。ここ足尾は、森と私たち人間の関係を今、改めて問いかけています。 痛ましい「公害」の跡 100年以上経っても… 今から140年前の明治20年頃。足尾銅山では、当時の最先端技術を導入し、積極的な銅の採掘・製錬を行っていました。ところが、亜硫酸ガスの煙害で、山の木々が枯れていきます。 この惨状を告発し、天皇に直訴したのが政治家・田中正造。その被害は世間に知られ、日本初の「公害」とされました。 しかし、それから100年以上経っても痛ましい「公害」の跡は残ります。現在も、閉じた鉱山や廃棄物の堆積場などから出る水の浄化処理や、下流域で水質のモニタリングが続けられています。 一方で、煙害によって消失した森林面積は、2400ヘクタールにおよび、山手線内側のおよそ4割に達します。 「山と心に木を植えよう」20年にわたる植樹活動 この森を復活させようと20年前、ある民間団体が植樹活動を始めました。岸井成格さんらが立ち上げた、民間ボランティア団体「森びとプロジェクト」です。 森びとプロジェクト 岸井成格 理事長(2005年5月) 「山と心に木を植えようと。『心に木を植える』という中には、足尾の歴史も一緒に学んでいこうと」 この荒れ地で「森びとプロジェクト」は20年に渡り、栄養分が高い黒土を運び、苗木を植え育ててきました。ウサギや鹿などに苗木が食べられないよう網を張り、雑草を取り除く作業も行ってきました。 4月29日に行われたのは「孤高のブナ」の保護活動。自然分解する袋に入れた、草の種子が混じった黒土を根元に置きます。草が生えることで、土壌が雨に流されなくなります。 さらに「孤高のブナ」の種子から、新たなブナを育てる取り組みも。約100個ほどの実から発芽したのはわずか2つ。7年かけて苗木に育て、そのうちの1つを「希望のブナ」と名付け、ようやく2年前に植えることができました。 「未来を生きる子どもたちのために」各地で進む森林の破壊 森を再生する懸命の試み。その一方で、今、日本各地で進む森の破壊。その影響はさまざまなところにあらわれています。 ▼過剰な伐採などで、森の機能が弱まって招く「土砂崩れ」 ▼人の手が入らず放置された森に広がる「山火事」 ▼森につながる里山の荒廃で、人里にクマが出没するなどの「獣害」 しかし、森の再生には途方もない時間と労力が必要です。 足尾の森はNPOや企業などによって一部が再生され、野生動物も戻ってきました。 ところが、20年かけて「森びとプロジェクト」が再生した面積は、わずか5.6ヘクタール。禿げ山となった地域の0.2%にすぎません。実際、「希望のブナ」の成長も遅々としたものです。 森びとプロジェクト 清水卓 副代表 「1年で10センチ。あれ(親木)が12メートルですから、10センチずつ1年で伸びていっても、100年ですもんね」 それでも、なぜこうした作業に取り組み続けるのでしょうか。 森びとプロジェクト 清水卓 副代表 「人間はやはり、この自然とこの森がなければ生きていけません。未来を生きる子どもたちのために、この豊かな地球環境を守らなきゃならない。使命感というより、それが私達の義務じゃないかと」 100年以上前、この地で抗議活動を行った田中正造は、こんな言葉を残しています。 「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」

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