幕末日本に来た「イギリスの外交官」が分析した「日本の歴史」…「江戸時代は森で眠る美女のよう」

家康によって確立された政治体制 日本はいったい、世界のなかでどのような立ち位置を占めているのか。 世界情勢が混乱するなか、こうした問題について考える機会が増えた人も多いかもしれません。 日本が世界に占める位置を、歴史的な視点をもって考えるうえで非常に役に立つのが、『一外交官の見た明治維新』(講談社学術文庫)という本です。 著者は、イギリスの外交官であるアーネスト・メイスン・サトウ。1843年にイギリスに生まれたサトウは、1862年、幕末の日本を訪れ、在日イギリス公使館の通訳官や、駐日公使を務めました。 本書は、サトウが日本に滞在した期間に見聞きしたことをまとめたもの。そこからは、当時の日本が世界のなかでどのような立ち位置にあったのか、イギリスという「文明国」から日本がどう見えていたのか、あるいはそのころの国際情勢が伝わってきます。 たとえば、サトウたち欧米人は少ない資料から日本のことを学んでいましたが、日本の政治制度についてどのように見ていたのでしょうか。本書より引用します(読みやすさのため、一部改行などを編集しています)。 *** 〈家康は、優れた軍事道路を建設したからこそ、はじめて全国的な支配を行うことができたのである。彼によって確立された政治体制は、永続的な平和を可能にするよう計算されたものに見えた。だが、そのような体制にも、世襲制度のよくない部分が影を落とす。 三代将軍の家光は真の男であった。彼は関ヶ原の戦いの4年後に生まれ、彼の祖父が最後の戦いの1年後に死んだときにはすでに12歳であった。その時点までに彼はすでに兵士としての教育を受けており、また徳川の優位性を確立するという目的を達成することに強い意欲を持っていた。 家康とその後継者は、大名たちが江戸を訪れたとき、必ず郊外で彼らと面会していたが、家光は彼らと城の中で謁見した。そこで彼は、もし大名たちの中に現在の徳川の配下としての地位を受け入れられない者がいるのであれば、3年の猶予を与えるので戦いの準備をすればよい、どちらが戦争の苦難に耐えられるか試してみようではないか、と宣言したのである。このように言われて抵抗しようと考えた者は一人もいなかった。 だが、彼の後を継いだのはまだ10歳の息子・家綱であった。家綱の幼年期には、彼が名目上の君主としてふるまいながらも、実際に物事を動かしていたのは代々の家臣たち(譜代大名)によって構成された評議会であり、このときはじめて徳川家の家長の威厳が損なわれた。さらに悪いことに、老中と言われた評議会は井伊、本多、榊原、そして酒井の四つの大名の家系によって寡占されてしまったのである。 内戦が終わって四代将軍が即位するまでのあいだに、世襲制はそれが常に生み出すものを徳川の政治体制にも投げかけていた。行政の長は自らの意思を何ら持たなくなって、側近の言いなりとなり、その側近たちを糸で操っていたのもまた別の人物たちであった。本当の力は、旗本、もしくは下級の家臣から選ばれた奉行という地位の臣下たちの下にあり、彼らこそが実際に影響力を有する重要人物だったのである。 だが、そのような人物たちですら、能力と意欲のある者に仕事を任せて自らは楽をしたいという願望には抗いがたく、彼らの個人秘書と言える奥御祐筆と呼ばれた人物たちが最終的に徳川家の諸州を運営することになった。組織はとてもよく作られたもので、子供であっても運用することができた。そして、この国の政治的停滞は、安定と誤って認識されるようになったのである。 途中、政府に対する陰謀未遂事件が一、二回ほどあったものの、日本は238年間という非常に長い間平和を享受したのである。その姿は森で眠る美女に似ており、治安維持を担う者の仕事は、彼女の眠りを妨げかねないハエを扇子で追い払うことに似ていた。だが、意欲に満ちて精力的な西洋によって美女が夢から覚まされると、老いぼれたちは自らの責務を果たすことができず、変化しつつある状況に適応できる男たちにその仕事を譲らなければならなかった。 この国の社会は、二つの階層に分断されており、そのあいだには横断することが不可能なほどに広い溝があった。一方には帯剣を許されたジェントリとも言える階級があり、彼らのほとんどは貧困に喘ぎながらも社会的特権を有していた。もう一つは、農業、労働、商業を担う階級であった。階級の異なる者同士の結婚は固く禁じられていた。前者は礼節に則った行動規範に従うことが課せられており、それを犯した場合は有名な腹切という行為を通じて自害することによって自らの名誉を守ることができたのである。だが、後者はより厳しい不文律の下に置かれ、情け容赦なく処刑されることは日常茶飯事であった。彼らは二本差しの階級の忠実で慎ましい従属者であった。〉 *** さらに「19世紀のイギリス外交官は、なぜ「日本という極東の国」に魅入られたのか? その意外な理由」では、サトウが日本に惹かれたきっかけについてくわしく紹介しています。 【つづきを読む】19世紀のイギリス外交官は、なぜ「日本という極東の国」に魅入られたのか? その意外な理由

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