トランプ大統領は「保守政治家ではなく、むしろ無政府主義者」と専門家が指摘…無理難題を吹っかけるトランプ政権に日本が採るべき“唯一の方法”とは

 第1回【ハーバード大で「リベラル狩り」、AP通信に「出禁」命令…トランプ大統領はもはや“独裁者”か 「日刊ゲンダイでも読んでくださいよ」と返した安倍元首相との決定的な違い】からの続き──。トランプ大統領を「保守」の政治家と見なす人は多いが、アメリカの名門大学やメディアに対する攻撃を見れば「独裁者」という言葉を思い浮かべる読者もいるのではないか。(全2回の第2回)  *** 【写真】タフでクールなブロンド美女…ハードなディールを続けるトランプ大統領の切り札は「美しすぎる司法長官」  自身もアイビー・リーグの1つであるのペンシルベニア大学を卒業したトランプ大統領は、リベラルとされるアメリカ名門大学の校風をどう考えているのだろうか。なぜ自分の母校を含むエリート大学を敵視するのだろうか。 後世の人々はトランプ大統領をどう評価するのか  右翼やネット右翼の動向や思想、さらにアメリカ政治にも詳しい作家の古谷経衡氏は「トランプ大統領とアメリカの名門大学の対立に『保守VSリベラル』という思想性を読み解こうとすると、現象の意味を読み誤る危険性があります」と指摘する。 「例えば中国では1966年から1976年まで文化大革命が続き、中国社会は混乱の極みに達しました。この文化大革命を共産・社会主義の歴史に位置づけたり、革命運動の思想性を見出そうとしたりすれば、やはり本質を読み誤ります。今では毛沢東が復権を画策して起こした“単なる政治権力闘争だった”と明らかになっているからです。同じようにトランプ大統領が主張している『反DEI』や『反ユダヤ主義の禁止』に保守としての政治思想を見出すことは不可能だと考えます。そもそもトランプ大統領に思想はありません。何の考えも持たない金持ちのボンボンが様々なことに吠え、それをアメリカの一部有権者が喝采を送っているだけでしょう」  古谷氏は「トランプ大統領の政治スタンスを、共和党に存在する穏健保守層の政治思想と比較してみれば、大統領の本質が浮かび上がります」と言う。 「1620年にメイフラワー号がアメリカのマサチューセッツ州・プリマスに到着したことは世界史上の重要なできごとです。乗客にはピューリタンと呼ばれたイギリスの改革派プロテスタントの信者が目立ちました。教義の源泉はカルヴァン派ですから、経済活動の自由は認めても質素と倹約を重んじ、日常生活は禁欲的なものでした。こうしたアメリカ人の原像は児童小説『大草原の小さな家』に描かれ、70年代にテレビドラマ化されるとアメリカだけでなく日本でも大ヒットしたことはご記憶の方も多いと思います」 トランプ大統領と保守思想は無関係  アメリカの西部開拓は1803年のルイジアナ買収に始まり、1890年のフロンティア消滅で終わった。『大草原の小さな家』は西部開拓時代を背景に、両親と3姉妹がたくましく生き抜く姿を描いて圧倒的な共感を集めた。家族は慎ましい生活を送りながら深い愛情で結ばれ、家族の力だけで大自然を開拓していく。確かにアメリカにおける保守思想の源泉の一つだろう。 「トランプ大統領は父親の不動産ビジネスを引き継ぐと、高層ビル、ホテル、カジノ、ゴルフコースといった事業拡大に成功しました。彼の人生から質素や倹約といった単語や、プロテスタンティズムが本来持つ厳格な性規範などは見いだせません。むしろ享楽的なライフスタイルを誇示し、不倫相手の口止め料を巡って裁判が開かれて注目を集めました。この点からもトランプ大統領と保守主義は何の関係もないことが分かります」(同・古谷氏)  日本だけでなくアメリカでも「エリート階層を象徴する名門大学を攻撃すれば、トランプ大統領の支持者は歓迎する」という指摘は少なくない。だが、この理解しやすい分析を古谷氏は「事実とは異なる可能性があります」と指摘する。 「トランプ大統領は主に2種類の人々から支持を集めています。1つ目は陰謀論の信者です。トランプ氏は陰謀論者の支持で選挙に当選した初めての大統領でしょう。2つ目は地方の郡部や農村部に暮らす人々です。彼らは本来なら穏健な政治思想に共鳴する層も多かったはずですが、何しろ首都のワシントンどころか州内の州都も訪れたことのないような人々です。アメリカ経済の成長からも、知的な議論からも取り残され、コミュニティの中だけで生きてきました。そうして生まれた閉塞感から、トランプ大統領の『アメリカを再び偉大な国にする』というスローガンに素朴な共感を示した有権者層だと言えます」 極右と極左の“接着点”  陰謀論者や地方在住者にとって、アイビー・リーグに属する名門大学との距離は物理的にも精神的にも遙かに遠い。トランプ大統領と対立しているという事実すら把握していない可能性があるという。 「アメリカの地元密着型のメディアが壊滅状態にあることは背景として重要です。特に、これまで地に足の着いた報道を担ってきた地方紙は全滅と言っていいでしょう。何とか地域のラジオは機能しているとしても、3大ネットワークが報じる全国ニュースは地方の住民にとって何の関係もありません。新聞を筆頭にした大手メディアの影響力低下によりネット上でフェイクニュースが拡散するのはアメリカだけでなく日本も同じですが、日本は国土が狭いという利点があります。トランプ大統領とハーバード大学の対立も海外ニュースとしてある程度は日本国内で流布するわけですが、広大なアメリカでは限界があります」(同・古谷氏)  トランプ大統領の政治姿勢から思想性を無理矢理に引き出すとすれば、「アナキズムを見出すことは可能かもしれません」と古谷氏は言う。 「気に入らないものは何でもぶっ壊すという姿勢は、アナキズム、無政府主義の亜種とは言えるでしょう。アメリカのリバタリアニズムは『自由至上主義』などと訳され、政府の介入を極端に嫌うことなどから思想的には極右に位置づけられることもあります。リバタリアニズムの影響が強い保守派の政治運動にティーパーティーがあり、彼らは基本的にトランプ大統領を支持しています。アナキズムは極左ですから、極右のリバタリアニズムやティーパーティーと“極端”な思想という点では通じあうところがあるのです」(同・古谷氏) 触らぬ神に祟りなし  何でもぶっ壊すという姿勢が名門大学に向けられれば、補助金の凍結が決まる。同じ方針が日本に向けられると、「アメリカの自動車を日本に輸出する場合、ボウリングの球を6メートルの高さから車のボンネットに落とし、少しでもへこんだら不合格という非関税障壁が存在する」という事実無根、荒唐無稽な主張となるわけだ。  こんな大統領とあと4年間、日本は向き合う必要がある。今後、どう対処すべきなのだろうか。コロンビア大学のようにある程度は受け入れるか、ハーバード大学のように徹底的に戦うか、どちらが得策なのだろうか──? 「トランプ大統領への対処は、『触らぬ神に祟りなし』が大原則だと考えます。何しろ相手に理屈は存在しないのですから、話し合っても無駄です。トランプ大統領の暴言を『トランプ流のディール、交渉術』と無理矢理に解説する専門家や識者がいますが、率直に言って見当違いです。トランプ大統領に深い考えなどなく、常にデタラメを吠えていると見なすほうがかえって正確でしょう。幸いなことにトランプ大統領の目は中国、メキシコ、ロシア、カナダ、中東という国や地域に向けられています。実のところ日本に対する関心はそれほどないはずで、これを利用しない手はありません。とにかくトランプ大統領には愛想良く振る舞いながら、なるべく近づかない。直接会談の機会は最小限にする。交渉の必要があれば、国務長官や駐日大使と密に連絡を取り合う。そうやってトランプ大統領の4年間をひたすら逃げ回るのが最上の外交方針でしょう」(同・古谷氏)  第1回【ハーバード大で「リベラル狩り」、AP通信に「出禁」命令…トランプ大統領はもはや“独裁者”か 「日刊ゲンダイでも読んでくださいよ」と返した安倍元首相との決定的な違い】では、トランプ大統領の名門大学に対する言論弾圧の実態や、故・安倍晋三氏との違いなどについて詳細に報じている──。 デイリー新潮編集部

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