「戦後80年」平和の使者として期待される「愛子さま」 101歳で他界された「女性皇族」が“反戦への思い”のルーツに

 天皇家の長女・愛子さまは「戦後70年」となる2015年、ご一家で都内の国立施設「昭和館」に足を運ばれた。同館は先の大戦中の国民生活を紹介する展示で知られ、愛子さまは再現された防空壕に入り、井戸の水くみも体験された。元宮内庁長官の羽毛田信吾館長(当時)は、戦禍への学びを深められていた愛子さまの訪問先として、節目の年に同館が選ばれた背景を「歴史を忘れてはならないとのご一家のお考え」と推察した。ガザやウクライナで紛争が続く中、今年は「戦後80年」。皇族として戦争のない世界への想いを新たにされている愛子さまは、令和皇室の平和の担い手、言わば“使者”としても、本年が飛躍の年になりそうだ。 【写真7枚】当時8歳「愛子さま」と子猫のふれあい、乳牛に向けられた「雅子さま」の柔らかいまなざし…“動物愛”あふれる天皇ご一家 バトンをつながれ  厚生労働省の事務次官時代、退位前の上皇上皇后両陛下が戦没者慰霊のためパラオを訪問されたのに同行し、ペリリュー島の慰霊碑の前で説明役を務めた村木厚子さんは、愛子さまが「昭和館」を訪れた2015年の夏、やはりご一家で都内の日比谷図書文化館を訪れ、企画展を見学された際にも案内役を務め、マスコミの取材にこう振り返っている。 平和への思いは受け継がれていく 「非常に丁寧にご覧になり、きちんと勉強されていたことが印象に残っています」  当時はまだ皇太子だった天皇陛下は、同年2月に55歳の誕生日を迎えたが、これに先立つ記者会見で、愛子さまが上皇上皇后両陛下から直接戦争の話を聞かれる機会があると明かされている。  雅子皇后も同年12月の誕生日に発表したご感想の文書で、こう綴られた(要約)。 「この夏には愛子と共に先の大戦に関する幾つかの催しを訪れる機会をいただき、戦争の悲惨さと平和の尊さに改めて思いを深く致しました。愛子も、戦争の歴史や戦後の荒廃の中から日本がどのように復興を遂げてきたかについて、関心を持って学び、理解を深めてくれたものと感じています」  これらの企画展で戦争関連の展示を初めて見学された愛子さまは、学芸員に質問をしたり戦没者遺族から直接体験を聞かれたりしていたが、いずれも天皇陛下の「戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に、悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切」との強いお気持ちが反映されて実現したものだった。  また天皇陛下は翌年の誕生日会見で「戦争の惨禍を再び繰り返すことなく、平和を愛する心を育んでいくことが大切」として、愛子さまら次世代に想いを継承していく重要性を強調されている。  この年の12月に15歳となった愛子さまは、これに先立つ5月に学習院女子中等科の修学旅行で広島をご訪問。平和記念公園で原爆死没者慰霊碑や原爆ドームを見学されたほか、語り部から被爆体験を聞き、戦争の悲惨さと平和の尊さを改めて学ばれた。  天皇皇后両陛下は「戦争を知らない世代」だ。2月の誕生日会見でも、改めてこう述べられている。 「私と雅子は戦後生まれで、戦争を体験していませんが、上皇上皇后両陛下の戦時中の御体験のお話など、平和を大切に思われるお気持ちについて、折に触れて伺う機会がありました。愛子も、両陛下から先の大戦についてお話を聞かせていただいております」  上皇陛下は昭和天皇の姿を通じて戦争とは何かを考え、天皇陛下は上皇陛下のお話を身近でお聞きなってこられたが、そのバトンをつなぐのが成年皇族となられた愛子さまなのだ。 沖縄への想い  上皇上皇后両陛下が、戦争の爪痕を巡り、激戦の地で戦没者を悼んで碑石に供花し、遺族たちを労う「慰霊の旅」は、いつからか“平成流”と呼ばれ、多くの国民から共感を得てきた。  被爆地の広島、長崎両県に加え、多くの死者を出した沖縄県には2013年に歴代天皇として初めて訪問され、以降も何度も足を運ばれている。国内の旅と並行して皇太子時代から「日本人の忘れてはならない日」として終戦記念日(8月15日)と沖縄戦終結日(6月23日)、広島・長崎への原爆投下の日(8月6、9日)を挙げ、これらの日には黙祷をささげられている。  慰霊の旅は国境を越え、「戦後60年」の2005年、米自治領サイパン島をご訪問。「戦後70年」では集大成として激戦地のパラオ訪問を果たされている。また沖縄の子供たちが取材活動を経験しながら、本土の青少年と交流することを目的に始められた「豆記者」の派遣は上皇陛下が皇太子だった1963(昭和38)年、沖縄から東京を訪れた子供たちと東宮御所(現・仙洞御所)でお会いになったことに始まる。即位後は皇太子だった天皇陛下が引き継がれ、愛子さまも中学生時代から豆記者の小中学生と交流されている。  沖縄への上皇陛下の想いも、天皇陛下を通じて孫の愛子さまに受け継がれた。豆記者については令和に入り、さらに秋篠宮ご一家に継承され、ご夫妻と長男の悠仁さまが面会されており、愛子さまはこうした想いを同世代の悠仁さまと共有されている。 「社会人2年目に入られた愛子さまは戦後80年を迎え、皇族としてのご自覚と天皇家の長女としての責任感から平和への想いを確固たるものにされているようです」  こう語るのは宮内庁旧東宮職元幹部。その上で「愛子さまの想いの根幹にあるのは、実は三笠宮妃百合子さまのご気概のようなのです」と続ける。 反戦の誓いと“秘話”  百合子さまは昭和天皇の末弟に当たる三笠宮さまの妃(妻)。三笠宮さまは2016年10月に100歳で亡くなられ、百合子さまも昨年11月、101歳で他界された。  三笠宮さまは先の大戦で支那派遣軍参謀として南京に赴かれ、終戦時は陸軍少佐となっていた。百合子さまは真珠湾攻撃直前の1941(昭和16)年10月にご結婚。戦況が激しくなる中で新婚生活を送られ、三笠宮さまの南京赴任中は空襲に耐える日々を過ごすなど宮邸を一人で守られた。三笠宮さまは戦後、東大の研究生となって歴史学者の道を歩まれ、オリエント史の研究では皇族として初めて大学の教壇にも立つなど学者肌の一面を見せられた。  戦地で目の当たりにした悲惨な光景と戦史を踏まえ、反戦を客観的視点から強く唱えられたのが三笠宮さまだった。戦争を最も憎み、平和を強く望まれた稀有な皇族を夫に持つ百合子さまが、同じように戦争を憎み平和を希求されたのは当然の結果だった。  戦争について造詣を深めていかれる中で同性の百合子さまのご生涯に愛子さまが共感を覚えられたのは必然のこと。宮内庁OBはこう指摘する。 「もちろん祖母の美智子上皇后から受け継がれた平和への想いもお強い。ただ終戦時に小学生だった美智子さまと、家庭を守り戦地に赴いた三笠宮さまの支えとなられた百合子さまとはご境遇が全く異なります。女性皇族の“生きざま”という意味で、平和へのご姿勢が愛子さまに与えた影響は小さくはないのです」  雅子皇后のご体調がすぐれなかった頃、愛子さまと「一卵性母子」と揶揄する声もあった。愛子さまが保護犬に「ゆり」と名付けて愛犬にしたことを「百合子さまのお名前が呼び捨てにされる」との批判がネットに書き込まれたこともあった。だが同OBは、 「これはまさに言い掛かりで、百合子さまは全く意に介しておられなかったとお聞きしています」  と、秘話を明かす。百合子さまのご逝去から100日目の2月22日、都内の豊島岡墓地で「墓所百日祭の儀」が営まれ、愛子さまも参列された。同OBは「戦後80年の夏を前に、愛子さまも墓前でさまざまな想いをめぐらされたのではないでしょうか」と感慨深げに述べた。 朝霞保人(あさか・やすひと) 皇室ジャーナリスト。主に紙媒体でロイヤルファミリーの記事などを執筆する。 デイリー新潮編集部

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