ニュースのその先を考える記者解説。1日のテーマは「世界で競争激化 量子コンピューターを考える」です。社会部・内田慧記者の解説です。【#きっかけ解説】 ──最近、量子コンピューターを耳にする機会が増えましたよね。 まだ実用化には至っていませんが、医薬品開発など、AIの次に、社会を変える可能性がある技術として、世界中が開発にしのぎをけずっています。 去年12月にグーグルが発表した量子コンピューターは現在、世界最速のスーパーコンピューターが10の25乗年かかる計算を5分で解く性能を示しました。 ──10の25乗という数字があまり想像できませんが、とにかく速くなったということなんですね。 富士通と理化学研究所は先週、世界最大級256量子ビットの量子コンピューターを公開しました。 ──コンピューターの概念がガラッと変わるような映像ですね。シャンデリアに似てますね、見た目が。 このほとんどの部分が冷却装置で、量子コンピューターの頭脳であるチップは下の筒の中に入っています。開発チームの1人、大阪大学・藤井啓祐教授は今の盛り上がりを次のように語っています。 大阪大学・藤井啓祐教授「よく例えるのは、地下アイドルを、全然観客がいない中、3人ぐらいしかいない中、応援していた地下アイドルが、武道館に出てるような感じですよね」 本当にできるの?と思われていたものに、世界中が注目しているんです。 ──私たちが普段使っているコンピューターと、量子コンピューターは何が違うんでしょうか コンピューターとはいうものの、従来のものとは、見た目も原理も全く違います。 キーワードは「量子」。私たちの身の回りの物を構成する電子や原子といったとても小さなものの総称です。 物質をコインに例えると、ふつう“表か裏”、どちらか一方の状態しかありませんよね。 でも、量子は、“表でもあり裏でもある”という「重ね合わせ」と呼ばれる性質を持っています。 ──表でもあって、裏でもあるというのが正直よくわからないのですが・・ 信じがたいですよね。でも、電子などミクロの世界では、常におきている現象で、この性質をコンピューターに利用しています。 従来のコンピューターでは、電気的なオン・オフで“0か1か”という状態をつくり、これを組み合わせて様々なものを表します。これに対して、量子コンピューターは「重ね合わせ」、つまり”0でもあり1でもある”という性質を使って、情報を処理します。 ──0でもあり1でもある、というのがなかなかスッと入ってこないんですよね。 どちらでもあるのです。そんなもの、と思ってもらえれば大丈夫です。 ──この量子コンピューター、性質にはどんなメリットがあるのですか? 従来のコンピューターでは、仮に2桁の0と1で表すと、全ての組み合わせを表すのに4回処理しないといけませんが、量子コンピューターでは1回で表すことができます。このようにして、スーパーコンピューターを凌駕する計算速度を実現しています。 ──難しくは感じていますけど、量子という小さな世界では起こりうるというのがわかりました。いつ頃これは実用化されるのですか? 課題がたくさんありますが、ミクロな世界だけにとても繊細で、エラーが発生する問題があります。でも、藤井教授は「きっと克服できる」と自信を示しています。 大阪大学・藤井啓祐教授「今のAIみたいに、変わるその手前なのだと思います。この10年というのが、本当に面白い進化になると思います。」 実用化されれば、今のAIのように、私たちの世界を大きく変えるゲームチェンジャーになると語っています。 ──このニュースを通じて、内田さんが一番伝えたいことは何でしょうか? たくさんありますけど、まずは研究を続け、未来に投資することです。 量子コンピューターは、様々な分野への応用が期待されていますが、すぐには期待された結果は出ないかもしれません。でも、研究を続けて、技術や人材を育てていく、世界で戦う研究者を後押しすることが私たちの社会の力になると信じています。 ──いま聞いた難しい仕組み、でもそれが、私たちの生活に役立つ未来がすぐそこまで来てる、ということなのですね。【#きっかけ解説】