お笑い「賞レース乱立」のメリット・デメリット 芸人は過労リスク&視聴者の“飽き”問題も

原点は「M-1」  フジテレビと吉本興業が主催する漫才コンテスト「THE SECOND〜漫才トーナメント〜2025」(フジテレビ系)のグランプリファイナル(決勝戦)に進む8組の漫才師が発表された。マシンガンズ、金属バット、モンスターエンジンといった中堅芸人に並んで、芸歴50年超えの大ベテランであるザ・ぼんちも決勝に進んだことが話題になっている。  *** 【写真を見る】“ポスト・ダウンタウン”の最有力候補とは? 「THE SECOND」は2023年に始まった新しい大会である。これに続いて、2025年には「ダブルインパクト」「MXグランプリ」など、続々と新たなお笑い賞レースが誕生している。 「THE SECOND」は、結成16年以上の漫才師を対象とした大会である。「M-1グランプリ」の出場資格を失った中堅芸人たちに新たな光を当てることを目的として始まった。長年腕を磨いてきた実力派芸人による安定感ある漫才が披露され、単なる技術の競い合いにとどまらず、芸人たちの人生やキャリアに裏打ちされたドラマ性も含めて高い注目を集めている。 フジテレビ 「ダブルインパクト 〜漫才&コント二刀流No.1決定戦〜」は、日本テレビと読売テレビが開催する新たな賞レースである。漫才とコントの「二刀流芸人」のナンバーワンを決める大会だ。優勝者には賞金1000万円が贈呈される。現在、予選が進められており、決勝は夏頃に日本テレビ・読売テレビ系列で生放送される。 「MXグランプリ」は、東京ローカル局のTOKYO MXが開局30周年を記念して初めて開催する賞レース。芸人やマネジャーが推薦する型破りな芸人たちがとがったネタを披露する。そんなネタと「激ヤバな個性」が審査の対象になる。夏に特番がオンエアされる。そこではケンドーコバヤシがMCを担当し、人気芸人が審査員を務める。優勝者には賞金100万円が贈られる。  こうした新たな賞レースが次々と生まれている背景には、原点となる「M-1グランプリ」の成功がある。2001年にスタートした「M-1」は、結成10年以内という条件を設けた漫才コンテストとして、年末の風物詩となるほどの社会的影響力を持つに至った。  優勝者やファイナリストたちが次々と全国区のスターになっていき、賞レースの結果がダイレクトに芸人の人生を変えてしまう構造を生み出した。「M-1」によって、賞レースは単なるイベントではなく、「芸人が夢をつかむ舞台」として定着し、お笑い界全体の盛り上がりを牽引する存在となった。  その結果、「R-1グランプリ」「キングオブコント」「女芸人No.1決定戦 THE W」などさまざまな大会が次々に作られていった。そして昨今では、出場資格やネタの形式をさらに細かく分けた賞レースが乱立する時代に突入している。 魅力的なフォーマット  賞レースが増える理由の1つは、テレビ局にとってそれが魅力的なフォーマットだからだ。まず、予選を勝ち抜いた芸人たちが披露する渾身のネタが番組の軸になっているので、ある程度の面白さが保証されている。しかも、勝敗の結果が最後までわからないので、そこで視聴者を惹きつけることができる。  さらに、ドラマチックな展開になりやすい賞レースはSNSとの親和性が高く、放送直後にネタや結果が拡散され、トレンドに上がりやすい。リアルタイム視聴率とネット上での話題性を同時に狙える理想的なコンテンツなのである。  一方、芸人側にとっても、出場機会が増えることは歓迎すべき状況である。「M-1」以降、賞レースは「売れるための最短ルート」となり、若手はもちろん中堅やベテランにも新たな活躍のチャンスが広がった。たとえ優勝できなくても、決勝進出や審査員とのやり取り、SNSでの拡散などによって注目を集めることができるため、出演そのものがプロモーション効果を持つようになっている。  ただし、賞レース乱立にはデメリットもある。大会が増えすぎた結果、視聴者にとっては食傷気味なところもあるし、芸人側もずっと戦いを強いられてしまうことになるため、消耗が激しくて疲れてしまう。また、賞レースが増えることで個々の大会の価値が薄まってしまう懸念もある。  それでもなお、賞レースは増え続ける。なぜなら、「競い合う」という構造こそが視聴者の興味を最大限に引きつけ、芸人の魅力や実力を際立たせる最も効果的な演出だからである。「M-1グランプリ」が切り開いたこの道は、さらに枝分かれしながら、お笑い界の活性化に貢献し続けることになるだろう。 ラリー遠田 1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。 デイリー新潮編集部

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