化粧で健康長寿を伸ばし、介護の予防を 今回は、「化粧」のちからで高齢者の介護予防につなげる取り組みを取材しました。 資生堂が全国で開催している「いきいき美容教室」は、スキンケアやメイクなどを通じて心身機能や生活の質の維持・向上を図るもので、健康寿命を伸ばし介護予防につなげようという取り組みです。 【写真を見る】お化粧で高齢者の介護予防を 化粧を健康長寿につなげる3つのポイントについて、講師を務めた資生堂ジャパンのソーシャルエリアパートナー、平久美和さんに聴きました。 資生堂ジャパン ソーシャルエリアパートナー 平久美和さん 「まず1つ目は『運動』。化粧水や乳液を持ったり細かいアイブロウをペンシルを持って描いたりする行為は、指先から肘、そして肘から肩までの筋肉を使います。その行為は食事をする時の2倍から3倍筋肉を使うと言われていますので、筋肉の維持にまずつながるということがあります。 もう1つは『食事』の面で、食事をおいしくとることは健康で長生きすることに不可欠なんですけれども、化粧で頬を触る時に唾液腺を刺激することができます。そうすることで唾液の分泌をアップさせて食事がおいしく召し上がれる。またそれだけでなく虫歯予防や免疫力アップなどにもつながります。 そして最後に『交流』なんですけれども、化粧をするとやっぱりご自身が美しくなったことで、外に出たくなったり誰かに会ってお話をしたくなったり、そういった気持ちの変化があります。そのことが社会への参加につながって自宅に引きこもってしまうことの予防になります」 今年4月、横浜市の戸部本町地域ケアプラザではこの「いきいき美容教室」が開かれ、20人ほどの高齢者が参加しました。 資生堂の講師がハンドケアや唾液腺を意識したスキンケア法、メイクアップ方法などを指導し、参加者は用意されたメイク道具で顔を仕上げていきます。 ファンデーションを塗る際には、講師が「くーるくーる、ポンポンポン」と声に出して合図する場面もありました。 メイクで心も明るくなったのか、徐々に会話も広がり笑い声も出るなど賑やかな教室となり、参加者からは「すごくキレイになって10歳ぐらい若返った感じがする」「化粧も結構、年取ったら時間かかるようになって苦労しています」などの感想が上がりました。 施設の高齢者もおしゃれをして、新たな交流を 一方、介護施設などに出向いてメイクやネイルなどの美容を施す「ケアビューティスト」を目指す人も増えています。 今回、介護美容のスクールに通う平澤彩さんに同行して、鎌倉市の介護施設「フローレンスケア鎌倉」でメイクの様子を見学しました。 メイクを施す相手は山田成子さん(93)です。 今まで薄化粧をずっとしていたという成子さんは「主人が長生きしましたんでね。しょうがなくて、そのくらいはやってたんですけどね」と笑いながら話します。 今回メイクを受けることについても、他の入居者から「どんなにきれいになるか楽しみー」と期待されていた様子でした。 化粧水や乳液を顔につけるとお肌がしっとりモチモチになったようで、その際「あったかいおててですねー」と平澤さんの手の感触をほめていました。 成子さんはまつ毛メイクをやったことがないということで、マスカラに初挑戦しました。 「本当にかわいらしい。お人形さんみたい!」と周りから歓声もあがりました。 最後に口紅とチークを塗ってピンクと紫の素敵な上品メイクが完成しました。 成子さんは「こんなにやってもらったのは結婚式以来です」と感激した様子でした。 メイク時間は30分ほどでしたが、その間、成子さんとご主人のなれそめの話などで盛り上がり、笑い声が絶えない楽しい時間でした。 お二人のおしゃべりが本当に自然で、成子さんが明るく話す姿が印象的でした。 平澤さんによると、介護美容は美容施術が目的ではなくツールであって、会話をしながら相手と向き合うことが一番大切だということです。 また、耳の遠い人や失語症の人にはホワイトボードを使って会話するなど工夫しているそうです。 平澤彩さん 「あまり変わらない繰り返しの日常の中での『一大イベント』的な感じでワクワクしていただきたいなというのはもちろんあるんですけれども『ただ綺麗になればいい』ではなくて、会話の先に綺麗になった自分がいるというところで満足していただきたいし、ネイルでも皆さんでやると、今まで話したことなかったご利用者様同士でも『見てみて』って言ったら『あなたその色いいわね』とかっていうのがもう当たり前のように自然にポンポン出てきて、そういうところが交流につながったりとか『一人じゃないんだ』とかにつながっていくといいのかなと思いますね」 平澤さんは、メイクのほかネイルアートや音楽活動もしていて「いくつになっても今まで通り、当たり前に美容を楽しめる、そんな世の中を作っていきたい」と話していました。 (TBSラジオ「人権TODAY」担当:進藤誠人)