難病治療にウコンのチカラ、三重大が手術中病理組織診断に新技術発見…がん治療への応用も期待

 難病治療にウコンの力——。  三重大学(伊藤正明学長)の研究チームが、消化管の難病の一つ「ヒルシュスプルング病」の手術中の病理組織診断について、ウコンに含まれるクルクミンによる染色を利用した生体深部観察法の新技術「新規生体蛍光観察手法(CVS—IFOM)」を発見した。従来の手法と違って腸管を切除せず、迅速に病変組織を見つけることが可能で、将来的にはがんなどへの応用も期待できるという。(野崎尉) 腸管の神経欠損  新たな手法を発見したのは、三重大学大学院医学系研究科個別化がん免疫治療学講座の溝口明特定教授、同研究科消化管・小児外科学講座の問山裕二教授、医学部付属病院消化管小児外科学・小児外科長の小池勇樹准教授らの研究チーム。論文は2024年9月、米国外科学会の公式機関誌で、世界最高峰の外科学会誌「Annals of Surgery」に掲載された。  ヒルシュスプルング病は、消化管のぜん動運動(便を押し出す動き)をつかさどる腸管の神経が先天的に欠損しているため、自分で排便することが難しくなる病気だ。健常者の場合、胎児期にこの神経の細胞が食道から小腸、大腸、肛門へと腸の壁内を移動しながら腸管神経叢(そう)(神経のネットワーク)を形成するが、何らかの理由でこの移動が止まってしまうと形成不全となり、発症。病気の型によっては、致死率が15・8〜35・5%にも及ぶ。出生約5000人に1人の発症率で、小池准教授によると、「三重大でも多い時には年間3〜5例の診断がある」という。 手術は腸管切除  治療には手術が必要で、腸管神経叢の形成が不完全な部分を切除し、形成が良好な部分を肛門とつなぐ。形成が不完全な部分を残したままつなぎ合わせると、術後に重症腸炎の発症リスクが高まってしまうという。現在は、手術中に腸管の一部を切除して、どの部分まで神経叢が形成されているかを診断しているが、小池准教授は「1度の診断で30分から1時間かかり、何度か行うこともあるため時間が取られるし、腸の壁自体を傷つけることになる」と指摘する。  どこで切るべきかを切る前に確実に判断できれば、術後のリスクを含めて患者の負担を減らすことが可能だ。多光子レーザー顕微鏡を使えば、腸管の表面から0・5ミリの深さまでの組織細胞を観察できるが、そのためには細胞を蛍光発色させなければならない。だが、染色するための蛍光色素がなかった。 クルクミン  今回、人体に安全な色素を探す中、蛍光を発する物質の分子構造と似た構造を左右対称で持つ天然の食用色素クルクミンが適していることを、溝口特定教授が発見。溝口特定教授によると、実際にカレーを食べると「胃腸の細胞がぴかぴか光る」といい、「クルクミンでお化粧されたみたいになり、細胞の輪郭や核の形も分かる。特に神経細胞やがん細胞が濃く染色されるので、ヒルシュスプルング病だけでなく、直径1ミリ程度の超早期がんの検出も可能になる」と説明する。  マウスでの実験のほか、19年から22年にかけて、生後3か月未満のヒルシュスプルング病患者から切り取った検体で試したところ、約5分で観察でき、腸管を一切傷つけることなく、大幅な時間短縮に成功。従来の方法では分からなかった腸管神経叢同士の連携度合いも評価できることがわかった。  小池准教授は「細胞の核まで入ってしまうと(人体に)影響が出るが、クルクミンは核には取り込まれない。3時間後には発色がなくなるなど代謝も速く、カレーにも入っているので安全だと思う」と強調。問山教授は「通常の顕微鏡だと観察できるのは組織の表面だけだが、多光子レーザー顕微鏡は深さをもって見ることができる。クルクミンによる生体蛍光染色と組み合わせた今回の診断法は画期的」と語った。  今後、人体への影響など様々な側面を検討しながら、機器の開発を含めて研究を進めていく方針だ。

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