大阪・関西万博もJAもやり玉に…「貧困社会ニッポン」で日本人がここまで「中抜き」に敏感になったワケ

大阪万博とJAの共通点は「中抜き」!? 2024年秋、X(旧Twitter)で「米が高すぎる」「備蓄米が放出されたはずなのに安くならない」という声が広がった。 背景には不作や政府備蓄のタイミングがあるものの、SNSでは「農家が安く売っているのに、どこかが中抜しているのでは?」という憶測が飛び交っている。 中にはJAすらも「中抜き」しているのではないか?という投稿も目立っている。 根拠としてあげられていたのは、JAが農家に支払う米の「概算金」だ。たしかに、JAいわて中央の「令和6年産米生産者概算金単価表」によれば、その金額は「ひとめぼれ」で60kgあたり8000円程度にとどまっている。スーパーで見かける5kgあたり4000円台の相場と大きく乖離しているようにも思われる。 実際にはJAはそこから流通や販売などを手がけるため、概算金とスーパーの価格差だけを見て中抜きしているというのは早計である。そのような振る舞いは、「飲食店の原価率は一般に30%程度である」という情報をネットで見かけて、店で「7割引しろ」と詰め寄るクレーマーと変わらない。 他にも、大阪万博の開催費用や広告代理店の手数料、果てはツアー会社のツアー代金までSNSでは「中抜きビジネス」として槍玉にあげられるようになった。 今や、生活必需品から嗜好品まで、商品ジャンルを問わず「中抜き」に対する”アレルギー”が拡大している。 実際に、Googleにおける検索統計サービスの「Google Trends」によれば、「中抜き」というキーワードの検索ボリュームが2020年代に入ってから急増し、足元で最高レベルに達している。 あらゆる中間コストが「中抜き」として見なされる現代。 では、なぜこうした反発が社会に広がり始めたのだろうか。 経済学で読み解く「中抜き」の存在意義 経済学では、あらゆる取引には「取引コスト」が発生するとされるという考え方がある。 身近な例を挙げると、消費者が自ら海外のホテルを予約し、航空券を確保し、現地の交通を調べて手配するのは理論上 可能だが、そのための時間・情報収集・リスク管理にはコストがかかる。 これをまとめて代行してくれる旅行代理店が一定の手数料を取るのは、合理的な経済活動とみなされるわけだ。 最近では「退職代行」のように、新たな代行ビジネスも増加している。退職手続きは自分でもできるため、SNSが糾弾する「中抜き」の典型例ともいえそうだが、今のところそのような批判はあまり見当たらない。 中抜きといっても、消費者が「納得できる」中抜きと「納得できない」中抜きというものがありそうだ。 脳が中抜きに反応する? 行動経済学には、「プロスペクト理論」という概念がある。損失回避の理論ともいわれるが、これは人間が何か得をする時よりも、同じ額の損をすることに対して2倍以上ネガティブな反応するというものだ。 たとえば、消費者は「価格:2万円」と提示される場合と、「本体価格;1.5万円+中抜き:0.4万円」と説明された場合、皆さんにとってどちらが嫌だろうか。 後者の方が総額は安いはずなのに、強く不満を覚える方が多いのではないだろうか。 中抜きが「透明化」された瞬間、それは合理的対価ではなく「奪われた感情」へと変わっていくのである。 「令和の中抜き不信」—国家プロジェクトへの警戒も 情報の透明性が高まることは、一般に良いことだ。 本来は市場の効率化に資するが、行動経済学的には原価が周知されることで、「本来はずっと安いのではないか」という勘違いや、余計なバイアスが入ってしまうデメリットもある。 金額は同じでも、「誰が得ているか」によって納得度がまったく変わる。企業よりも個人転売ヤー、政府よりも広告代理店。見えやすい相手が得をしていると感じた瞬間、人々は“価格の裏側”を憎み始める。 こうした可視化と疑念は、生活レベルにとどまらず、国家レベルの公共事業にも波及している。 2025年の大阪・関西万博でも、同様の疑念がすでに高まっている。 建設費の見積は当初想定の1.5倍に膨張し、2350億円となっていた。「中抜き業者が税金を吸っているのでは」という批判もSNSでは散見される。 現代日本の「再分配不全」という病 そもそも、「中抜き」という言葉は、中間流通における取引マージンを意味する中立的な概念で、ネガティブな言葉ではなかった。 だが現代日本では、「中抜き」が「不要な搾取」「不正な利得」として語られる。その背景には、根深い「再分配不全」があるのかもしれない。 2023年の国民生活基礎調査では、生活が「苦しい」と感じる世帯の割合は54.2%。しかもこの割合は20代〜30代の若年層ほど高く、可処分所得が伸びない中で物価と社会保険料だけが上がっていく構造がある。 本来、税や社会保険料によって行われるべき所得再分配が機能していないと感じるとき、人々の怒りは「制度」ではなく「近くの中間者」に向かう。中間業者の手数料、代理店の報酬。 それらは本来、自分達へ再分配される、または本来取る必要がなかったはずの「余剰」を不当に取っているようにみえるのだ。 中抜きアレルギーは「貧しさ」の裏返し 気づけば私たちは、値札を見るたびに「どこで誰がどれだけ抜いているのか」と詮索する癖を持つようになってしまった。 それは情報リテラシーが高まった証でもあるが、同時に、「誰かが得をしているのが許せない」という、余裕のなさの表れでもある。 すべての中抜きが悪だと決めつける前に問いたい。 その「中抜き」と呼んでいるものは、本当に奪われているだけなのか。それとも、自分が担えないはずの面倒やリスクを誰かが引き受けてくれている対価なのか。 そして自分の仕事も、誰かの面倒を解決する代わりに対価を受け取っているのではないか。 本当に生産者と消費者の直接取引以外が「中抜き」になったら、国民の大半は失業してしまうのではないか。そうなると、日本はますます貧しい国になってしまうだろう。 もちろん、説明もせず、情報を隠し、上前をはねる「信頼されない中抜き」が存在するのも事実だ。だがそれを見極めるために必要なのは、なんでもかんでも「中抜き」と糾弾する姿勢ではなく、より冷静な分析である。 価格を見て反射的に怒る前に、その価格が誰の仕事に支えられているかを想像する力が、貧困社会ニッポンを脱するためのカギなのかもしれない。 【開幕特別レポート】地元記者の大阪・関西万博トホホ体験記…並びに並んでどないやねん!

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