慢性的な肩こりに悩んでいる人の原因が、姿勢や体型、運動不足にないことがある。そんな別の病気が隠れている「じゃないほうの肩こり」の可能性を潰してからセルフケアに望むのが望ましい。 その一つが「脂質異常症(脂質異常症予備軍・高脂質な食生活)」。脂質異常症ではない人に比べ、「背・首・肩の痛み」が頻発するリスク比が「脂質異常症の男性は1・19倍」「脂質異常症の女性は1・23倍」という研究結果もある。 肩専門の整形外科医が世界中の論文をひもとき、年間手術数400超の臨床感とともに導いた新しい肩こりの本 『じゃないほうの肩こり』 (サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。 脂質異常症も「背・首・肩の痛み」をまねく 糖尿病男性ほどではないですが、脂質異常症は男女ともリスクが示されました。 そもそも糖尿病と脂質異常症は「背景となる生活習慣」がほぼ同様です。またどちらの病気も遺伝的要素などさまざまな原因も関係し、病態が複雑な場合があるのも似ています。 糖質や脂質の摂りすぎと運動不足から内臓脂肪が増え、肥満し、高血圧や高血糖、脂質代謝異常につながる。いわゆるメタボリックシンドロームの負の関係性のなかで、個々の体質などによって突出する症状・疾患が異なるわけですが、いずれ両方の疾患を合併していくこともめずらしくはありません。 脂質異常症の全患者の4割は続発性高脂血症といって、糖尿病や甲状腺機能低下症などのほか、腎臓や肝臓の病気、薬の服用が原因で脂質代謝異常が起きるものとされます。こうした一連の流れについて詳しく知りたい方は、「メタボリックドミノ」で調べてみてください。 さらに、血糖値が高くなっても自覚症状は乏しいのと同じで、脂質代謝異常が起きても自覚症状はほぼなく、動脈硬化から狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの重大な合併症が起きるまで気づきづらい。早期発見が大切なのに、難しい点も似ています。 そして、糖尿病の項で、糖尿病によって肩こりが起こるメカニズムとして「インスリン抵抗性が生じる→筋肉や脂肪組織の血流悪化→肩こり」を紹介しましたが、このなかの「脂肪組織の血流悪化」は脂質代謝異常に関係し、インスリン抵抗性をさらに悪化させることが明らかです。(*) (*)Lambadiari, V., Triantafyllou, K. & Dimitriadis, G. D. Insulin action in muscle and adipose tissue in type 2 diabetes: The significance of blood flow. World J. Diabetes 6, 626-633 (2015). 先手を打って未来の健康を守ろう つらい肩こりは「無症状の病気の1つのサインかもしれない」と注意を向けてみるのが賢明です。 健康診断で脂質異常症のリスクを確かめ、脂質代謝異常を起こす生活習慣は見直す。それはメタボリックシンドロームの先にある動脈硬化や高血圧の悪化、脳卒中、認知症などを防ぐための攻めのアクションです。先手を打って、未来の健康を守りましょう。 なお、脂質異常症は、以前は「高脂血症」と言われていました。現在は、血清コレステロールや血清トリグリセライドの異常高値をいう「高脂血症」に加え、HDLコレステロールの異常低値なども含めた総称として「脂質異常症」と呼ばれています。 Case Presentation ▼【 52歳、女性 】 Bさんは40代から産業医に「高脂血症のリスク」を指摘されていました。しかし、体調が悪いという自覚はなかったので、大好きな脂っこい食事をやめる気にはなれませんでした。揚げ物や焼肉が大好物で、週に何度も食べていました。食欲旺盛なことからむしろ、自分の健康に自信があったそうです。 ただし、肩こりにだけは何年も悩まされてきました。セルフストレッチやエクササイズ、姿勢の改善に努め、デスクワーク中も定期的に休憩をとって、肩を動かしていました。 さらに、マッサージや注射、凝りをほぐす薬など、いろいろ探して、すべて試しましたが、ラクにならないため、半ば諦めていたと言います。 つらい肩こりはドロドロ血液が原因!? 52歳となった年の健康診断で「悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が高すぎます。数値は189mg/dl。このままだと心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高い」と厳しく注意され、その後、紹介されたクリニックで服薬治療を開始することになりました。 さすがに危機感を覚え、食生活を見直すことにしたBさん。脂っこい食事を控え、野菜や魚中心の食事に転換しました。すると食生活を改善して数カ月が経った頃、ふと肩こりが軽くなっているのに気づきました。 最初は気のせいかとも思いましたが、しばらく様子を見ていて、肩の重さや痛みが和らいでいると確信。定期受診の際、主治医にそのことを話すと、「高脂血症が肩こりの原因の1つだった可能性があります。 メカニズムはあくまでも仮説ですが、血液中の脂質が多いと血流が悪くなり、筋肉に十分な酸素や栄養が行き届かず、肩こりを引き起こす可能性があるのです」 と説明されました。 「肩こり」は大きな病気のサインかもしれない…症状が見えにくい意外な病気