搾取され続けるサラリーマンは国家に逆襲できるのか 「無税生活」の実現可能性をベストセラー作家が検証

【写真を見る】「兄よりイケメン」 玉木雄一郎氏の弟・秀樹氏 内閣府のホームページから削除 「国民の所得・手取りを増やす」というわかりやすい訴えが広い支持を得て、国民民主党は野党の中でも高い支持率を獲得している。もちろん与党も国民の所得が増えることを願っていないわけではない。多くの人が忘れてしまっているが、岸田前政権では「資産所得倍増」を強く打ち出していた。ただ、支持率を高める効果はなかったようだ。  これも多くの人が忘れたか、知らないかは定かではないが、やはり岸田政権下の2024年6月、内閣府が職員を対象に「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」を実施したこともあった。この時、優勝アイデアのひとつとして選ばれたのは「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする」という提案。副業の推奨は以前からなされてきたが、このアイデアの肝は、会社員が定時以降の残業に関しては個人事業主から副業として受託する、ということ。これによって社会保険料や税金の負担が減り、会社の人件費を増やすことなく“賃上げ”が実現する、という理屈である。 国民民主党の玉木代表  ところがこのアイデア、経済再生担当大臣が表彰したところ、「脱法行為を認めるのか」といった批判を浴びてしまう。一種の炎上に近い事態を招いたため、この提案は内閣府のホームページから削除されてしまった。同じ「所得を増やす」プランなのに、国民民主党のそれとは随分違う扱いを受けてしまったこのプラン、そもそもリクツは正しかったのか、そして批判は正当なのか。 『言ってはいけない 残酷すぎる真実』『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』などのベストセラーで知られる作家の橘玲氏は新著『新・貧乏はお金持ち 「雇われない生き方」で格差社会を逆転する』(プレジデント社)でこの問題について解説している。「搾取され続けるサラリーマンに向けて合法的に『国家に逆襲する』方法を徹底解説」と謳う同書をもとに、検討してみよう。(以下、引用は同書より)  *** なぜこれで収入が増えるのか  この提案に対する主な批判は次のようなものである。 「労働者かどうかは働き方の実態で判断するべきで、仕事の内容も働き方も同じなのに、時間で区切って個人事業主とみなすのは『偽装請負』と同じで労働法を無視している」  これに対して、橘氏は「たしかにそのとおりだ」と言う。少なくとも官僚が出すアイデアとしてはかなり異例のものなのは間違いない。ただし、橘氏はこう続ける。 「怒りの拳を振り上げる前に、なぜこれで収入が増えるのかを考えてみよう」  ここでの視点はあくまでも「損か得か」だ。まずそもそもなぜこの「残業を副業に」で収入が増えることになるのか。以下、橘氏の解説。 「会社員は厚生年金や健康保険などの社会保険に加入している。保険料は賞与や各種手当を含む標準報酬月額に基づいて計算され、労使で折半する。残業代を契約に基づく個人事業主への報酬にすれば、会社は給与の支払いが減り、これによって保険料の算定基準になる標準報酬月額も減るので、その分だけ保険料負担が軽くなる。社員も同じで、収入は同じでも社会保険料の減額分だけ手取りが増える。会社も社員も(ウィン=ウィン)になるのだ。  次に所得税だが、個人事業主は事業に必要な経費を収入から差し引くことができる。一般的には、自宅を仕事場にする場合は家賃や水道光熱費の半額が目安で、スマホなどの通信費や旅費交通費、新聞・雑誌・書籍の購読料なども一定の割合で経費にできるだろう」 節税が可能になるのは  もちろんパソコンや車は経費計上が可能だ。 「それに加えて、青色申告を利用することで65万円の控除が受けられる。これらの経費を足していくと、事業所得(残業代)は赤字になるだろう。事業所得は給与所得と相殺できるので、これで所得税が安くなる。これらはいずれも合法で、『副業のメリット』としてネットなどで解説されている」  提案にあったように同じ職場で定時以降の仕事を「副業」にするとどうなるか。これなら社員はなんのリスクもなく(いつもの残業をするだけで)手取り収入を増やせるし、会社も負担を軽くできる。もちろんここにはウラがあり、この“魔法”は、国が税・社会保険料を取りっぱぐれることで成り立っている。 「そう考えれば、この提案は『国家をハックせよ』とすすめるもので、それを経済再生担当大臣が表彰したというのは、じつはなかなかいい話だと思うのだ(略)  社員の副業には、他の会社に雇われる『雇用型』と、個人事業主として仕事を請け負う『業務委託型』がある。節税が可能になるのは、業務委託型の事業が赤字になり、給与所得と相殺したときだ(雇用型の副業では節税できない)」 どんな副業でも赤字になれば税金が安くなるのか  しかし業務委託型の副業をして、節税となるケース、つまり本人のプラスとなるのはどのようなケースなのか、想像しづらい方も多いだろう。本当に大赤字を生み出してしまったら、節税になるかもしれないが、余計な借金を抱えることにもなりかねないではないか。  橘氏がその「成功例」として取り上げるのが、只野範男氏という人物の手法だ。  只野氏は、実際にこの方法で37年間無税でサラリーマン生活を送ったそうで、そのノウハウを『「無税」』入門』 (飛鳥新社・2007年刊)という本にまとめている。 「只野氏は趣味でイラストを描いており、税務署に開業届を出すことでこの趣味を“事業化”し、収入よりも経費が多い状態にして、損失を給与所得と相殺していた。このことからわかるように、『無税生活』が実現するかどうかのポイントは、損失しか生まない経済行為(というか趣味)が“事業”と認められるかどうかにある」  事業所得として税務署が認めてくれないと、イラストの収入は雑所得扱いとなる。すると給与所得とは損益通算できず、なんの節税にもならない。只野氏は、”事業”かどうかは納税者が自分で決めるもので、税務署に開業届を出して受理されれば、利益があろうがなかろうが事業所得だと、自著で主張している。しかし残念なことに、そんなに簡単に事業所得と認めてもらえるわけではない。  実際、昭和56年4月24日最高裁判決や昭和49年8月29日東京高裁判決に従って税務当局のスタンスは、事業所得とは「社会通念上、事業と認められるもの」でなければならないとして、その判断基準を、「いわゆる本業であって、その利益から生活費を求めるものであるか否か」に置いているという。 「簡単に言うと、趣味は事業所得とは認めないということだ」 「無税生活」が可能だった理由  ではなぜ只野氏に「無税生活」が可能だったのか。橘氏はこう分析する。 「所轄の税務署が事業所得の定義について不案内であったか、還付額が少なく、いちいち問題にするのが面倒だったためだろう。ところがサラリーマンの副業が奨励され、ネット上で只野氏の手法が『サラリーマンの節税術』として広まったことで、税務当局は事業所得の認定を厳しく行なうようになった(略)  もちろん『がんばって働いても利益が出ない』という状況はまあまああることだから、開業当初は、赤字だからといって税務署が細かく詮索することはないだろう。だが赤字をいつまでもつづけ、給与所得と相殺して”無税”生活をしていると、税務署から事業内容を具体的に説明するよう要求される」  つまり、只野氏流の「無税生活」は理論的には可能だが、実現はそう簡単ではない、というのが橘氏の見解。 「社会通念上、事業と認められるもの」であることを十分に主張できないと、雑所得とされ、修正申告することを求められるというわけだ。  与党だろうが野党だろうが、アイデアに富んだ官僚だろうが目端の効くサラリーマンだろうが、誰にとってもマイナスのない“魔法”のようなプランを打ち出すことは難しい。「搾取され続けるサラリーマン」が国家に逆襲を企てるには、かなりの準備や周到な計算が求められそうだ。 デイリー新潮編集部

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