多国間主義の旗は支え続けるべき、米国が既存の秩序に帰ってくる「お座敷」用意も日本の役割…日本国際問題研究所理事長・佐々江賢一郎氏

[危機〜世界経済秩序]インタビュー<11>  日本に輸出する自動車の非関税障壁や農産物市場の開放など、トランプ米政権が問題視するテーマの多くは、日米にとって古くて新しい課題だ。  第1次トランプ政権前から続く潮流が根底にある。今回の交渉は「米国が言ってきたことをどうやってうまくかわすか」が問題ではない。  第2次世界大戦後、米国は自由貿易体制や世界秩序の中心を担ってきた。一方、米国内では自由貿易を重視する考え方と、雇用を重視する立場が常に存在し、政権による重点の置き方はその時々で変わる。  2000年代以降、米国の国力が相対的に衰えると、以前のように寛大に市場を開放しておく余裕がなくなってきた。トランプ政権もこうした基調の上にあり、米国産業、とりわけ製造業の復権という戦略目標は明確だ。  日米の貿易不均衡は1970年代以降、あらゆる分野で交渉が行われてきた。「米国は十分に市場開放しているから、日本も開放しろ」というのが基本的な構図で、トランプ氏も同様だ。  ただ、第2次トランプ政権は関税を武器化し、産業保護の目的のみならず、財政赤字の解消などにも使用している。日本が過去の対米交渉で学んだ方程式が今回も有効かは分からず、短期、中期、長期の時間軸を意識しつつ、戦略的に取り組む必要がある。  現在の交渉では、まず自動車関税を何とかしようという日本政府の対応は正しい。石破首相がトランプ氏に説明したように、対米投資を続けていく方向性も重要だ。  トランプ氏に対抗的な態度を取らない日本の姿勢もプラスに働いている。米国にとって関税措置の天王山は対中国関係にあり、同盟国である日本との間で一定の成果を得た上で、中国に対応したいと考えているように思えるからだ。日本の国益に合致する提案が見いだせれば、躊躇(ちゅうちょ)なく交渉に出すべきだろう。  長期的には、トランプ氏が4年間の任期を終えた後も、「トランプ的なやり方」が続く可能性があることを視野に入れた方がいい。この機会に、本来は日本自身が進めなければならなかった産業改革に向き合う発想もあってしかるべきだ。  国連を中心とした多国間主義など日本の国益にかなうものは、トランプ政権が背を向けたとしても、欧州やアジアと一緒に支え、旗を降ろしてはいけない。米国内でまた揺り戻しがあるかもしれないし、いつか米国が既存の国際秩序に帰ってくるための「お座敷」を用意しておくことも日本の役割だ。(聞き手・政治部 上村健太)  ◆ささえ・けんいちろう=東大法卒。1974年外務省入省。アジア大洋州局長、外務次官などを歴任。2012〜18年に駐米大使を務め、日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加を巡る日米協議などにあたった。18年6月から現職。73歳。

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