XGがコーチェラで証明した「特異性」はアジア発アーティストの「新しいロールモデル」か

先日、アメリカのカリフォルニア州で開催された「コーチェラ・バレー・ミュージック&アーツ・フェスティバル2025(以下、コーチェラ)」に日本人アーティストとして唯一参加し、またSaharaステージで日本人アーティストとして初めてトリを努めた「XG」。 コーチェラ2週目にXの世界トレンドにおいて2位、コーチェラ関連では1位となり、世界的な注目度が高まっている。日本のアーティストとしてかつてない活躍が期待されているXGの魅力の特異性、そしていまの彼女たちの立ち位置について、『スピッツ論—「分裂」するポップ・ミュージック』の著者で、国内外の幅広い音楽の動向をわかりやすく伝えるYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」の「しゅん」としても活動する批評家の伏見瞬さんが解説する。 ヘッドライナー以上に注目されたXG とにかく早かった。あるいは、他が遅すぎたのかもしれない。 XGの海外進出の話だ。 2025年4月11日から13日、および4月18日から20日(現地時間)にかけて、米国カリフォルニア州で2週にわたって開催されたコーチェラ。今回、日本人アクトとして唯一登場したのがXGだった。 13日と20日(現地時間)、Saharaステージのトリとして大観衆の前に現れたXGの7人は、堂々たるステージで会場を沸かせ、YouTubeの配信で観る多数の観客をうならせた。 強風の中でのハードなステージとなった1週目でも完成度の高いダンス&ボーカルパフォーマンスを披露し、天候にめぐまれた2週目では改善を加え、さらに音と動きを洗練させ、XGの魅力をよりダイレクトに伝えた。 その結果、コーチェラ初週にXにおけるXGの関連ハッシュタグは世界5位に入り、2週目においては世界トレンド2位にまで駆け上がった。コーチェラのステージとしては1位であり、メインステージのヘッドライナーだったポスト・マローン以上に注目された。 そして、1週目のコーチェラの後の米国におけるXGのストリーミング回数は71%上昇。XGのプロジェクトの目標である世界進出、具体的には欧米マーケットで活躍するための、足がかりを確実につかんだ。 すでに当日のステージの様子をレポートした記事はいくつか出ているが、ここでは、コーチェラのステージから見えたて、現在の音楽シーンにおけるXGの立ち位置を中心に、話を進めていきたい。 「世界でのヒット」を目標としたプロジェクト 景気実感が上がらず、少子高齢化が加速度的に進行している現在の日本において、ポップ・ミュージックのマーケットは縮小傾向にある。実力と人気を伴ったミュージシャンたちのライブ売り上げが苦戦しているという話もある。 そんななかで、エイベックスはプロデューサーのJAKOPS(Simon Park)とともに2017年にプロジェクト「XGALX(エックスギャラックス)」を開始。グローバルに勝負できるアーティストの創出を目指し、オーディションとレッスンを通して、約5年間にわたりXGを育成する。2022年のデビュー後の施策も、すべて「世界でのヒット」という目標が念頭にあった。コーチェラに至るまでに、8年の月日を重ねているのだ。 J-POPの世界進出という話はここ2、3年間でよく聞く話題になったが、XGのプロジェクトはとにかく早かった。よく言われている通り、メンバー7人は全員日本国籍だが、「日本のグループ」とは形容しきれない。XGは、厳しい育成期間を経てポップシーンに送り込むK-POPのスタイルを踏襲したグループであり、活動拠点も韓国を中心としている。YouTubeで公開しているドキュメンタリーを見れば、非常に険しいレッスンがオーディションメンバーに課されていたことがわかる。 ダンス・歌唱・ラップに対するダメ出しはもちろん、それぞれのマインドセットや発言に対しても厳しい言葉をメンバーに投げかける。チームワークのあり方やソーシャルメディアとの付き合い方も細かく注意する。数年レッスンを続けた後でも、プロジェクトからメンバーを外すつらい決断を下す。選択と排除の場に継続的に立たされる痛みが、画面上からも伝わる。このような育成の方法は、JAKOPS自身もパフォーマーとして通過してきた、韓国の音楽業界で形成されたものだ。 「J-POPでもK-POPでもないX-POP」の特異性 JAKOPSは、「J-POPでもK-POPでもないX-POP」とXGのコンセプトを説明している。拠点と活動スタイルは韓国、所属事務所とメンバーの出身地は日本、楽曲リリックは英語という、マルチカルチュラルな様相を呈する。その点でXGは特異なグループであり、類するグループは他に見当たらない。 サウンドは、米国のヒップホップとR&Bを通過したもの。K-POPの影響も感じさせるが、音数や曲構成がよりミニマルなのが特徴だ。メロディアスな楽曲でも、ドラマティックな展開はもたず、クールな印象を与える。楽曲の点でもXGは、曲構成の複雑なJ-POPとも、EDM的な盛り上がりを駆使するK-POPとも、違う様式を有している。 メロディ要素がほぼない「WOKE UP」のようなハードなラップソングもXGは披露するし、デビューシングルである「Tippy Toes」からして、起伏を抑えたミニマルな楽曲だった。ポップマーケットであまり流通していないタイプの楽曲をヒットさせているのがXGのさらに特異な点だ。彼女たちは、高度なダンスとラップのスキルで楽曲に魅惑的なアクセントを加え、ポピュラー音楽の壁を突破する。長年の訓練に裏付けられた確かな技術によって、広く人々にアピールする。 日本人だけどJ-POPではない、韓国拠点だけどK-POPではない、グローバルに通用するX-POP。そのコンセプトは、楽曲の構造やサウンドデザインだけでなく、英語の響きへのこだわりにも通じる。XG7人の歌唱やラップにおける英語には、発音の流暢さや、音に対する言葉の詰め方に並々ならないスキルを感じる。 たとえば「IYKYK」の、「Tell me if you wanna ride/Faster than speed of light」というフレーズは、何気なくリラックスして歌っているように聞こえる。だが、マネして口に出してみると、一音に対する言葉の量が多く、日本語話者にとっては歌うのがかなり難しいフレーズであることがわかる。 JAKOPS曰く、口の空間における舌の位置や、「R」と「L」の違い、「E」と「I」の違いなど、細かくトレーニングを積んだという。さらには、5年ぐらいずっと日本語の曲を聴くことを禁止にして、耳の感覚から変えようと努めた。日本語発音にはない、細かいくアタックのニュアンスへの意識があるから、XGの曲は日本のアーティストとは違って響く。 「日本」のイメージを取り入れるように しかし、英語へのこだわりを持っているとしても、XGはアメリカのメインストリームを踏襲するグループとも言い切れない。指先までコントロールの行き届いた、7人全員が正確にシンクロナイズするダンスのスタイルは、もちろんK-POPが大きなマーケットを築くまでに獲得したものの延長だろう。 さらに、近年になってXGは、J-POPの遺産を受け継ぐ作品も発表するようになった。2024年10月にリリースした「IYKYK」は、m-floが2001年にリリースした「Prism」をサンプリングしている。m-floは、2000年代初頭に2ステップのような先進的なダンスミュージックのスタイルをポップソングに導入したグループである。JAKOPSは元々m-floの大ファンであり、J-POPを1つ先前に進めたm-floの楽曲を、「IYKYK」でさらに更新させた。 加えて、「Howling」のMVでは、『もののけ姫』を想起させるような動物的なスタイリングを見せ、コーチェラで初解禁した「SHINOBI (DANCE BREAK)」では、日本的な大きな襖の映像をバックに、白い仮面を駆使した武術的なダンスを披露した。日本人であることを背景としたイメージ表現を、取り入れるようになってきているのだ。 ファッション界からもビジュアルに熱視線 7人それぞれのヴィジュアル表現の面でも、XGは注目されている。Vogueが発表した「コーチェラ2025で目撃された、最も刺激的なビューティールック」において、Lady Gaga、Tyla、LISAなどのグローバルスターと並んで、JURINとCOCONAが選出されたのだ。 ジュリンは「まるで別世界の存在のような鮮やかなブルーのアイシャドウをまとい、エイリアンに着想を得たグラマラスなメイクで観客を魅了した」と評され、ココナは「ブリーチしたベリーショートに、鋭角的なサイドシェーブを加えてスパイスを効かせていたが、真の主役は目元を華やかに彩る緻密でジュエリーのようなメイクだった」と書かれている。メイクアップやファッションスタイルにおいても、彼女たちは注目されている。しかも、グループ全体の印象だけでなく、メンバー個々の個性にも、注目が集まり始めている。 XGのプロジェクトは、明確なコンセプトをスタート地点に、早い段階で世界進出に標準を絞り、ストイックなレッスンと高品質のクリエイションを持続する中で、コーチェラのステージへと辿り着いた。コンセプトの力と、早いアクションと、継続的な鍛錬の3点が集中したことではじめて、グローバルマーケットに届くに至った。 XGは、韓国や日本だけでなく、アジア出身のパフォーマーが今後活躍するための、ロールモデルとなりつつある。道なき場所を進む意志と執念を持った存在が、いつだって誰よりも遠くまで飛べることを、XGはコーチェラという舞台で示すことに成功したのだ。 進むJ-POPのグローバル化。海外で日本のアーティストの活躍が加速している理由

もっと
Recommendations

【4月28日の天気】西から天気下り坂 全国的に雨具の出番

きょう(28日)は西から天気が下り坂へと向かい、全国的に雨具の出番…

大の里は東の正大関、連続優勝&綱取りに挑戦…夏場所の番付発表

大相撲夏場所(5月11日初日・両国国技館)の番付が28日、日本…

トルコ現地取材はなし 入管法の欠陥、地域住民の不安も取り上げず…NHK「川口クルド人特集」が犯した重大な過ちとは

2025年4月5日夜、NHK Eテレにて「フェイクとリアル川口クルド人…

引用発言の「8割」をクルド人側論者が占め…NHK「川口クルド人特集」は何が問題だったのか 難民政策の専門家が感じた“政治的意図”とは

2025年4月5日夜、NHK EテレにてETV特集「フェイクとリアル川口…

ドジャース大谷翔平、きょうも長打…182キロの痛烈な当たりに笑顔はじける

米大リーグ・ドジャースの大谷翔平は27日(日本時間28日)、本…

通算200勝は見られるのか…ストレート打たれまくり“大炎上”で二軍降格の「田中将大」 復活の「必須条件」をアナリストが分析

毎年多くの新星が登場するプロ野球の世界。今年もルーキーの宗山塁…

中園ミホ氏は「あんぱん」ヒロインをなぜ「教師」にしたのか 戦前も戦後も地獄をみる「逆転する正義」

教師ののぶは地獄を見る朝ドラことNHK連続テレビ小説「あんぱん」の…

こんなことされたら思わずスマホを「破壊」してしまいそうだ…「雑音」は「徹底的に排除」すべし!

メールやSNSをはじめとして、仕事でもプライベートでも文章を書く機会…

搾取され続けるサラリーマンは国家に逆襲できるのか 「無税生活」の実現可能性をベストセラー作家が検証

【写真を見る】「兄よりイケメン」玉木雄一郎氏の弟・秀樹氏内閣府…

トランプ氏とゼレンスキー氏が会談 プーチン氏は「口撃」でイラつかせる?

トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は26日、バチカ…

loading...