大阪府八尾市の集合住宅で2月、コンクリート詰めにされた女児の遺体が見つかった事件で、女児は職権消除の手続きで住民票を抹消された後、どの市町村にも住民登録されていなかった可能性が高いことが府への取材でわかった。 約2年後、所在未確認のまま事件に巻き込まれたとみられる。事件発覚から28日で2か月。府は各市町村に所在不明児の安否確認の徹底を要請し、対応状況を調査している。(川本一喬、藤岡一樹) 祖父が要請 亡くなったのは当時6歳の女児。2000年に生まれ、母親が八尾市に出生届を提出した。女児と母親は02年頃、同市の祖父宅に転居した。八尾市は出生届に記載された転居前の住所に郵送した書類が宛先不明で返送されたことから、02年5月から住民基本台帳法に基づき、居住実態を調査。出生届の住所に女児と母親は住んでいないと判断した。 その後、女児らの祖父宅への転居が判明し、住民票の変更を促す書類を送ったところ、03年1月、祖父が同市を訪れ、「女児の母親の事情で住民票を移せない」と説明。04年6月には「女児らがいなくなった」として住民票の抹消要請があり、同市は同年9月、職権消除の手続きを取った。 八尾市は「当時の対応に瑕疵(かし)はなかった」とした上で、住民票の抹消前に女児の所在を確認したかについては「記録は残っていない。居住実態の調査はあくまで住民票の住所が対象だった」としている。 病院を受診 だが、府警の捜査で、女児は05年3月に八尾市の病院を受診していたことが判明。親族から捜索願(現・行方不明者届)は提出されておらず、06年10月頃には大阪市平野区の集合住宅に住んでいた叔父の飯森憲幸被告(41)(死体遺棄罪などで起訴)に引き取られていた。 飯森被告は06年12月〜07年1月の間に自宅で女児を蹴るなどして死亡させたとして、傷害致死罪で今年4月に起訴された。府警は、女児が住民票の抹消後も祖父や叔父の自宅で暮らしていたとみている。なぜ祖父が住民票の抹消を要請したのかはわかっていないという。 府によると、女児は住民票を抹消された後、どの自治体からも住民票が登録されたとの情報がなく、未登録だった可能性が高いという。 NPO法人「児童虐待防止協会」の津崎哲郎理事は「当時は住民票があるのに行方が分からない子どもを自治体が積極的に調査することはなく、所在が未確認でも住民票を削除するケースが多かった。住民票があれば、通知などで安否確認のきっかけになっていたかもしれない」と語る。 情報共有徹底へ 今回の事件を受け、府は今年3月28日、15年に出された国の通知に基づき、職権消除を行う際、住民票が未登録の状態にならないよう関係部門間や自治体間で情報を共有することなどを市町村に改めて要請した。職権消除後に所在不明となっている可能性がある子どもの有無や、庁内の情報共有体制の整備状況について報告を求めた。 八尾市は「国の通知後は子どもが所在不明なら調べ、それでも分からなければ警察に相談する」と説明。府の要請を受け、「職権消除をする際、担当部署と福祉や教育などの部署の連携を改めて徹底する」としている。 児童福祉司として児相での勤務経験がある東京通信大の才村純名誉教授(児童福祉論)は「自治体ごとの対応の差によって救われる命と救われない命があってはならない。国が職権消除の手続きについて指針を設けるべきではないか」と話している。 ◆職権消除=市区町村が職権で住民票を削除する手続き。住民基本台帳法では、行政サービスなどが適正に行われるため、台帳上の住所で居住実態を確認できない場合、本人の届け出がなくても自治体が削除すると規定している。