「波と共に生きる」、サーファーにとって理想の暮らしが、そこにはあります。人口減少に悩む自治体が打ち出した「サーフィン移住」。海辺に移り住む人々に密着です。 【写真を見る】全国屈指のサーフスポットで「波と共に生きる」 サーファーの夢×地域の願い 人口減少に悩む自治体が仕掛ける“サーフタウン構想” 愛知・田原市 愛知県田原市は全国屈指のサーフスポット 愛知県の形をカンガルーに見立てると、後ろ脚の部分にあたる渥美半島の田原市。年間を通じて温暖で、全国屈指の生産量を誇る農業の街ですが、もう一つの顔も。 それは全国屈指のサーフスポット。渥美半島の南側は全面、太平洋の外海に面しているため、年間を通じて程よい波が打ち寄せ、来年のアジア大会でもサーフィンの競技会場になる予定です。 取材した2024年10月、この日もサーフィンの大会が開かれ、全国からサーファーが集まっていました。 (サーファー:10代女性) 「湘南から。(田原の海は)波がでかい、乗りやすかったです」 (サーファー: 50代男性) 「僕、三重なんですけど、いつもここのホームで入ってるんですよ。(来るのに)2時間ぐらいですかね。どっぷりサーフィンにつかっちゃって、楽しくてしょうがないです」 (サーファー:70代男性) 「毎週来ています。こっちにある民家を借りて、友達6人で借りてるから楽しい週末を送っている」 “救命士サーファー”40年愛した波を求めて そんな田原の波に魅せられた人はここにも。愛知県豊明市に住む加藤正光さん(59)。自宅の小屋には、サーフボードがずらり。 (加藤正光さん) 「多いときには週に2回とか3回。仕事の関係上、お休みが多いので結構行きますね」 「(仕事は)救急車に乗っています。救命士で。仕事を終えて、そのまま行くと大体お昼ぐらい」 Q夜勤明けにも行く? 「行っちゃいますね、波のある日は」 この日も車にサーフボードを積み込んで出発。田原市のビーチまでは車で約2時間です。 (加藤正光さん) 「高校3年の夏。高校球児からサーファーに転向した」 サーフィン歴40年以上。ここの波は、いまや体の一部です。 (加藤正光さん) 「(田原の海の魅力は)このビーチラインでしょうね、綺麗だし。バラエティに富んだ波があって良い」 サーフタウン構想で地域の活性化へ サーフィンの後、加藤さんが向かったのは建築中の新たな我が家。往復4時間が惜しくて移住を決めたのです。 (加藤正光さん) 「見に来て『ここ』って妻が。『ここいいじゃん、ここ』って」 海までは歩いて5分。すぐそばには展望台もあります。 (加藤正光さん) 「たまらないですよ、これが庭だと思うと」 加藤さんが家を購入したのは、地元・田原市が開発を進める「サーフタウン」。 人口減少が続く田原市が、外から移住者を呼び込むために9年前に始めたプロジェクトです。 (田原市 山下政良市長) 「海を利用した何か活性化に役立てられるものがないかということで、サーフィンや釣りをここでやってもらおう。そんな簡単なことがスタートだった」 田原市が進める「サーフタウン構想」に基づき分譲が始まった住宅地「LaSea-THE SURFTOWN TAHARA-」は、白を基調としたカリフォルニア風で全25戸。津波対策として、海抜28m~33mの高台に作られています。「サーフィンの街」として地元の活性化を目指します。 (田原市 山下政良市長) 「渥美半島は三方を海に囲まれているので、海を介して人生を楽しんでもらう。それで楽しんでもらって『住みたいな』という気持ちになってもらえたら非常に嬉しい」 “看護師サーファー”理想の生活スタイル 田邊由美さん(58)はそんな「サーフィン移住」をした一人。1日はもちろん波とともに始まります。午前9時過ぎ、朝食を食べたら、すぐに海へ。仕事は看護師で、この日も勤務があると言いますが…。 (田邊由美さん) 「(きょうは)夜勤前なので、軽くしか入らない。夜勤前は最低3本乗れれば良しとしているが、5本くらいは乗りたい」 波乗りが最優先の暮らしです。 (田邊由美さん) 「(田原の海は)一年中コンスタントに楽しめる。ビギナーからエキスパートまで楽しめる、良い波だと思います。(サーフィンをすると)アドレナリンが出ているのか、そのまま良い感じで、テンション高いまま仕事に臨める」 サーフィンが終わったら、今度は…。 (田邊由美さん) 「家庭菜園です。こっちに来たら農業が盛んだし、美味しいから自分でも作りたいなと思って」 遊休農地を借りて、マンゴーやパッションフルーツなどを育てているほか、自宅で烏骨鶏も飼育しています。 (田邊由美さん) 「名古屋に住んでいる時は、波が良くても(時間がなくて)泣く泣く帰ったこともあった。だけど今は、良いじゃんと思う時にさっと入れる。夕食を作っている時も波情報を見て良いじゃんと思えばすぐに入る。やりたいことがすぐやれるのは、自分にはすごく合っているなと思います」 サーファー仕様の「夢の家」 (加藤正光さん 2025年3月) 「いやぁ素敵ですよね。自分で言うのもなんですけど。どうですか、この玄関ドアの色」 豊明市からサーフタウンへ移住を決めた加藤さん。家が完成したということで見せてもらうと…。 (加藤正光さん) 「玄関入ってここが土間。ボードもそのまま置けるし、ウエットスーツも吊せる」 大きく開く窓が特徴的なロフト付きの家。家の裏の屋外シャワーから、お風呂に直行できます。 そんな加藤さんの家には「サーフィン移住」に憧れる人たちが見学に。 (見学者) 「サーファーに住みやすい家って、なかなかないので、うらやましい。仕事が街中なので通うのは難しいから、名古屋に住んで、週末こっちに来ているが、いずれ海辺に住みたいという希望はずっとある」 「海辺の暮らしをイメージして作られた住宅がとても素敵で、わくわくしました。僕は田原市に住んでいて、セカンドハウス的なイメージで」 加藤さんは定年したら、ここへ引っ越す予定です。 (加藤正光さん) 「僕にとってサーフィン移住というか、田原市に来ること自体が1つの夢だったので、夢が1つ叶ったのかな。これからより波乗りが楽しめるかな」 波と生きる海辺の暮らし。ゆったりした時間が、そこにはあります。