ダブル鈴木の関係性が住民にバレた「ある計画」 静岡県の鈴木知事は、スズキへの補助金返還を求める住民訴訟で43.5億円の賠償を求められている。訴訟は、知事が浜松市長時代にスズキに交付した補助金が、公正な理由もなく行われていたという疑いがあるためだ。鈴木知事は、昨年12月に亡くなったスズキの相談役、鈴木修氏を慕っており、深い関係があったことが影響しているとされる。 ダブル鈴木の関係を象徴するのが、静岡県が計画する、浜松市の遠州灘海浜公園の「大型ドーム球場」建設である。 事の発端は2014年夏にまでさかのぼる。 始まりは、鈴木修氏の要請を受けた鈴木康友市長が遠州灘海浜公園に大型野球場建設を静岡県に陳情したことだった。 海浜公園は遠州灘に隣接して、南海トラフ地震の津波による浸水地域に当たる。鈴木市長の陳情を受けた当時の知事・川勝平太氏は「防災施設としての野球場ならば県が費用を出すことに県民の合意が得られる」という無理無体な理屈をつけて、翌年度予算に調査費3千万円を計上した。 浜松市が9ヘクタールの土地を購入し、上物の野球場を県が建設する「共同建設」方式という不思議な計画が、川勝知事の独断でスタートした。 それを受けて、静岡県は2016年5月、野球場を核とする「遠州灘海浜公園」基本構想を策定。野球場建設に150億円から180億円、公園全体で210億円から250億円を見込んだ。当然、名目は「防災・スポーツエリア」と位置づけた。 その直後に、鈴木市長が「新球場完成後に現在の浜松市営球場を廃止、隣接する市営陸上競技場を第1種陸上競技場に整備する」構想を発表。サブトラックを有する第1種陸上競技場ならば、日本陸運が主催する世界大会などを開催できる。浜松市営球場跡地をサブトラックにする計画である。 破綻寸前の野球場建設計画 鈴木市長の発表で、県による新野球場建設が日本有数の陸上部を有するスズキへ「利益誘導」するための計画だと、市民の多くが初めて知ることになる。 地元浜松で国際陸上大会を開催したい鈴木修氏の「悲願」を実現させるために鈴木市長が奔走したわけである。鈴木修氏は遠州灘海浜公園に野球場建設させるために、5億円を寄付した。しかし、野球場建設が遅々として進まないとみると、「野球場をつくらないなら寄付した5億円を返せ」とまで口にした。 鈴木修氏は野球場建設に支援しているかのように見えるが、実際は、一日でも早く、陸上のための第1種陸上競技場の建設を進めるよう求めていた。 しかし、その立地に不都合な条件等が次々と明らかになり、そのまますんなりと“ダブル鈴木”の思惑通りに計画は進んでいないことは、現代ビジネスで何度も紹介している。 昨年5月の知事選で、大型ドーム球場建設を公約として当選した鈴木知事だが、今では、大型ドーム球場建設推進を口にすることがなくなった。 さらに、今年3月31日に国が発表した南海トラフ巨大地震の被害想定では、遠州灘海岸の防潮堤は破壊され、海浜公園そのものが水没してしまう予測が立てられ、計画は泥沼に陥っているように思えた。 他にも問題は山積みだ。日本有数の産卵地として知られる遠州浜のウミガメ保護を訴えるNPOや南海トラフ巨大地震の津波来襲による「人命軽視」を怒る浜松市民は大型ドーム球場建設の絶対反対を唱えているのだ。 いまや浜松市民だけでなく、多くの県民が強い疑問を抱いている。一方の、鈴木康友知事は、「おやじのような存在」鈴木修氏の遺志をかなえることができるのかどうかの瀬戸際に立たされている。 窮地に立たされる鈴木康友知事 鈴木康友知事からすると泣きっ面に蜂のことがもう一つ。スズキに43・5億円の補助金返還を求める住民訴訟も大詰めを迎えようとしているのだ。 4月17日静岡地裁で開かれた口頭弁論では、前回焦点となったスズキの鈴木俊宏社長の証人尋問を行うかどうかについては先送りされた。 今回は2019年6月の国交省の再発防止勧告とスズキの34・5億円補助金申請がほぼ同時期に行われた位置づけについて、さらに詳しい準備書面の提出が被告側に求められた。 いずれにしても、43・5億円の損害賠償が鈴木知事に回ってくる事態になれば、「おやじのような存在だった」と故鈴木修氏に感謝するような悠長なことは言っていられないだろう。 43.5億円の賠償を求められる鈴木静岡知事…スズキ株式会社の元会長とのただならぬ関係