竜王戦七番勝負佳境へ…「対応力」の藤井聡太竜王と「工夫」の佐々木勇気八段、ハイレベルの戦い

 藤井聡太竜王に佐々木勇気八段が挑戦する第37期竜王戦七番勝負は第3局を終えて、藤井竜王が2勝1敗で先行した。  このまま藤井竜王が4連覇を果たすのか、佐々木八段が初タイトル獲得に向けて巻き返すのか。各局の立会人らが戦いの軌跡を振り返るとともに、第3局を担当した福崎文吾九段と畠山鎮八段がシリーズ後半戦を展望した。(東京文化部 星野誠、大阪文化部 渡辺達治) 立会人、新聞解説の棋士が見た第1〜3局 第1局…正確な指し手、安定感光る藤井竜王  森内俊之九段 佐々木八段にとっては、2日制タイトル戦の初対局でした。普段以上に慎重で前半戦に持ち時間を投入し、思う存分に考えて力を出した。最後は残り時間が切迫してしまいましたが、非常に気持ちを込めて精度の高い手を指されていましたね。  松尾歩八段 神経を使う受け身の展開で、辛抱の時間が続きました。そんな中でも大きく離されずに付いていき、ギリギリの勝負に持ち込んだ。この2人ならではのハイレベルな指し手を見せていただきました。  森内 一方の藤井竜王は、すごく正確な指し手を積み重ねていました。判断の難しい場面も多かったと思いますが、安定感のある指し回しが光りました。  松尾 最終盤で佐々木八段が香の利きに△2五桂と打って▲2五桂を防いだのに対し、取らずに▲1七桂(第1図)と打ったのが格好いい決め手でした。他の手でも先手有望かもしれませんが、最も速い勝ち筋を見つける計算スピードはさすがです。 第2局…研究で主導権、佐々木八段快勝  深浦康市九段 挑戦者が練りに練った矢倉戦に誘導しました。佐々木八段にとっては公式戦で経験のある形で、後手の藤井竜王は居玉のまま戦うことを強いられた。その差が勝敗につながったと思います。  大橋貴洸七段 将棋の流れとしては佐々木八段の持ち味がよく出た一局でしょう。事前研究でペースを握って、的確な指し手を続けての快勝でした。  深浦 藤井竜王が終盤で繰り出した△5二桂(第2図)には感心させられました。粘りの手の一種ですが、「もうちょっといい局面があったのではないか」と相手に考えさせる効果がある。私自身のタイトル戦で、羽生善治九段にああいう手を何度も指されたことを思い出しました。  大橋 本局の藤井竜王は攻め合うというか、後手番ながら積極的な手順を指していって、ちょっと裏目に出てしまった印象です。ただ、終盤は苦しいながらも勝負手を重ねて、容易に土俵を割らない指し回しが印象に残りました。 第3局…予想外の戦型にも屈せぬ研究力  福崎文吾九段 居飛車党の佐々木八段が、角交換振り飛車の戦型を選んだのには驚きました。  畠山鎮八段 佐々木八段が居飛車相手に飛車を振るのは7年ぶりだといいます。この戦型になると藤井竜王は予想していなかったはずですが、研究はしてあった。さすがです。  福崎 そうですね。31手目▲6八玉(第3図)に、僕はびっくりしました。一時は7八に寄った玉を6筋に戻す手。手損で致命傷になるおそれがあり、調べておかないと絶対に指せません。藤井竜王は7分の考慮で指した。AI(人工知能)の評価値もほぼ互角でした。  畠山 ▲6八玉に替えて▲8八玉△7二金だと、後手に9筋を突き越されていることが不満なのかもしれません。佐々木八段が途中までリードを奪い、残り時間でも有利でしたが、藤井竜王は決めにきた相手のわずかな勇み足を見逃さず、緩急で揺さぶって勝ちきった。佐々木八段にとって、対抗形の終盤、決めにいく間合いが難しかったと思います。 15日から第4局…シリーズ後半戦展望  藤井竜王は第1局で佐々木八段の研究手順を不発に終わらせ、第3局では角交換振り飛車という予想外の戦型に苦しめられながらも終盤の隙を突いて、それぞれ勝ちにつなげた。佐々木八段は先手番で矢倉模様の意外な作戦を仕掛け、竜王の強気な攻めをはね返して第2局に快勝した。  初のタイトル戦に意欲的な作戦で挑む佐々木八段について、福崎九段は「AIの手よりも、自分で棋理を追究するタイプ」と話す。初戦は時間を使い過ぎて終盤に苦しんだが、第2局から修正した。  藤井竜王は終盤に強みがあるだけに、相手の意外な仕掛けにも序盤はついて行こうとする姿勢が見える。「挑戦者と読み筋が合わず、着手前の確認作業に時間をかけているように映る」と、福崎九段は指摘する。  勝ち星で藤井竜王が一歩リードしているが、畠山八段は「全体的に見て、藤井竜王側に傾いた内容ではない。何をやってくるか分からない佐々木八段に、竜王は警戒心を持ったかもしれません」と語る。  第4局で藤井竜王が勝てば、4連覇に向けて一気に加速する。佐々木八段が勝利すれば、シリーズはもつれそうな雰囲気になる。福崎九段は「佐々木八段が次局以降、どんな工夫を見せるか。竜王がそれをどう阻むか。どのくらい時間を残して終盤を迎えられるかも含め、それらがカギになると思います」と予想する。  今シリーズの行方を左右する第4局は15、16日、大阪府茨木市の複合施設「おにクル」で行われる。 名産品に舌鼓…あわら対局「勝負めし」公募、計38品用意  竜王戦初開催となった福井県あわら市の第2局では、“食の宝庫 あわら”をアピールしようと、勝負めしを公募し、対局のために開発された新作を含む計38品が用意された。  同市はイチゴやカキなど様々なフルーツが年間通して実り、近隣の三国港(坂井市)で水揚げされる海産物もそろう。対局実行委員会は、対局者が食べる昼食やおやつ、ドリンクを同市内の飲食店などを対象に公募し、準備を進めてきた。  厳選メニューから両対局者がともに食べたのが越前おろしそばだ。冷たいそばを辛味のある大根おろしと一緒に食べる福井名物で、藤井竜王が1日目、佐々木八段は2日目に堪能した。  佐々木八段は4度あるおやつに、特産のサツマイモ「とみつ金時」を使ったチーズケーキを4連続で注文し、強烈な印象を残した。  立会人の深浦康市九段は17年前、王位戦七番勝負で同地を訪れた。「当時と比べて、勝負めしへの関心が非常に高くなっている。竜王戦を通して、福井県やあわら市の魅力が全国に伝わるといい」と話していた。 主  催=読売新聞社、日本将棋連盟 特別協賛=野村ホールディングス 協  賛=東急グループ、UACJ、旭化成ホームズ、あんしん財団、日本中央競馬会

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