三菱商事「洋上風力発電」の大誤算、そして慌てる経済産業省⋯インフレと円安だけではなかった「失敗の本質」

三菱商事「洋上風力撤退の可能性」で激震 再生可能エネルギー普及の「切り札」と期待される、洋上風力発電の先行きに暗雲が垂れ込めている。 政府が2021年12月に秋田県沖など3海域を対象に実施した洋上風力プロジェクト第一弾入札で、3件全てを落札した三菱商事は、インフレや円安によるコスト増を理由に2024年4-12月期決算で500億円を上回る減損損失を計上。追加損失も懸念される中、中西勝也社長は「計画をゼロベースで見直す」と、事業からの撤退も辞さない姿勢を示唆した。 慌てたのが経済産業省・資源エネルギー庁だ。プロジェクトが頓挫すれば、2月に閣議決定したばかりの新たなエネルギー基本計画の目玉、再エネ拡大目標が「絵に描いた餅になりかねない」(エネ庁幹部)。 そこで、第一弾入札の公募指針を3年以上もさかのぼって “変更” し、三菱商事がコスト増分を売電価格に転嫁できるようにする、姑息な「救済策」(大手電力幹部)をひねり出した。事業撤退が回避されれば、経産省の体面は保てるが、利用者は高い電気を買わされるハメになりそうだ。 「どうあがいても採算が合わない」 三菱商事を中心とする企業連合が落札した3海域でのプロジェクトは、総事業費1兆円規模、発電容量は計170万キロワット超という大型案件だ。 「総取り」の決め手となったのは、大手電力などライバル陣営に比べ、大幅に安い売電価格を提示したことだ。国から上限価格29円/キロワット時を示された中、三菱商事は11〜16円台と、圧倒的なコストパフォーマンスを見せた。 当時、中西社長は「(他社とは)一味も二味も違うノウハウで採算が取れる値段を算出した」と勝ち誇っていたが、入札が固定価格買い取り制度(FIT)を前提とする公募指針の下で実施された点に、落とし穴があった。発電事業者は地域の電力会社に固定価格で20年間電力を売ることができる一方、相対取引などで応札価格より高値で売電することはできない仕組みだ。 ここ数年の世界的なインフレと円安で、事業環境は一変した。資材価格の高騰で風車の価格は落札時から2倍近くに跳ね上がった。建設費や稼働後の運用コストも当初見込みから大きく上振れするのが確実となり、「どうあがいても落札価格では採算が合わなくなった」(三菱商事幹部)。 業界で「最終的な損失は数千億円に達するのでは」との見方も出る中、FITに縛られ、膨らむコストを転嫁できない三菱商事は、恥を忍んで事業からの撤退を検討せざるを得ない状況に追い込まれていた。 公募指針「遡及変更」の裏側 事態が急展開したのは3月10日。この日開かれたエネ庁と国土交通省の有識者会議で、当局側から突如、過去に落札された海域に関する公募指針を見直す案が示された。 エネ庁風力政策室の幹部は「三菱商事など特定の企業を対象にしたものではない」と強弁したが、第二弾以降の公募入札はFITの制約を外して落札価格を上回る高値でも売電できる仕組みを採用しており、遡及変更の狙いが三菱商事の救済にあるのは誰の目にも明らかだった。 第一弾入札で惨敗した大手電力などライバル陣営からは、「後出しじゃんけんだ」「入札の公正さが疑われる」などと不満が噴出している。 洋上風力推進策がこんなぶざまな姿を晒した背景には、経産省のルール設計の甘さがある。 2018年に成立した洋上風力の活用を促進する法律「再エネ海域利用法(通称)」の策定を議論した審議会では、有識者から「洋上風力を持続可能な形で発展させるには、先進地域である欧州の経験に学ぶことが大切」との声が出ていた。 今や洋上風力のトップリーダーである欧州各国も、2000年代初頭には政府が価格競争を煽り、発電事業者や風車メーカーに過度なリスクを負わせた結果、採算が合わなくなり、撤退したり、倒産したりするケースが相次いだからだ。その後、欧州各国は落札価格に下限を設ける「最低制限価格」などを採用し、洋上風力の安定的な整備を進めた。 にもかかわらず、日本の入札ではこの仕組みが採られなかった。経産省が難色を示したためだ。 欧州の失敗に学べなかった 背景には、東日本大震災による東京電力福島第一原発事故後に導入した、太陽光発電買い取り制度の「失敗」という苦い経験があった。太陽光の導入拡大を優先した経産省は、制度開始初年度に、原発や石炭火力発電に比べて4倍近い買い取り価格を設定した。 その結果、新規参入者が殺到する太陽光バブルが起こり、導入は急速に広がったが、それと引き換えに多額の利用者負担が発生し、国民から厳しい批判を浴びた。ちなみに高値の買い取り価格設定を主導したのは、安倍政権時代の官邸官僚の代表格で「菊池桃子の夫」で知られる新原浩朗元経済産業政策局長(1984年旧通産省)だという。 洋上風力ではその二の舞を回避したいばかりに、価格競争を煽った結果、欧州の失敗の教訓を学べなかったようだ。 インフレや円安の影響で風車や建設コストが高騰している事情は、第二弾以降の公募で落札した大手電力会社や他の商社も同じ。相対取引により高値で売ることが可能とは言え、売電先がすんなりと見つかるかは不透明で、稼働の遅れを懸念する声が出ている。 また、安値を喧伝していた三菱商事の場合、利用者は想定外の高値の電力を押し付けられることになる。洋上風力の公募入札の制度設計は、石破茂首相秘書官を務める井上博雄・前省エネルギー・新エネルギー部長(1994年同)が中心となって取り組んだという。 国民の反発を恐れるあまり、価格競争を優先したことを悔やんでいるに違いない。 残念ですが、モビリティ業界の新たな「4強」に「トヨタ」は入っていません…!これから台頭する「4社の名前」と「クルマの未来」

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