新社会人へ。成功体験が大損失を招いた悲しい話を教えよう…。テーマパークのプロが失敗から学んだこと

社会人なら絶対身に着けたい一生モノの力が、「顧客が何を望んでいるかを知る力」です。どうすればその力をつけられるのでしょうか。 ロングランのアトラクションを数多く手がけてきた松本公一さんが初の著書『なぜ、ゲストはリピートするのか? テーマパークのプロの感動をつくり出す仕事』で、すべて明らかにしています。 40歳でテーマパーク業界に飛び込み、小さな会社を率いて大手の競合相手を圧倒できた秘策や、失敗でつかんだこと、さらにアメリカのディズニーランドのレジェンドたちと働くなかで得た重要なアドバイスもこの連載で伝えます。 こだわっているうちに基本を見失った失敗 こだわりを追求しているうちに、うっかり基本を見失ってしまったという、情けない失敗例もあります。 愛知県の遊園地に、「アラジンと魔法のランプ」を題材にした宝探しアトラクションをつくったときのことです。 アトラクションの内部は、宝の袋を探すという楽しみだけではなく、アラジンというテーマに合わせたいろいろな演出で楽しませようと考えました。 この「宝の袋探し」アトラクションは、それまでに導入したテーマパークでも人気があったので自信を持っていましたが、開業してみるとファミリーの利用者が少ないといいます。調べてみると、雰囲気づくりのために行った入り口の洞窟ふうの演出が、外から見ると暗いため子どもたちが怖がって入らないということがわかりました。 「子どもは本質的に、暗いところを怖がる」というのは基本中の基本なのに、これを忘れて演出にこだわってしまったゆえに起きた失敗でした。つくり手の論理が先行してしまい、「木を見て森を見ず」状態でいちばん肝心な「ゲストの顔」が見えていなかったのです。 後日改めて、入り口部分をイルミネーションでキラキラ輝くような演出に変更し、この問題を解決しました。 成功体験で自信過剰になって、大損失 自分のアイデアにこだわりすぎて、相手に受け入れてもらえなかったうえに、ズルズルと引き際を見誤ったこともありました。 「ルパン三世〜迷宮の罠」のアトラクションは、ゲストが持つ端末(お宝回収器)に無線通信技術を使った仕掛けをつくったことで、人気を博しました。そこで私は「これからは、情報システムを核にした個人単位のアトラクションが可能となる」と自信を深め、さらに進化したアトラクションの開発を目指しました。 そして考えたのが、映画『ゴーストバスターズ』に出てくる、「ゴーストを電気掃除機のような機械で吸い込む」というイメージのアトラクションでした。 設定は「ある館に住みついた、いたずら好きで可愛いゴーストたちを、ゲストが『ゴースト吸い取り器』を持って捕獲する」というものです。ゴーストは置物の中や物陰から、ときには壁の絵画の裏から、映像で現れます。タイミングよく「ゴースト吸い取り器」をかざすと、ゴーストが消えると同時に吸い取り器から「ひゅう〜、ポン!」と音がして、ゲストはゴーストを吸い込んだ感覚が楽しめるという趣向です。 「成功間違いなし!」と確信し、あるパークを運営するクライアントに提案しました。アイデアについては面白がってくれましたが、「果たしてどこまでゲストが『ゴーストを捕まえる感覚』を持ってくれるか?」ということに議論が集中しました。これまでに実例もないため、クライアントも半信半疑で決め手を欠いたのです。 クライアントからは追加検討事項も示され、全体の投資試算額がふくらんでいきましたが、明確なゴーサインはなかなか出ません。 そのうち社内からも、「いったん退いたほうがいいのでは?」という慎重意見が出ました。それでも私は「このアトラクションは将来に向けての挑戦でもあるので、何としても実現したい」という気持ちが強く、独走気味にその意見を退けてしまったのです。 「受け手がどう感じるか」を見落としていた クライアントのOKをとるためにと、詳細なデモ機と資料をつくり続けました。が、半年が経過した頃、最終的にクライアント側から「社内検討したが、あまりに挑戦的な内容で不安があり投資額も大きくなったので、今回は見送りたい」という回答がありました。 このときの失望は、費用と時間のロスとともに、非常に大きなものでした。 失敗理由としては、「こだわり」だと思っていたものが、いつの間にか「自信過剰」に変わっていたということが挙げられます。「ルパン三世」アトラクションでの成功事例があるんだから、いずれきっとクライアントも理解してくれるはずだと、勝手に思い込んでいたのです。 また私は「隠れているゴーストを吸収するという面白さ」に惚れ込んでいましたが、結果的にはそれはつくり手側の独りよがりで、クライアントには伝わらず実感してもらえなかったのです。まさに「受け手がどう感じるか」、その相場観を見失ってしまっていたのです。 こだわりの相場観を見失い失敗してしまうケースは、まとめると次の2点になります。 (1)勝手な思い込みや打算的な思惑が先行してしまうケース。ゲストにはすぐに見破られると肝に銘じるべし。 (2)こだわりを追求しすぎて、つくり手の論理ばかりが先行してしまうケース。途中で冷静に立ち止まり、相場観を見誤っていないかよく検討するべし。 大人が喜ぶと想定した迷路に殺到した子どもたち。テーマパークのプロが失敗に学んだこと

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