富士北麓地域で外国人観光客を相手に無許可でタクシー営業(白タク行為)をしたとして、山梨県警は22日、中国籍で東京都大田区、自称会社役員の男(44)を道路運送法違反(有償運送禁止)容疑で現行犯逮捕した。 同地域では訪日客の増加に伴い白タク行為が横行しており、地元業者らの仕事が奪われるなどの被害が出る一方で摘発が難しく、対策が急務となっている。(涌井統矢、加藤慧) 発表によると、男は22日、外国人観光客2人から運賃をもらう契約をしたうえで、自家用車に乗せ、東京都内から富士河口湖町の大石公園などに向けて運行した疑い。「(車を)運転したことは認めるが、契約については知らない」と否認している。 白タクを取り締まっていた捜査員が、乗客との関係を不審に思い男らに事情を聞き、容疑が明らかになった。JR小田原駅(神奈川県)まで運行する契約だったといい、県警は今後、運営実態などについて調べを進める。 富士山麓の自治体によると、富士山と河口湖が一望できる同公園では近年、多くの訪日客が訪れるが、それに合わせて白タク行為の横行も深刻化しているとされる。五重塔との組み合わせが人気の「新倉山浅間公園」(富士吉田市)周辺や、コンビニの上に富士山が見える富士河口湖町内のコンビニ店なども同様の状況だ。 ただ、白タクは2種免許が必要なタクシー運転手とは異なり、運転技術の未熟さや事故時の対応などの問題が指摘されている。同地域では白タクとの事故や、タクシーの乗客が奪われる実害も出始めている。 十三番タクシー(富士吉田市)では昨年5月、白タクとみられる車が同社のタクシーと衝突。相手ドライバーは「家族が乗っていた」と説明したが、その「家族」は事故直後に運転手を残して姿をくらました。 同社の渡辺大喜社長(38)は「タクシー会社は日頃の点検や車検など様々な安全基準を経ているが、白タクは事故の責任も取らず、地元にとって迷惑だ」と吐き捨てた。 白タク横行の背景には、摘発の難しさもある。県警幹部は「白タクは見分けづらい上、摘発しようとしても『友達を運んでいる』と言い訳されるなど、有償契約を結んでいるかも確認が難しい」と打ち明ける。 公共交通に詳しい名古屋大の加藤博和教授は「外国人に対して白タクは違法であることを啓発して水際で防ぐことが必要。外国人の需要に応えられるよう正規のタクシーやライドシェアを増やすなど公共交通の基盤を整えることも大切だ」と指摘している。 違法だと知っていたが…利用者の「当事者意識」薄く 深刻化する白タク行為だが、利用者、ドライバーともに、「当事者意識」は薄いようだ。 22日、白タクを利用して夫婦で大石公園を訪れた中国人女性(31)は、「違法だと知っていたが、車が迎えに来るまで白ナンバーに乗ることになるとはわからなかった」と話す。中国の旅行サイトから「富士山一日ツアー」を予約したところ、滞在先の東京都新宿区のホテルに白ナンバーの車両が迎えに来たという。 中国人ドライバーが運転し、ほかの客とともに富士五湖エリアの名所を巡った。値段は1人480元(約9000円)だったといい、「サイト側が違法なツアーの表示を禁止するなど対応すべきだ」と話した。 一方、この日、アメリカ人の「乗客」を白ナンバーの車両に乗せてきたというインド出身の男性(27)は、「友人から金をもらって運んでいるが、ビジネスとしてやっているわけではなく、違法だとは思っていない」と主張する。 普段は工場で働いているが、日本で暮らすインド人の友人に頼まれ、月1回ほど「友人の友人」を富士五湖地域などに連れてきているといい、「逮捕者が出たのは知らなかった。問題はないと思うが、友人に伝えたい」と話した。