じつは奥さまが独立を考えているという、40代の公務員夫婦。「安定の公務員」という立場を捨て起業することが、家計にはどれくらい影響するのか。1級ファイナンシャル・プランニング技能士で、『一度始めたらどんどん貯まる 夫婦貯金 年150万円の法則』著者・磯山裕樹氏が事例をもとに解説します。 公務員からの独立を考える妻、いまの不安材料は… ある日、40代の奥さまがご相談に来られました。 「子どもとの時間をもっと作るため、家でできる仕事に変えて、独立起業を考えています。独立起業するにあたって、お金の不安があり、相談したいです」 ・今回登場する夫婦の家族と家計 家族構成:40代夫婦と子ども3人(小学生2人・保育園1人) 収入:ご主人600万円(公務員)・奥さま500万円(公務員) どのような不安があるか聞くと次のような回答がありました。 ・独立起業した場合、安定的なお金が入ってくるかわからないので今後のお金が心配 ・夫にどう理解してもらうか 「ご主人にはこのことを伝えていますか?」と質問すると、奥さまは「やんわり伝えています。ただ、主人は家計のことをまったく知らないので」と言われました。 奥さまが独立起業することは、家計の収入に大きくかかわります。現状の家計を夫婦で把握することからなので、次回ご主人も交えてお話しすることを提案しました。 妻の起業を応援するための「金銭的基準」 後日、あきらかに乗り気ではない、身構えたご主人も同席いただき、お話しをしていきました。「奥さまが独立起業することについて、どう思われていますか?」とご主人にお聞きすると、ご主人は「妻を応援したいが、数年前に購入した80歳まで続く7000万円の住宅ローンの支払い、子ども3人の教育費、その後の老後資金など、お金が心配です」と答えられました。 私は、「資産の一覧表」と「将来のキャッシュフロー表」を作成し、現状のありのままを見ていただきました。ダブル公務員なので、収入もあり、退職金も見込めるので、今の生活を続けてもまったくお金には不自由しません。 ご主人「最初のほうでいきなり売り上げを上げるのは難しいと思うけど、最低どのくらいの収入を見込んでいて、将来的にはどのくらいを想定しているの?」 奥さま「やってみないとわからないけれど、最低月10万円はいけると思う。2、3年後は月40万円を目標に、定年なしで元気な限り頑張りたいと考えている」 奥さまは数年前から、自宅で独立起業するための準備をされていました。独立起業するためのスクールに通い、家計をやりくりして貯蓄もコツコツ継続してきました。本気で子どもたちとの時間と収入の両立を考えていることは、奥さまの真剣な顔を見れば、同席していた私にも伝わりました。 ご主人「磯山さん、妻の収入が月10万円と月40万円だと我が家のシミュレーションはどうなりますか?」 私は月10万円と40万円の収入の場合のシミュレーションを作成しました。 ご主人「現状の支出から判断すると、月10万円の収入の場合、7.8年後には貯蓄がなくなり、子どもの教育費も準備できないということだな。月40万円の収入で、定年なく元気な限り働く場合だと、老後にも収入があって安心できるね」 奥さま「2年で月収40万円いかなかったら、別の仕事を探すから、チャレンジさせてほしい」 自分のやりたいことができて、さらには一生涯の収入にもなる。家族としての人生のトータル収入を考えると、ダブル公務員よりいいねというご夫婦の判断から、奥さまの独立起業を全力で応援しようということになりました。 1年後、意外な結果が… 相談から1年後、夫婦でお金の話をする「夫婦ミーティング」に同席しました。奥さまのこの1年の平均収入は月10万円、初期費用もかかったので年間収支はマイナスです。それにもかかわらず、2人の顔は笑顔でした。 最初の数カ月は月10万円に満たない状況でしたが、現在は50万円を売り上げる月もあるそうです。まだまだ、月により波がありますが、順調に軌道に乗っています。その理由を奥さまに聞くと、「はじめての事業で不安はあったが、夫婦で共有できていることによる安心感があったことが大きいです。主人が、私の決断を応援してくれている。気にかけてくれていることが嬉しい。絶対、自分のためにも、家族のためにも成功させたい強い覚悟で挑むことができた。」と言われました。 また、保険、携帯など、削れるところは削ったことで、事業に集中できたともいわれていました。実は、1年前のご相談で、家計にまったく関心がなかったご主人が、「妻の独立起業を応援するために、私に何かできることはありますか?」と言われました。奥さまの本気に触発され、自分から協力したいという姿勢に奥さまはびっくりしていました。 私は、想定しているとはいえ、独立当初は、家計の赤字幅が大きく、どんどんお金が減っていくと不安になるので減っていく金額を抑えることだとお伝えしました。これまで、奥さまご自身の支出については改善していましたが、ご主人の支出についても、携帯、生命保険、自動車保険、税金、ポイント活用など、家計全体を考えて改善しました。 支出について考えたことで、ご主人のお金の使い方にも変化がありました。今までは、収入がある程度あったので、よく考えずにお金を使っていました。しかし、収入が減ったことで支出を意識するようになり、タバコをやめ、飲み会の2次会に参加しなくなったそうです。「タバコはやめられないと思いこんでいたが、そうでもなかった。2次会に参加しなくても、付き合いが悪いとか言われる時代ではないことも分かった」このあたりは個人差があることですが、自分たち家族にとって必要でないことにお金を使ってしまっていたことに気づいたそうです。 毎月の収支の赤字幅が少なくなり、心の負担が減ったことが、事業に集中することができた大きな要因となっています。 ご主人は、「家計を夫婦で共有できており、家族として目指す方向が定まり、やるべきことが明確なので、今までより楽しい。妻が毎日はつらつとしていて、夫婦で楽しく過ごせている」と言われていました。思いつきではなく働きながら事業もお金も準備をしていたこと、家計を共有した安心感となにより夫婦で頑張れたことで事業が順調に推移しています。奥さまの独立起業がきっかけで、ご主人の家計への関心、お金の使い方が変わり、家族みんながより幸せに生活できるようになったそうです。 安定を捨て独立起業することで、収入と貯蓄が以前より減ったにもかかわらず、以前より幸せな気持ちで生活されています。ピンチはチャンスという言葉がありますが、まさに、家計がピンチになるからこそ、夫婦二人でより理想の生活に向けて行動できるチャンスとなりました。独立起業に迷っている人は、パートナーに思いをぶつけることで、人生に大きな変化が訪れるかもしれません。 「友人宅」に行ってから妻の様子がおかしい…年収600万円男性が29歳の妻に衝撃を受けた「出来事」