テレビの歴史がごっそりなくなる危機に 米ダルトン・インベストメンツが6月のフジ・メディア・ホールディングス株主総会に向けて、SBIホールディングスの北尾吉孝会長を新たな取締役として提案。北尾会長の掲げる「メディア・IT・金融の融合」構想も踏まえた経営改革が現実味を帯びてきている。また、番組制作現場では将来的な「コンテンツの売却」や「アーカイブの整理」といった動きも噂され始めている。 過去の人気タレント出演番組の扱いも焦点の一つとなり、性加害問題で引退した中居正広、さらに類似の問題の浮上した石橋貴明の映像コンテンツについて、放送自粛やお蔵入りなどの可能性もあるというのだ。 フジ関係者によると、局内ではすでに「中居さんの出演番組がすべて放送禁止になるのか」という話や、「上層部ではSMAP時代の出演シーンも含め、全編削除か、もしくは中居の映る部分だけカットするかといった議論がなされている」なんていう話が飛び交っているという。 かつて「国民的司会者」とも称された中居は、フジテレビだけでも多数の「名番組」に関わっている。 つまり、2014年まで20年間出演した『笑っていいとも!』、2016年まで20年間出演した『SMAP×SMAP』ほか、特番『FNS27時間テレビ』の総合司会8度、長期シリーズ『スポーツ珍プレー好プレー』、ドラマ『ナニワ金融道』シリーズなど、過去の出演映像がすべて「封印」されることになれば、日本のテレビ史の“ある時代”がごっそり消滅することになる。 さらに「バラエティの帝王」とも呼ばれた石橋も、「問題タレント」のカテゴリーに入れられた場合、同様にコンテンツが二度と見られなくなる可能性がある。 「とんねるずのみなさんのおかげです」や「ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ」など、伝説的な番組が対象となれば、その影響は計り知れない。そして、現在は明言されていないものの、フジの第三者委員会の調査報告書で言及された「有力な番組出演者U氏」の出演作までNGとなれば、影響範囲は恐ろしく拡大される。ベテラン・プロデューサーに話を聞いた。 想定されている2パターンの扱い 「テレビ局というのは、長い歴史の中で、不採算でも文化的価値があるものを大事にしてきた部分があるんです。今回の問題は、その負の側面がクローズアップされた感じです。ただ、経営合理化が進むと、文化保存よりも収益性が優先されるので、経営企画の部署からは『過去映像の外資への売却も選択肢』なんて話が聞かれましたよ」 もし、フジテレ上で「問題タレントの映像は封印」となった場合、他局もこの流れに追随する可能性も出てくる。その場合、過去に例がない規模の映像コンテンツが日本のテレビから消えることになる。 「なにしろ実質的に性犯罪と見られるようなものになると、不倫ゴシップとはわけが違うので、無条件で放送されることは難しくなるのはたしか」とプロデューサー。 「そこまでしなくても…っていう視聴者もたくさんいるでしょうけど、もう見たくないと言う人だっているでしょうし、各局にとって反発されるリスクになってしまうと、スポンサー企業だってGOを出さなくなります。 特に中居さんに至っては、実際にそのせいでCM中止になっているわけで、彼を画面に出すことは100年経っても難しい状況ですからね」 現時点で想定されている封印のパターンは主に2つだ。 (1)完全抹消:すべてのプラットフォームから出演番組を撤去 (2)一部カット:問題のない部分のみ残し、出演部分のみ削除もしくはモザイク処理などを施す ただ、前述のように外部からの経営判断が入ってきた場合、これらコンテンツには売却の価値もあると見られる。近年、TVer、U−NEXTなどサブスク配信サービスによる番組の再配信が増え、過去コンテンツの二次利用がテレビ局の重要な収益源となっているからだ。 「日本ではモラル的に放送できなくても、AmazonやNetflixなど、外資プラットフォームでは文化アーカイブとして問題ないとなれば、過去映像をごそっと売り渡すことも考えられる」(同プロデューサー) 実際、現状でさえ配信プラットフォームを見ると、たとえばU−NEXTでは「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」や「THE MC3」が配信中となったままだ。 一方、別の関係者からは、「そこまでの事態にならない可能性もある」との意見もあった。 「いまは熱くなっていますけど、飽きやすい世論も、そのうち関心が低くなって、拒否反応を示さなくなることもありえるし、世間から逆に『封印まではやりすぎ』という声も出てくると、ネット配信はそのままということもありえるのでは」 過去にも、不祥事を起こした芸能人の作品が一定期間後に“復活”した例は複数ある。とはいえ、今回の件が「性加害」に関わる重大事案であること、さらに外資系ファンドや新経営陣の合理的判断が加わる可能性を踏まえると、単に“嵐が過ぎるのを待つ”という対応は難しくなる。局内では、FNN報道部門の独立構想といった大胆な再編案までウワサされており、業界としても前例のない決断を迫られている。 かつて「国民的番組」に出演していたトップタレントの映像が、コンプライアンスを理由に「封印」される可能性は、テレビの文化性とビジネス性の交錯を象徴している。今後の動向次第では、テレビ史の中核をなすアーカイブが大規模に整理・再編される可能性もあり、業界にとっては重大な岐路だ。 フジテレビに訪れる「最悪の番組ラインナップ」…“中居正広騒動”に現場社員が漏らした本音