年々上がり続ける社会保険料。その性質から「ステルス増税」との批判も高まっている。いびつな日本の社会保障制度を、河野太郎がぶった斬る。 聞き手・青山和弘/政治ジャーナリスト。'68年、千葉県生まれ。'92年、日本テレビ放送網に入社し、'94年から政治部。野党キャップ、自民党キャップを経て、ワシントン支局長や国会官邸キャップを歴任。'21年フリーに 透析患者が多くて、多額の医療費がかかっている —医療費そのものに無駄が多いですね。 「医療費の無駄削減も極めて重要です。 私は自民党の行政改革推進本部長のときに、今の鈴木馨祐法務大臣と一緒に、バイアル(容器)の中で余ってしまって捨てられている高価な抗がん剤を捨てないで済むようにルール変更して、数百億円の無駄を省くということをやったことがあります。 また、日本では腎臓病による透析患者が多くて、多額の医療費がかかっています。その一つの理由が、献腎移植(死体腎移植)の提供数がものすごく少ないことです。 腎臓移植をすれば透析から離脱し、働いて税金を納めてくれるようになるんです。しかし、約1万2000人の腎不全患者のうち腎移植を受けることができる方は毎年約1〜2%です。病院でお亡くなりになった方からの腎臓の提供のお願いを強化することなどが考えられます。 私はまず医療の中で無駄と思われることを一つひとつ検討して、医療費の削減を図るべきだと思います。 通常国会で議論になった高額療養費の自己負担額引き上げは、生きている患者さんに影響が出る話だから後回しにすべきです」 —また診療報酬の仕組みも旧態依然としていますね。出来高払いだから、何度も通院させて診療報酬を稼ぐケースが目立ちます。 「たとえば、薬の処方は多めに出されることが多く、飲み切るケースが少なかったりします。 それと診療報酬制度の下でも、技術によって差があってもよいと思います。腕がいいところは報酬が高くてもいいんじゃないですか」 医師の皆さんにも改革姿勢を持ってもらう必要がある —こういった改革を阻んできたものは一体何なんでしょうか。医師会の抵抗が強いという指摘もあります。 「医療制度を時代に合わせ、持続可能性を持たせるために、医師の皆さんにも改革姿勢を持ってもらう必要はあります。 しかし、それ以上に負担と給付の関係が明確になっていないからこそ、保険料を下げるために医療費を削ろうという動きに繋がらないのだと思います。特に『ゼロ金利』になってから、税や保険料、窓口負担を上げなくても、国が借金して埋めればいいという風潮になりました。今の『消費税をやめろ』とか、『財源の基礎控除を引き上げて減税しろ』という議論も、『国が借金すればいいじゃないか』ということです。 そういう風潮だと医療費を削減する動きが出てこない。改革によって医療費を減らせば負担も減ることを、政治が明確にすべきだと思います」 —河野さんは後半国会で論点となる、年金制度改革についても苦言を呈していますね。 「今の年金制度の微調整はもはや限界で、立ち止まって抜本的に改革すべきです。'04年に『100年安心』と言って制度改革をしましたが、年金制度は守れたとしても、年金生活は守れません」 年金制度は複雑すぎるから信頼されない —法案に盛り込まれる、厚生年金の積立金240兆円を国民年金に回すというのは、納得できませんね。 「まず、年金制度は複雑で理解できない。理解できないから、納得できず、納得できないから信頼されないんです。これまで一生懸命、厚生年金の保険料を払ってきたのに、ある時、『この積立金にはあなたの名前がついているわけじゃないからあっちの人に渡す』と言われたら、ふざけるなと思いますよね。 それに加えて現行制度で問題なのは、月6万8000円で満額の国民年金より、多くの地域で生活保護費のほうが高いことです。さらに生活保護を受けていれば医療費はタダだし、家賃補助も出る。これだと『月1万7510円の年金保険料は納めず、将来は生活保護をもらえばいい』という人が出てきてもおかしくない。 私は高齢者の生活保護と基礎年金、最低保証年金は統合してしまって税金で賄えばいいと思うんです。 また現在、国民年金だけに加入している人の半分程度は、保険料を満額払っていないんです。この人たちは今の制度では年金を満額もらえず、最低限の生活を保障できない。国民に最低限の生活を保障する最低保障年金のところは、保険料ではなくて税金で賄うべきというのが私の考えです。未納になってしまう可能性がある保険料ではなく、税を財源にするからこそ、必要とする人に最低保障年金を必ず給付することができるようになります」 政府案は引っ込めて、与野党一緒に考えるべき 「また、会社員や公務員と結婚している専業主婦は第3号被保険者として、保険料を払うことなく、満額の年金がもらえる。それを一生懸命働いているシングルマザーの保険料で賄っているという現象も起こっています。 私はこのような年金制度は抜本的に改革せざるを得ないと思います。 仮に今回の年金法案を成立させても内容が複雑で、国会議員でも説明できる人は極めて限られます。説明できないものは理解させられないし、理解できないから信頼なんかできない。でもなぜか保険料だけ取られるから、もうやめてくれという状態になってしまいます」 —医療・年金制度の抜本改革は待ったなしですが、進めるには強力な政治のリーダーシップが必要です。石破政権にそんな力があるとは思えないのですが。 「社会保障の改革は、必ず国民負担をどうするかという議論になります。これまでの政治はそこから逃げてきた。正面から向き合うには、SNS時代で強まっている『消費税を廃止します』などといったポピュリズムに対抗していく必要があります。 私は現行制度の持続可能性について、『これで大丈夫か?』と心配しているサイレント・マジョリティが存在すると信じているんです。 だからこの改革は与野党一緒にやるべきです。政府案は引っ込めるから、みんなで最善のものを考えて、『これでやらせてください』と国民にお願いしようと。 年金制度は100年先を考えなくちゃいけないものだから、政争の具にしてはいけないんです」 河野太郎 /'63年、神奈川県生まれ。父は元自民党総裁の河野洋平氏。富士ゼロックス、日本端子社員を経て'96年、神奈川15区から初当選。外務大臣、防衛大臣、デジタル大臣などを歴任した 「週刊現代」2025年4月28日号より 「総理は本意では、消費減税をやりたがっています」政権幹部が明かした石破総理の胸の内!