「子どもの吃音(どもり)は親のせい」。そんな誤ったメッセージが過去に新聞でも掲載されていたことがありましたが、今もなお、そうした情報がインターネット上に数多く存在しています。しかし、本当にそうでしょうか? 吃音は100年以上も前から研究され続けており、原因や治療法についてのとらえ方は変遷を重ねてきました。現在は、昔とは180度反対の考え方になっています。 子どもの吃音は親のせいではありませんし、もっというと、子どもに吃音があってもよいのです。とはいえ、なかなかそう簡単には思えないという人もいるでしょう。そこで、本連載では、『吃音のことがよくわかる本』(菊池 良和 監修)の内容をもとに、子どもと親が、吃音とうまくつきあいながら、自信をもって人生を生きていくためのコツを全8回にわたって提案していきます。今回は、発症したときの初期対応のポイントについてお伝えします。 吃音のことがよくわかる 第2回 言い直しをさせたり、ことばの先取りをしたりするのは逆効果 子どもの吃音が始まったとき、まず心に銘じておきたいのは、「話し方のアドバイスはしないほうがよい」ということです。親だけでなく周囲の人にも徹底させていきましょう。 はたからみれば苦しそうにみえても、本人は案外、自分の吃音に気づいていないことがあります。その場合、あえて話し方の修正を試みる必要はありません。スムーズに話そうとしても、それができないのが吃音です。 伝えたいことがあるのに、自分ではどうしようもない話し方ばかりに注目されることで、子どもは話すことに「いやな気持」をもつようになるおそれがあります。ことばの先取りや言い直しをさせるほか、よかれと思ってするアドバイスも、子どもは「その話し方ではダメ」と言われたように感じてしまいます。 「『ゆっくり』と言い続けていたら治った」などという話を聞くこともあるかもしれません。たしかにゆっくり話せば吃音は出にくくなります。けれど、治る子は放っておいても治ります。 アドバイスが回復を早めるわけではありません。むしろ無用なアドバイスは逆効果。吃音が残った場合に、「注意され続けたのは、自分の話し方が悪いからだ」という思いをもたせることにもつながりかねないからです。 子どもに「吃音=悪いもの」と思わせないようにしよう かつて吃音は、子どものたどたどしい話し方に親が気づき、本人に意識させることで始まると言われていました。そのため「本人に自分の吃音を意識させないほうがよい」と考えている人は、今でも少なくないようです。 けれど、親が「意識させまい」としても、子どもどうしのかかわりのなかで、いずれ「自分の話し方はほかの子と違う」と気づくようになります。それは大人が思っているよりも早く、5歳で8割の子が自覚するといわれています。 問題なのは「吃音は悪いもの」という意識を植えつけること。疑問・悩みをかかえる子には、吃音について正しく教えることが必要です。 子どもに相談されたとき、「そう? ママは気にならないけど?」「あ、ちょっと用事が」など、ごまかすのはいけません。 子どもが自分の話し方を気にするのは、友だちからの指摘など、なんらかのきっかけがあることが多いもの。それを明らかにしたうえで、吃音のことをオープンに話し合いましょう。きっかけが誰かからの指摘やまねされた、笑われた、という場合、まねをしたり笑ったりした子どもに、早い段階でやめさせるよう大人が指導します。きっかけが本人の話しにくい感じがするだけだという場合は、「あなたは悪くない」「そのままでよい」ということを伝えましょう。 【答え方の例】 ・「きつおん」といわれる話し方で、子どもでも大人でも、そういう話し方のくせがある人はたくさんいるよ ・だれにでもくせはある。そのままでいいよ ・あなたは頭の回転が速くて、口がついてこないだけだよ ・私も(あるいは〇〇さんも)子どもの頃、そうだったよ 子どもの話し方が気がかりなら早い段階で専門家に相談を 子どもの吃音に対しては、身近な大人が吃音について正しく学び、適切に対応していくことが重要です。「どう対応すればよいか」と悩んだり、不安に思ったりしているのであれば、あれこれ自己流の解決法を試みるより、早い段階で専門的な知識をもった人に相談したほうがよいでしょう。 相談をためらう気持ちのなかには、子どもに吃音を意識させたくないという思いや、子どもが障害と名のつく状態であると考えたくないという思いがあるかもしれません。しかし、大切なのは、子ども自身が困らないようにすることです。そのためには、親自身の不安を解消しておくことが必要です。 吃音の発症は体質的な問題が大きいことは明らかです。親が責められることはありません。また、吃音は言語発達の問題ととらえられます。発達にかかわる悩みごとを受けつけている相談窓口はいろいろあります。 まずは、親だけの相談でかまわないところもあります。その際には、子どもが話している様子を撮った動画を持参するとよいでしょう。公的な相談機関は電話相談を実施しているところもあります。連絡してみましょう。 【いろいろな相談先】 ●健診後の個別相談 発症が速ければ、3歳児健診などの機会を利用し、医師や保健師に相談できます。 ●発達相談の窓口 自治体によって名称は異なりますが、発達相談窓口、保健センター、発達支援センターなど、乳幼児の発達にかかわる悩みを受けつける相談窓口が用意されています。市区町村の広報などで確認を ●吃音を扱う医療機関もある 吃音の診療をおこなっている医療機関はそれほど多くはなく、診療している場合でも、耳鼻咽喉科やリハビリ科、小児科、心療内科など診療科はさまざまです。医療機関などでは、医師の診察のあと言語聴覚士(ST)が相談・指導を担当するのが一般的です。 子どもが急にどもり始めた! 話し方が気になったときに知っておきたい「吃音」の正しい知識