英国の名ギタリスト、エリック・クラプトンが日本公演に臨んでいる。 日本武道館で8公演(26、27日に残席あり)という大規模なものだが、80歳という年齢を感じさせない生命力みなぎる歌声と奔放なギターで聴衆を魅了している。来日を機にこれまでの足跡や音楽観について聞いた。(編集委員 西田浩) 「騎士道精神はサムライに通じる」 ——1974年以来、24回にわたって来日し、計200公演以上開催しています。ほぼ2年おきに来ている計算ですが、これだけ日本や日本のファンを大切にしてくれる理由はなんなのでしょうか? 「日本のファンの忠誠心や誠実さ、日本人の気質、国のあり方、哲学、歴史——そういったすべてが関係している。かつてのイギリス人にも、そういう面があったと思う。アーサー王伝説の騎士道精神には、日本のサムライや武士道と通じるものがあるし、そういう意味で、イギリス人と日本人はどこか似ていると感じているんだ。Mr.ウドー(招聘(しょうへい)元のウドー音楽事務所の設立者・有働誠次郎氏)の存在も大きかったよ。寂しさを感じないようにといつもそばにいて、私を支えてくれた。彼とは本当に深い友情で結ばれていた」 ——過去の日本公演で印象に残っているパフォーマンス、出来事を教えてください。 「一番良かったのは、おそらく80年代後半から90年代のコンサートだろう。最初の頃はアルコール依存で、大酒飲みだったんでね。でも80年代後半に禁酒し、人生のあり方、人としてどう生きるか、どう演奏するか、考え方が変わった。そこからもう一度、人生をやり直すことになった」 「音楽には社会を癒す重要な力がある」 ——昨年10月にオリジナルアルバムとしては8年ぶりとなる新作「ミーンワイル」を出しています。コロナ禍以降シングルなどの形で発表した曲も収められましたが、全体としてレイドバックした雰囲気のオーガニックな音に仕上がっている印象を持ちました。 「あれは反骨心のアルバムなんだ。というのも、あの時、街をロックダウンし『外出するな』など人々の自由を制限した。すべてのアーティストはコンサートを開けず、2年分の仕事を棒に振らざるを得なかった。でも音楽には社会を癒やす重要な力があるんだ。音楽は言葉の壁を越え、人々に救いを与えてくれる。だからコロナ禍で『音楽をやってはならない』と言われた時、私は『それは間違いだ』と考え、自宅からこのアルバムを作ることにした。まず、ギターを録音し、それをロサンゼルスの共演者まで送り音を入れ、そこからまた別の場所に送ってドラムを加える。そんなふうに作りあげていった。率直に言って、音が粗かったり詰めが甘かったりする部分もあったが、それでもやりたかったんだ。いくつかの曲ではパンデミックに対する施策への疑義を表明している。たとえば『ポンパス・フール』はある政治家のことを歌っている」 ——ボリス・ジョンソン氏(2019〜22年の英国首相)ですね? 「その通り。彼は『コンサートに行くには、ワクチン接種証明を提出しなければならない』と言ったんだ。でも私は、ワクチン接種の有無でオーディエンスを差別したくはない。コロナ禍の時期は本当に大変だった。多くの人々が道を見失い、閉塞(へいそく)感にさいなまれた。だから、私は音楽で抵抗する姿勢を示したかったんだ」 ——共演者に曲作りをまかせたり、自ら歌わずゲストにボーカルをゆだねたりしています。自身のアルバムでも、必ずしも自分で作曲し、歌い、ギターを弾く必要はないと考えているのでしょうか? 「ああ、そうしなきゃならないとは思ってないよ。自分が表に立つことがそんなに重要だとは思わない。重要なのは、作品に意味ある感情が宿っていること。それだけだ」 新しい音楽を作るのは「僕らの責任」 ——あなたはブルースから多大な影響を受けつつ、そこにとどまらず、ハードロック、即興演奏、洗練されたポップから叙情味あふれるアコースティックサウンドまで、様々な形でオリジナルの音楽を発展させてきました。今もご自身の音楽の核にブルースがあることはよくわかりますが、あなたの音楽を進化させる動力になったものは何なのでしょうか? 「過去だよ。私はいつも過去の音楽に立ち返る。特にブルースをよく聴く。でも世の中には、ブルースのことを知らない人がまだまだたくさんいる。だから、私は新しいものを見つけるために、何度でも過去に戻るんだ」 ——なぜそれがコンテンポラリーな音楽に繋(つな)がっていくのでしょう? 「再解釈によってさ。私もだが、多くの音楽仲間もそうしている。ブルースやカントリーなど古典的な音楽を演奏しながらも、新しい音楽にしている。それは僕らの責任なんだ」 大物たちとコラボレーション「誰にも言わずに…」 ——音楽ビジネスの世界で地位も名誉も確立してしまうと、他の大物との気軽なコラボレーション(共演や共作)は難しくなるはずですが、あなたは多くの実りあるコラボレーションを実現してきました。ジョージ・ハリスン、スティーヴ・ウィンウッド、ジェフ・ベック、B.B.キング、フィル・コリンズ、デュアン・オールマン……。そうそうたる顔ぶれが並びますが、これもほんの一例にすぎません。それも1回限りの共演ではなく、継続的なものが目立ちます。あなたにはなぜそれが可能だったのでしょうか? 「ビジネスライクなものでなく、すべて友情と信頼と敬意に根ざしているからさ。そして誰にも言わず、やってしまう! ジョージ・ハリスンとはよくそういうことをしたよ。ジョージが私のアルバムに参加した時、本名ではなく、アンジェロ・ミステリオソという変名を使ったんだ。ダメだと言われないようにね」 ——でもそういうコラボレーションをあなたのような大物がやるのは、レコード会社からいい顔をされず、軋轢(あつれき)があるはずですよね。 「気にしなかったよ。彼らはビジネスマンだ。自分たちとは違う世界に住んでいるわけだからね」 「その声を使わないと神様から奪われてしまうぞ」 ——これまでのコラボレーションの中で最もあなたを触発し影響を与えてくれたのは誰でしょうか? 「一番良かったのは、つい最近やったブルーグラス・シンガーのブラッドリー・ウォーカーとのコラボレーション(新作アルバム『ミーンワイル』に収録されている)だ。ウィリー・ネルソンの90歳の誕生日のために『オールウェイズ・オン・マイ・マインド』をやったんだ。とても誇りに思えるカバーだったね。今、マール・ハガード(カントリーの大物歌手)の息子のベン・ハガードとブルースナンバーをやりたいと思っているんだ。彼も素晴らしいシンガーだ。そんなふうに常にコラボレーションのアイデアを考えていて、実現することもあれば、しないこともある」 ——ジョージ・ハリスンやスティーヴ・ウィンウッドやデュアン・オールマンあたりの名前が挙がるのかなと思っていたので、少々意外でした。 「もちろん、彼らとのコラボレーションはどれもすばらしかった。ただ、どうしても記憶の鮮明な最近のものを選んでしまうようだ。スティーヴ(1969年にともにブラインド・フェイスを結成。大物が並び立つスーパーバンドとして脚光を浴びた。2000年代以降たびたび共演するようになり、11年には2人による来日公演も実現した)とは今でもとても仲がいいよ。最近もパレスチナの子供たちの救済プロジェクトのアルバム『トゥ・セイヴ・ア・チャイルド』(2024年)収録の『プレイヤー・オブ・ア・チャイルド』(ウィンウッドがオルガンを担当している)で共演したところだ。ただ、彼は地元の教会の活動に深くかかわっていて、とても忙しく、予定を合わせるのがなかなか大変なんだ」 ——ブラインド・フェイスあたりまでは歌うことにさほど積極的ではなく、ギタリストとしてのアイデンティティーで活動していたようですが、ソロになって以降、曲作りも含めボーカルを重視する方向に変わった気がします。歌手として覚醒するきっかけになったのは、どんな出来事だったのでしょうか? 「デラニー&ボニー(クラプトンは1969年に彼らのツアーに参加。それがきっかけとなり、彼らの伴奏者たちとデレク&ドミノスを結成し、70年に傑作アルバム『いとしのレイラ』を出した)と一緒にやったことが大きかった。2人とも優れた歌手だったよ。ある時デラニー・ブラムレットから『お前、その声を使わないと、神様から奪われてしまうぞ』と言われた。その後も、歌うことを強く勧められた。彼はとてもスピリチュアルで真面目な男だ。彼に背中を押されたのがきっかけさ」 アルコール・薬物依存の治療施設も運営 ——バンド時代も含めこれまで出してきたアルバムの中で、クラプトンを代表する3作を挙げてください。 「『ジャーニーマン』(1989年)、『ピルグリム』(98年)、『レプタイル』(2001年)だな。それとB.B.キングとの『ライディング・ウィズ・ザ・キング』(00年)も入れておきたい」 ——選んだ理由をそれぞれ教えてください。 「まず『ジャーニーマン』はアルコール依存を克服し、初めてアルコール抜きで作ったアルバムだからさ。すごく大きなことだった。大きな変化だったよ。『ピルグリム』はドラムプログラムなど、エレクトロニカ(電子音やデジタル技術によって作られた音楽)に取り組んだ、自分にとって冒険的な作品だからだ。収録曲も気に入っているよ。『レプタイル』は亡くなった叔父に捧(ささ)げた、私の家族の物語と言える内容だけに愛着がある。ブルースの師と仰ぐB.B.キングとの共演は念願だった。そういえばレコーディングの時は2人して食べてばかりだった。本当に食べ過ぎた。クリスピー・クリーム・ドーナツを! でもプレイは完璧だったね」 ——アルコール、薬物依存の治療施設「クロスロード・センター」の設立に私財を投じ、30年近くにわたって運営を主導してきました。こういった活動の意義はどこにあると思いますか? 「私にとっての心の支えなんだ。自分に対する尊厳というか、ただ何もせずにさまよっているだけの人間じゃないのだと思わせてくれる。私自身のアルコール依存からの脱却を通して得た経験は、きっと誰かの助けになると思っている。私がロックダウンに賛成しなかった理由のひとつもそこにあるんだ。多くの人が家に閉じこもって、アルコールに走った。命を落とした人もたくさんいたし、自ら命を絶った人もいたと思う。メンタルヘルスも深刻だった。だから今後も、クロスロード・センターを続けていく覚悟でいるし、私にとっては最も大事なことだと思っているんだ」 ——この30年で、薬物やアルコール依存を取り巻く状況は改善したのでしょうか? 「答えはノーだ。今、アメリカで蔓延(まんえん)しているフェンタニルという鎮痛剤は本当に危険なドラッグだ」 「今も少しはロックンローラーだ」 ——3月で80歳を迎えました。デビューした頃は想像もできなかったでしょうが、80歳になった今もライブやアルバム制作にあなたを向かわせているのは何なのでしょう? 「20代の頃は、正直言って30歳まで生きられれば十分、それ以上生きたいとも思ってなかった。酒に溺れ、ボロボロの生活を送っていた時期もあった。でもそれをやめた時、そこから少しずつ、人生が変わり始めた。自分を知り、自分の中に誰かの力になれるかもしれない何かがあることに気づいた。酒やドラッグがなくても、一日一日を乗り越えることができると知った。ちょうどその頃、今の妻と出会い、子供も生まれ、家庭を持った。それ以来、深い絆で繋がった関係の中で、家族がいる人生というものをちゃんと理解し、実感できるようになった。それが今の私の原動力だ。今の私は、ただの普通の男なんだよ」 ——まさか80歳になってロックンローラーをやっているとは思わなかったでしょうね? 「ああ、今も少しはロックンローラーだ」 ——90歳を過ぎたウィリー・ネルソンが元気に活動しているように、あなたも生涯現役を目指すのでしょうか? それとも何らかの区切りはつけるのでしょうか? 「私もウィリーのようにバスを手に入れないとな!(ネルソンはツアーバスを我が家と呼んでいる)。冗談はさておき、生涯現役を目指し、やれる限りこれからも続けていこうと思っているよ」
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