開幕前には独走もあり! と言われていた巨人が、ここまで勝率は5割少しと、いまひとつ波に乗り切れない。中でも元気がないのはベテランの主力選手たち。36歳の丸佳浩は右太もも裏の怪我で開幕から長期離脱。生え抜き19年目、やはり36歳の坂本勇人内野手は極度の打撃不振で二軍に降格している。それに続き、阿部慎之助監督肝煎りで獲得した田中将大投手も2度目の登板(17日、東京ドーム・対DeNA)で日本球界復帰以来、最短となるわずか2回でKOされ、二軍での調整が決まった。今年で37歳という年齢から引退間近との声が早くも囁かれるが、阿部巨人はこの田中にVIP待遇を貫くという。その理由を探った。 *** 【写真】田中将大が200勝を捧げたい“年上妻” 41歳とは思えない美貌がまぶしい 田中を「獲得したい」とリクエストしたのは阿部監督だ。巨人は当初、楽天を自由契約となった田中の獲得に消極的だった。昨季15勝してMLBボルチモア・オリオールズへ移籍した菅野智之投手の穴埋めが必要だったが、桑田真澄二軍監督は3か年計画で若手投手の育成をしてきたことを自負。戸郷翔征、大勢、井上温大の3投手が侍ジャパンに選出されたこともあって「(菅野が)抜けた穴は十分埋まる」と自信いっぱいだった。 田中将大と阿部慎之助監督 しかし、それでも2009年のWBCで田中の球を受けたこともある阿部監督は田中の獲得にこだわった。巨人には昨季、菅野を復活させた“魔改造”こと久保康之・巡回投手コーチがいる。 「阿部監督はその久保コーチに田中獲得について相談しています。久保コーチは菅野と同じく、田中は十分復活できるという結論でした」(巨人担当記者) 獲得後、阿部監督は田中を久保コーチに“預ける”ことを決めた。一軍には杉内俊哉、内海哲也の2人の投手コーチがいるにもかかわらず。異例のことだ。 会見拒否 キャンプ、オープン戦の中で、阿部監督は毎週日曜日に田中を先発させる「サンデーマー君」構想を明言。3月初旬には「抑える術は知っている(投手)。本人が頑張ってくれると思う。(ローテーション入りについては)もう6番目だと思う」と高評価だった。しかし、 「やはり昨季はわずか1試合、5イニングしか投げていない田中の衰えは明らかでした。早々に中6日は難しいと判断し、『木曜日登板』へと切り替えた。実は4〜5月の木曜日は変則日程で移動日となることが多く、『中13日』となります。首脳陣が田中を見て、週1回の登板すら難しいと判断していたことは明白でした。しかし、『サンデーマー君』の言い出しっぺは他ならぬ阿部監督自身。引っ込みがつかなくなったのか、木曜日登板への変更をマスコミに明らかにしたのは杉内コーチでした」(同) 開幕後、田中は初登板となった3日の中日戦で移籍後初勝利を挙げたが、中13日と満を持しての登板となった17日のDeNA戦では、わずか2回でKOされた。打者14人に被安打7、6失点。スピードと回転量が不足していることは素人でもわかるほど。コントロールも悪く、高低差も付けられない。要は、棒球でノーコンだった。そのDeNA戦の後、阿部監督は今季初の会見拒否。「あれだけ打ち込まれるのは想定外だったようです。衝撃の大きさを物語っています」(同)。田中にとってはこの日が本拠地東京ドームでの初登板だった。試合後、田中は「ネガティブなことしか出てないんで、なかなか難しいですけど…自分が思い描いたような感じでボールを操れなかった」と淡々とした表情でコメントした。 「DeNAは強打者のT.オースティンを怪我で欠いていましたが、それでもあれだけ打たれた。その前の中日戦では198勝目を挙げましたが、あれはセ・リーグ最弱と言われる中日打線だからこそ。今の田中では他の4球団の打線を抑えることは難しいということをまざまざと見せつけられた」(前出・担当記者) 投手陣の相談役 久保コーチの魔改造で復活した菅野だが、実はそれも指導を受けてから2年目のこと。1年目は4勝8敗に終わっている。それより年長の田中が、わずか数カ月で結果を出そうというのは土台難しい話。二軍でゆっくりフォーム改造に取り組むのもひとつの選択肢だが、杉内コーチは「サタデー田中」に拘り、一軍復帰、次々週木曜日の広島戦登板を明言している。なぜかように「VIP待遇」なのだろうか。 「入団して間もないですが、戸郷や山崎伊織といった若手投手たちが、田中に心酔。こぞってアドバイスを求めているのです。楽天やヤンキースで実績を上げた田中にはやはりオーラがある。キャンプでも田中が投げ始めると、若手投手が周りに集結。“オーッ”と歓声を上げていたとか。開幕後も、やはり不調スタートの戸郷に、早速アドバイスを送っていました。経験値が圧倒的に豊富ですから、投手陣の中で相談役として存在感を増しているのです」(同) また、 「入団してからというものの、田中のグッズがバカ売れ。ドームでのグッズ売り上げは全選手で断トツトップだったとか。キャンプでは、田中の“魔改造”ネタで、連日多くの報道陣が取材に訪れ、毎日のようにその様子がニュースで報じられていました。久保コーチも取材に積極的に答え、盛り上げに一役買った。その結果、観客もたくさん訪れました。それに味をしめ、球団はシーズン前の段階で残り3勝となっていた『200勝達成』をカウントダウンで盛り上げようと必死。田中のグラブに刺繍されている『氣』という文字を200個のボールで形作り、ドームにモニュメントとして飾る。そんなプロジェクトを進めています」(同) 矛先が向かってくる さらに、だ。 「このまま一年間田中が不調に沈めば、獲得を主導した阿部監督にその矛先が向かい、責任論も出てくる。だから、阿部監督は何としてでも今季中に田中に200勝を達成させ、さらに勝ち星を上積みしてほしいのです。幸い、今年の巨人は大勢、ライデル・マルティネスと中継ぎ、抑えは最強。せめて5回までリードを保ってくれれば勝利が付く可能性は高いのですが、現状はそれにも疑問符が付いています」(同) 一方の田中にとっても、200勝を達成し、巨人に貢献できれば“その先”も見えてくる。 「田中は楽天の大功労者なのに、球団から袖にされる形でチームを離れざるをえなくなった。プライドもありますから、引退後、指導者になるにしても、楽天には戻りたくないという思いもあるかもしれません。200勝を達成、ジャイアンツのユニフォームで引退し、『巨人の田中』というイメージをまとえば、セカンドキャリアには読売というバックが付くことになり、圧倒的に安心ですよね」(同) 次回登板は5月1日。果たして199勝目の達成なるか、それとも——。 小田義天(おだ・ぎてん) スポーツライター デイリー新潮編集部