脳を休めるためではない?睡眠と意識の系統発生を説く新書が話題

睡眠は「脳を休めるため」ではなかった?生物の“ほんとうの姿”は眠っている姿?……睡眠と意識の謎に迫った新書『睡眠の起源』が、発売即4刷と話題だ。 「こんなにもみずみずしい理系研究者のエッセイを、久しぶりに読んだ。素晴らしい名著」(文芸評論家・三宅香帆氏)、「きわめて素晴らしかった。嫉妬するレベルの才能」(臨床心理士・東畑開人氏)といった書評・感想が寄せられるなど、大きな注目を集めている。 (*本記事は金谷啓之『睡眠の起源』から抜粋・再編集したものです) 意識と睡眠の系統発生 意識とは何かを議論するとき、「どんな動物に意識があるのか」について考えてみるとおもしろい。私たちヒトに「意識」があるというのは、誰しもが納得するだろう。意識をもつからこそ、私たちは主観的経験をして、今こうして「意識とは何か?」と問うことができるのだ。 それでは、イヌやネコならどうだろう?ヒトと同じように睡眠の状態があって、それ以外の覚醒の状態では、私たちの言葉をある程度理解し、意思をもって行動する。彼らには、意識があると考える人が多いのではないだろうか。「意識についてのケンブリッジ宣言」からしても、哺乳類全般に意識の神経基盤があることは、間違いないだろう。ただ、神経基盤があるからといって、そこに必ずしもヒトのような「主観的意識」が宿っているかは分からない。 非常に極端な例として、ヒドラに意識があるかを考えてみたい。ヒドラには、脳がない。脳がなかったら、意識はないのだろうか? ただヒドラには、睡眠と呼べる状態があり、そのことは同時に、覚醒の状態が存在することを意味している。ヒドラにおける睡眠状態とは「行動が静止し、外部からの刺激への反応性が低下している状態」であり、眠りのホメオスタシスを満たすという特徴がある。睡眠以外の状態を覚醒状態と呼ぶとして、それが意識を伴っているかというと、高次な意識の要素(例えば、主観的な意識体験)は持ち合わせていないように思えるが、かといって意識の存在を否定することもできない。哺乳類ではないが、比較的似た脳のつくりをしている動物、例えば魚に高次な意識があるかどうかは、重要な問いかもしれない。 さらに極端な例として、“泳ぐ神経細胞”と称されるゾウリムシではどうだろう? ゾウリムシは、それ自体が一つの神経細胞のように機能している。ゾウリムシの細胞の表面には、無数の繊毛がある(このことからゾウリムシをはじめとした単細胞生物の仲間は繊毛虫と称される)。その繊毛で、接触刺激をはじめとした外界からの刺激を受容し、細胞の興奮性が変化するのだ。そして、興奮性にもとづき、繊毛を動かして泳ぐ。つまり、外界から受容し、処理した情報に応じて、アクションを決定しているのだ。まるで何らかの意思をもっているように見えるが、意識が備わっているか否か──。 2013年に発表された論文で、カリフォルニア大学のマイケル・アルキールと、ミシガン大学のジョージ・マシュールは、動物の「運動性」が、意識の根源だという仮説を紹介している。この仮説は、フランスで哲学を研究していたモーリス・メルロ゠ポンティの考えに端を発していて、運動性をもつ動物は、外部から受容した情報をもとに、次にどのような行動を示すかという判断を迫られるため、そこで意識が必要になるというのだ。 あのダーウィンも晩年、意識に興味をもった。生き物は、いつから意識をもつようになったのか──彼は、動物の「意識」が神経系の発達に応じて進化してきたのだとすれば、進化の過程のどこかに、意識が生じた起源があるはずだと言った。もっと言えば、おそらく意識をもつことが、進化の上で有利にはたらいたのだ。 いつ意識が生まれたのかという問題は、いつから動物が眠るようになったのかという問題と表裏一体である。進化の過程のどこかで、動物が運動性を獲得し、もしかするとそこで意識の原型が生まれたのかもしれない。そして、鶏が先か卵が先か、睡眠・覚醒という二つの状態が生じ、レム睡眠が発生して、意識が発達したのだ。 睡眠は「脳の誕生」以前から存在していた…なぜ生物は眠るのか「その知られざる理由」

もっと
Recommendations

トランプ氏、週内の停戦合意に期待…「露とウクライナは巨額の富を築ける」と米からの見返り強調

【ワシントン=池田慶太】米国のトランプ大統領は20日、自身のS…

国民民主 次期参院選の兵庫で多田ひとみ氏擁立 泉房穂氏「魅力的政党ない」発言で独自候補擁立に

国民民主党は参議院選挙の兵庫県選挙区に元経済産業省職員の女性を…

ASEAN諸国が中国と米国との板挟みか 同調しすぎれば交渉に影響も

【バンコク=井戸田崇志】東南アジア諸国連合(ASEAN)の各国…

47歳息子が81歳父の頭を金づちで…頭蓋骨陥没などで重傷 殺人未遂容疑で逮捕 横浜市

横浜市で、81歳の父親の頭を金づちで複数回殴って殺害しようとした…

奄美大島で初 ハヤブサが鳥インフル「陽性」

鹿児島・奄美市で19日、衰弱した野鳥のハヤブサが回収されました。…

トランプ大統領にも一目置かれる? 巨額の対米赤字を解消する「デジタル課税」という秘策

元経産大臣が語るでは、どういった方法ならGAFAMに課税することが可能…

北海道音更町のホテルで140人食中毒 ノロウイルス検出

今月、北海道音更町のホテルに宿泊した客ら140人が、帰宅後に下痢や…

これで間違いない?戸籍の読み仮名確認を全国民に通知へ

改正戸籍法が5月26日に施行されることを受け、施行日以降、全て…

パラグライダー不時着後に転がり落ちたヘルメットを取りに行き男性(74)が滑落死 岐阜・池田町

きのう、岐阜県池田町でパラグライダーをしていた男性が不時着…

菊池雄星 6回途中1失点も自責は0、背面キャッチの美技も移籍初白星遠い…チームは9回3点差を大逆転サヨナラ勝ち

■MLBエンゼルス 5×ー4 ジャイアンツ(日本時間21日、エンゼル・ス…

loading...