【高市早苗氏独占インタビュー】今だから明かせる自民党総裁選挙の裏側「ある派閥では決選投票で『男に入れろ』という指令が出ていたと聞いた」

 トランプ米大統領の「関税」をめぐる予測不能な動きや、党内で持ち上がる減税論に石破政権は対応できているように見えない。支持率低迷で夏の参院選も自民党劣勢が予想されるなか、存在感を高めるのが先の総裁選で最多の党員票を獲得しながら決選投票で敗れた高市早苗・前経済安保相(64)だ。党内外から“高市待望論”も浮上するなか、石破政権についてどう考えているのか。ノンフィクション作家の常井健一氏が斬り込んだ。【全3回の第1回】 【写真】高市早苗氏インタビューアザーカット 総理に1回だけメールした ──昨年9月の自民党総裁選で敗れて以降、事実上の「無役」を貫いています。今はどんな毎日を送っているのでしょうか。 「相変わらず、ワークライフバランスとは無縁ですね。平日の夜も、土日も、講演で全国を回っています。だいたい帰宅は深夜で、お風呂掃除と入浴をしてから、明け方近くまでパソコン作業です。そんななかでうれしく思うのは、6年前から政府に働きかけてきた『能動的サイバー防御』を可能にする法案が、ようやく成立しそうなことです」 ──石破茂政権の発足から半年が経ちました。どう評価していますか。 「難しい質問ですね。わが党の総裁であり、内閣総理大臣である方を評価できる立場じゃないです」 ──史上初めて、新年度予算案が参院で修正され、それを衆院に戻して同意を得る異例の手続きが行なわれました。審議中には首相自身が様々な問題を起こして、迷走を重ねた。あれで、よく年度内に成立しましたね。 「それは、野党の要求をほとんど丸飲みしなければ予算を通せないなかで、わが党の国会対策委員、予算委員会の理事や政調会長らが、汗をかかれた結果だと思いますね」 ──弱い政権が「党高政低」の力学で何とか持ちこたえている。最近、石破さんと会話を交わしたことはありますか? 「お目にかかるチャンスはほとんどありません。12月と3月に官邸に治安対策の提言書を持っていった2回です。あとは1回だけ、メールをしたことがありました」 ──どんなやりとりを? 「去年の衆院選の期間中、夜中にテレビをつけたら、街頭演説中の総理の顔がアップになって、唇の皮がむけているのを見て。もう、気になって仕方ないので、翌日にメールしました。『総理の唇が荒れているように見えて、気になりました。コンビニで売っているリップクリームは安いけど効きますので、お試しください』と」 ──確かに気になります。「だらし内閣」という言葉を思い出しました。 「一国の総理にはカッコよくあってほしいので。私も全国遊説の最中でしたが、道中のコンビニでリップクリームを買いましたよ。封筒に2本入れて、〈至急・親展〉と書いて、秘書に石破事務所に届けてもらいました。すると、その日のうちに、『お気遣い誠にありがとうございます』と返信が来ましたよ。後日、テレビで見たら、むけていなかった。ホッとしました」 決選投票で「男に入れろ」という指令 ──昨年の衆院選で、高市さんの演説の日時を党のホームページで確かめようとしたら、応援弁士の予定一覧にお名前がありませんでした。 「私は役員じゃないし、もう思い出すのも嫌なぐらい、殺害予告が相次いでいましたから。安全上の問題で、党が配慮してくださったのでしょう」 ──でも、直前の総裁選で党員人気1位なのだから、もっと存在感を出してもよかったのでは? 「だって、私は負けたんですから」 ──どうして石破さんに負けたんですか? 「自分の力が足りなかったんですよ。私は国民的な人気があるわけではなかったので、『選挙の顔』にはならないと判断されたのだと思いますよ」 ──しかし、石破さんに大きく差をつけて決選投票に残った。いよいよ女性総理が誕生すると思いながら見ていました。 「いや、実は一回目の得票数を見た瞬間に、『負けた』と思いました。でも、しょんぼりしていたら両隣に座っている推薦人の議員が『勝った、勝った』と笑顔なのに、申し訳ない。だから、ニコニコはしていたのですが」 ──すると、決選投票直前の演説の時は、すでに敗北感でいっぱいの心理状態だったわけですか! 「絶望的な気分でした。たとえ党員票が一位でも、決選投票は国会議員票で勝敗が決まります。麻生派以外の派閥は解消されましたが、まだ多くの議員が旧派閥単位で動いていましたから、無派閥の私は『数』を確保する必要がありました」 ──終盤、各候補者が麻生太郎さんや二階俊博さんに「重鎮詣で」をしていましたね。 「投票日の朝、ある旧派閥で決選投票に関する指令が出たと聞きました。『男と女が残ったら、男に入れろ』と。つまり、私が決選投票に残っても、あの旧派閥の票はまるごと来ない。それで計算したら、足りなかった」 ──連日の討論会では、本命視された小泉進次郎さんがちぐはぐな言動で失速した一方で高市さんは安定していた。なのに、最後の演説で精彩を欠いた。5分の制限時間を超えても話し続け、選管から終了を促されました。 「決選投票前の演説というのは、従来の総裁選ルールにはなかったものですから、当日の早朝に陣営の議員からの連絡で確定事項だと知りました」 ──てっきり、前夜に、猛特訓して臨んだのかと。 「当日は朝から閣議があって、その後に大臣記者会見も控えていたので、その準備に集中しました。しかも、記者会見が長引いたのです。そのまま高市陣営の送り出し式(決起集会のこと)に行き、党本部での本番でした。『最悪の演説だ』という自覚はありました」 ──本当はどんなことを訴えたかったのですか。 「あの日が、安倍晋三元総理の国葬儀から2年目の日だったことと、安倍元総理が苦労された経済成長に向けた取り組みの重要性です。それから、私のキャッチコピーは『日本列島を、強く豊かに。』でしたから、日本経済を強くできる確信を持っていること。そして、食糧安全保障、エネルギー資源安全保障、健康医療安全保障、防災対策、サイバーセキュリティ対策、国防力強化に、急いで取り組みたい、と」 (第2回に続く) 【プロフィール】 常井健一(とこい・けんいち)/1979年、茨城県生まれ。ライブドア、朝日新聞出版を経て、フリーに。著書『無敗の男』(文藝春秋)が大宅賞候補になるなど、数々の独占告白を手掛け、粘り強い政界取材に定評がある。ラジオ番組『長野智子アップデート』(文化放送)にレギュラー出演中。 撮影/田中麻以 ※週刊ポスト2025年5月2日号

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