本名登録を避けようとする若者 ボーカロイドで強まった匿名性

本名登録を避けようとする若者たち いまどきの大学サークルでは、入部するときに本名を名乗りたがらない新入生がいる。 入部希望者は部室にやってきて入部届の紙に学部と氏名を書いて、そのあとインターネットでの登録を案内される。サークルのイベント連絡はインターネットで知らせるのが普通である。 そこで本名登録を避けようとする。 紙のほうに本名は書いても、インターネットは別名で登録をしようとしてしまう。 まあ、気持ちはわからなくもない。 インターネットだから、いろんなところに繋がっている。 便利ではある。でも、何かあると、いろんなところに勝手に繋がってしまう可能性がある。 その不安から、自分の情報を開示しないという態度を取ってしまうのだろう。 あまり知り合いのいない大学という世界へ入っていこうとしているとき、サークルには入りたいが、でもそこに居続けるかどうかわからない。 新入生は複数のサークルに顔を出してみて、いられそうな場所を探す。いわば仮入部にすぎないのに、そこで自分の情報を細かく知らせることには躊躇する。 いまどき、自然な心情である。 気持ちはわかるが、でもサークル側としては、ちょっと困る。入部希望者が100人近くになる巨大サークルなので、簡単な名前だけの人物が多数いると、案内や出欠処理が面倒なのだ。 いまの学生は、たとえば中学高校時代にすでに、インターネット上の名前を持っているのが普通である。 ハンドルネームだ。一種類だけではなく、複数を使い分けることも多い。 インターネット上の交流や、オンラインゲームは、ふつうハンドルネームを使う。本名を知らないまま、ハンドルネームで呼び合う。 それが常態である。 インターネット上の自分は、リアル世界の自分とは少し違う、という感覚もある。 その延長で、大学の生活でも、そういうのは通用しないだろうか、と考える人がいても不思議ではない。 文科系と体育会系の違い わたしの関わっている大学のサークルは文科系サークルである。漫画研究会。漫画や絵を描く人たちが集まってくる。 漫画やイラストを描くとき、ペンネームを使うことは普通である。必ず、みんなペンネームとは限らないが、本名を名乗らないことには違和感がない。 古来、この分野には、そういう習慣がある。 インターネット上でのハンドルネームと、ペンネームは、同じラインの感覚だろう。かなり親和性が高い。 ペンネーム(ハンドルネーム)で絵を描いてきて、そのまま大学のサークル活動でもその名前で活動できないかなと考えるのは、まあしかたがないことだけれど、大学のサークル活動はインターネット上のやりとりだけで成立するわけではない。集まって似顔絵を描いたり、集まって飲食したり、みんなでキャンプに行ったり、というかなり身体的活動で成り立っている。そういう世界では、仮名・偽名・仇名だけで4年間やり通すのはかなりむずかしく、それを新入生に周知するのに苦労するのだ。 そういう意味では、体育会系の活動は、あまりハンドルネームではやらない。 野球の選手や、サッカー選手、ハンドボールでもバレーボールでも、選手は基本、本名で活動する。 プロ野球選手などには、一部、「登録名」として本名ではない名前で活動している選手がいるが、あれはスポーツ界の特殊部分、言ってしまえばショウビジネス界の考えによるものである。 ショウビジネス世界は、これまた本名では活動しない世界でもある。芸能人は芸名であることがふつうで、へえ、この人、芸名じゃなくて本名なんだと、驚く瞬間があるくらいだから、芸名という存在に私たちは慣れている。プロスポーツの選手名は、その世界の一部に(あくまで一部だが)重なっている。 アマチュアスポーツは、高校野球でも箱根駅伝でも、基本、本名登録である。 高校サッカーでも高校バレーでも同じである。そういうことになっている。 「体育会系のやつはSNSでも本名で名乗っている傾向が強いですね」と、これは現役大学生がそう言っていた。傾向として、高校時代に体育会のクラブ活動をしていると、そのまま本名でSNSの発信していることが多いな、と、あくまで印象の話ではあるが、そう言っていた。 本名を名乗るということは、身体的な動きと密接しているようだ。 自分の身体性を常に意識してそれを晒して生活していると、本名そのままで生きることにつながりやすい。 いっぽう身体的な活動でも歌手は違う。 ボーカロイドで強まった匿名性 「顔出しをしない歌い手」という存在が増えている。 国民的番組である「紅白歌合戦」でもadoやtuki.など、またGreeeeNやMAN WITH A MISSIONなども、顔出ししないで出演した。 顔は出さず、名前ももちろん本名活動ではない。 歌手という職業でも2020年代はそれが広がっている。 あらためて、インターネット社会での「匿名性」がリアルな社会にもどんどん広がってきている、ということであろう。 消費者側が、歌手はべつに顔がわからなくていい、歌さえよければ、それに金を払う、というふうに納得していれば、何の問題はない。 歌手は歌が売り物なので、そもそも、覆面歌手という存在は古くからあった。 ただ最近の傾向はデジタル化とつながっている。 ボカロ(ボーカロイド)ミュージックというのが、すでに20年以上前に出現し、「誰でも音楽が作れる」ということで人気を得た。 「初音ミク」が有名であるが、ボカロの登場により、音楽に携わる人の匿名性がより強まったとおもわれる。 ボーカロイドの特徴は、メロディと歌詞を作れば、歌い手がいなくても曲を完成させて発表できるところにある。 作り手はおそらく多岐に渡っているはずだが、目立って世の中に出てきたのは、若い世代だ。10代の多くのボカロPが出てきた。 そういう人たちは、自室で一人きりで、家族に知られずに作っていることも多いから、名前も顔も伏せたままで発表するのがふつうである。 そのまま有名になっても、覆面のまま音楽活動を続けて、いろんな才能が世に出てきている。 ボーカロイドが誘導した新たな地平は、機械が介在しているぶん、じつに21世紀的な風景になっている。 「いろんな自分を使い分けている」人間 ボカロで作った機械的な声だから、リアルな音楽ではない、という文言にはいまや何の意味もない。ノイズでさえない。 ボカロは「歌声合成技術」と紹介され、その歌声は、人工的な歌声で作られている。 ボカロを初めて聞いたとき、昭和の人間としては、なんかYMO(イエローマジックオーケストラ)みたい、とおもったから、かなり前から求められていた音なのだとおもわれる。 ボカロは人工的な音だからこそ、より広く多くの人に受け入れられているらしい。 NHKスペシャル「新ジャポニズム」のJ-popの回でも、世界中でボカロが受け入れられている姿が紹介されていた。 いまどき、インターネット世界で「別の自分」を持つのは普通である。 21世紀ではそうだ。 もともと「いろんな自分を使い分ける」というのは全人間が昔からやっていることでもある。 人はそれぞれの所属先で、違う自分の面を見せている。 クラスでの自分と、クラブ活動のときの自分と、家族のなかの自分は、共通の部分はあるが、でも見せている部分が違う。 「キャラクター」に差をつけて、自然に無理なく連続的に演じ分ける。 21世紀はさらに「インターネット上での自分」が増えただけである。 そこでは「アバター」を自分の分身として使うことが多い。 アバターは、自分そのものではなく、かならず「自分の分身」と説明される。 「身体的なリアル」と「別人格の意識」の関係性 日常では、たとえば「授業中はとにかく教えられることに従順な自分」「クラブ活動中はうまい人についていくことにきめている自分」「兄弟の一番上なので常にえらそうにしている家庭内の自分」というのがあるわけだが、さらにそのあと自室でスマホに向かったときに「インターネット上で振る舞う自分」が出てくるばかりだ。 ただ、オンオフが、ほかのキャラクターに比べて明確である。 日常でのキャラ変更は、同じ身体の延長上でおこなうが、インターネット上のアバターには、身体性が伴わない。 アバターは現実の身体制約から離れて作ることができる。 簡単に言えば、リアル世界では15歳少年でも、アバターでは19歳の女性として振る舞うことが可能である。 身体的なリアルを伴わずに、別人格の意識だけでネット上で活動できる。 身体から切り離されていることが大事なのだ。 身体から切り離された意識は、あまり「本名」を名乗らない。 この場合の「本名」とは厳密に戸籍上の登録名である必要はなく、本人が自分の名前だと信じてまわりに呼ばれている名前のことになる。 ほんとうの名前、という概念に近いだろう。 いろんな物語で使われる「真の名」のことである。 紫式部の本当の名前はわからないので、大河ドラマでは「まひろ」と名付けられていた。 ドラマは身体性を強く持つものなので(身体を見せる見世物でしかない)とりあえずその場でのほんとうの名前を決めざるをえず、『光る君へ』では紫式部はまひろで、清少納言はききょうであった。 あらためて、本名は、とても「身体的なものと密接につながっていること」なのだということがわかる。 運動選手は本名を公開するのがふつうであり、漫画家は、肉体を酷使する職業であるが、身体や動きを見せて売り物にしているわけではないので、本名を隠そうとする傾向が高い。 そういうもののようだ。 いっぽうでインターネット世界ではすべてが瞬時で全世界に広まる可能性があるため、そこを警戒する人は匿名で活動しようとする。 インターネットがすべてのホモサピエンスを絡め取ろうとしているなか、「自分のほんとうの名前」に対する距離が、このさき、大きく変わっていくかもしれない。 若者が「。」に「圧を感じる」というのは本当か…「句点が怖い」と言いだす人たち

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