ブラジルの大統領を迎えて開かれた宮中晩さん会は、服装は平服、料理に初めて和食も出され、両陛下ならではのおもてなしが随所に見えました。そこに感じられたのは17年前の歓待の“お返し”。日本テレビ客員解説員の井上茂男さんがひも解きます。 ■前菜に初めて「和食」、試食も重ねられ 3月25日夜、国賓として来日したブラジルのルーラ大統領夫妻を迎え、天皇皇后両陛下主催の宮中晩さん会が6年ぶりに開かれました。初めて晩さん会に出席された愛子さまや、ブラジルにゆかりのある人々、約110人が招かれ、陛下と大統領のスピーチと乾杯で始まりました。 天皇陛下) 「2008年、日本人ブラジル移住百周年にあたり、私は再び貴国を訪問いたしました。その際には、ブラジリアで貴大統領から大変心のこもったおもてなしを頂きました。それから17年、御夫妻をこうして国賓として日本の地にお迎えし、晩さん会を開催できますことを誠に感慨深く思います」 ドレスコードは通例の燕尾服やタキシード、ロングドレスではなく、ブラジル側の要望で初めて「平服」が指定され、男性はダークスーツ、女性はデイドレスなどで出席しました。また、前菜に棒寿司など和食が初めて出され、テーブルには日本酒用に江戸切子も置かれました。 ——和食が初めて出されたんですね。 宮中晩さん会はフランス料理が明治以来の伝統ですが、そこに初めて和食の前菜が出されました。昼食会ではすでに取り入れられていましたが、晩さん会では大きな変化です。 映像を見ると、箸も置かれているのがわかります。宮内庁によると、両陛下は、ユネスコの無形文化遺産にも登録された「和食」を楽しんでいただきたい、というお気持ちだったそうです。両陛下は、事前に大統領夫妻の好みを尋ね、自ら料理を試食し、和食の盛り付けについて助言もされました。 また、退場の際の音楽ですが、初めて雅楽が演奏されました。 ——両陛下が試食もされたんですね。 何度か試食されたそうです。大統領夫妻が和食の前菜を含め料理を喜んでいたことをうれしく思い、料理や配膳を担当する大膳課や音楽を担当する楽部に、「よくやってくれた」と感謝されていたそうです。 ——両陛下の「おもてなし」への強い思いが感じられますね。 お二人ならではの歓迎ぶりだったと思います。そして何とも印象的だったのは、17年ぶりの再会となった、天皇陛下とルーラ大統領の喜びあふれる表情です。 ■随所に“日本流”…17年前の歓待への“お返し” 2008年の陛下のブラジル訪問は、日本人のブラジル移住100周年の節目でした。私も読売新聞の記者として同行して取材しましたが、ルーラ大統領が、終始、包み込むような柔らかい笑顔で陛下を迎えていたことを思い出しました。 この時、陛下は式典で、移民たちの大変な苦労に触れ、「温かく迎え入れてきたブラジル政府、社会の厚意があったことを忘れることはできません」と謝意を示され、大統領も日系人の努力をたたえました。 大統領主催の晩さん会では、入り口で陛下を迎え、芸術作品のような手すりのない階段を案内する所から、大統領は“親しさ全開"でした。また、官庁街に打ち上げられる約500発の花火を見る時も、陛下の隣でなんともうれしそうでした。 ——いい笑顔ですね。 晩さん会は、ブラジルの料理を各自が取り分けるカジュアルな「ブッフェ・スタイル」、平服の服装は「ダークスーツ」でした。先日の宮中晩さん会と同じドレスコードです。 今回、陛下には、ブラジルで受けたもてなしの“お返し”をという思いが強くあって、随所に“日本流”を散りばめられたと感じます。 帰国前、ルーラ大統領は「最高の訪日だった」「温かな歓迎は忘れられない」と語っていたそうですから、両陛下の“おもてなしのココロ”がしっかり伝わったことがわかります。どの国の賓客も同じようにもてなすのが皇室の姿勢ですが、それでも、いつになく心が通い合っていたと思いました。 ——映像からも、2008年の頃と変わらず穏やかな笑顔が終始見られましたし、最後まで手を振られているのが印象的ですね。 そうですね。親善というのは積み重ねていくものなのだと思います。 【井上茂男(いのうえ・しげお)】 日本テレビ客員解説員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『皇室ダイアリー』(中央公論新社)、『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)。