殺風景な部屋に何本もベルトがついたベッドが1台──これは、米フロリダ州矯正局の公式サイトで公開されている、死刑囚が注射を打たれる「死刑台」の写真だ。 【画像】フロリダ州の死刑台「拘束するための9本のベルト」 フロリダ州矯正局は4月8日、女性を誘拐して現金を奪って殺害し、遺体を遺棄した罪に問われたマイケル・タンジ死刑囚(48)の薬物注射による死刑を執行した。 「AP通信などによると、タンジ死刑囚は2000年4月、駐車中のバンに乗っていたジャネット・アコスタさん(当時49)にカミソリの刃で襲いかかりました。アコスタさんを縛って誘拐する中で性的暴行を加え、彼女の銀行カードでATMから金を引き出した。そして最終的には、人里離れた場所で絞殺し、遺体を遺棄したという身勝手で残虐な事件を起こしていました。 その後、奪った金で服や大麻を買っています。当初は容疑を否認していたタンジ死刑囚でしたが、後に認めています。裁判では、一般人から選ばれた陪審員全員が死刑を勧言し、裁判官も同じ意見でした。判決後には、別の殺人事件も自白しています」(大手紙国際部記者) 事件発生から約25年を経た今年3月10日、ロン・デサンティス州知事は、タンジ死刑囚の執行指示書に署名し、今月8日に執行が行われた。タンジ死刑囚の弁護士らが「極度の肥満」「座骨神経痛」を理由に執行停止を求めていたが、地元当局はこれを認めず、予定通りに執行が行われた(該当記事を読む)。 日本の死刑執行は、極端に情報の公開が制限され、執行当日に死刑囚がどのような様子だったのかということは一切明らかにされない。一方、米国では、マスコミ関係者が執行に立ち会うこともあるほど情報公開が進んでおり、フロリダ州の公式サイトには死刑囚の顔写真や執行場所などの写真も掲載されている。新聞も執行当日の死刑囚の様子を事細かに報じている。 AP通信など現地報道によると、タンジ死刑囚は午後6時12分に死亡が確認された。 「3種類の薬物を投与された死刑囚の胸は約3分間激しく動き、止まりました。スタッフが死刑囚の肩をさわりながら彼の名前を大声で2回叫んだところ、まったく反応がなく、後に死亡が確認されたということです」(同前) タンジ死刑囚は人生最後の日をどう過ごしたのだろうか。彼は執行の12時間以上前、午前4時45分に目を覚ました。 「執行までの数時間前には“スピリチュアルアドバイザー”と会っています。日本で言うところの教誨師でしょう。対話することで、死刑に向かう精神状態を整える役割があります。 “最後の晩餐”は彼の要望で、骨付き豚肉、ベーコン、コーン、アイスクリームにチョコバーなどだったようです。フロリダでは40ドルを超えない範囲で、死刑囚の要望したものが食べられる制度があります。シャワーを浴びる機会も与えられています。 執行当日、『彼は従順だった』という刑務官の証言が報じられており、死刑囚は『命を奪ったことをお詫びします』と口にしていたようです。最期の言葉はエアコンの音で立会人もよく聞き取れなかったようですが、白いシーツを体にかけられたタンジ死刑囚は、薬が効き始める直前に聖書の言葉のような祈りを捧げたといいます」(同前) 被害者は、大手新聞マイアミ・ヘラルド紙の従業員だった。同紙のウェブ記事には、執行を刑務所で見届けた遺族の「やっと終わった。私の心は軽くなり、再び呼吸をすることができる」という安堵の声が紹介されている。 一方、執行に反対する数十人が刑務所前の広場に集まったという。 「日本と同様に、死刑制度に反対する人はアメリカに多くいます。日本よりも、情報の公開が進んでいる分、議論は活発で健全ですよね」(同前) フロリダ州はトランプ政権と呼応し、死刑囚の執行を急ピッチで進めている。