連載:アナログ時代のクルマたち|Vol. 50 ランチアLC1

自動車レースのレギュレーションは、かなりコロコロと変わる印象がぬぐえない。時にはレギュレーションそのものが捻じ曲げられることだったある。その代表的に例としては、1939年に開催されたトリポリ・グランプリでの出来事。当時は主催者が勝手にレギュレーションを決められたようで、それ以前に圧倒的な強みを発揮していたメルセデスベンツやアウトウニオンと言った排気量の大きなマシンを締め出す目的で、それまで排気量無制限で行われていたレースを、1939年に限り、排気量1.5リッター過給機付きとしたのである。これによってイタリアのアルファロメオやマセラティが活路を見出せ、メルセデスは出場できないと見込んだのである。ところが、僅か8カ月でメルセデスは専用のグランプリカーを作り上げ、見事に1-2フィニッシュを成し遂げた。しかもこの車はそれ以降レースに出場していないから、まさにパーパスビルドのレーシングカーだったのである。 【画像】「ポルシェ956とも十分に戦える」とリカルド・パトレーゼが語ったランチアLC1(写真4点) 同じようなことは60年代にも起きた。一つは大排気量プロトタイプ締め出し。これでフォードの7リッターカーやシャパラルが締め出された。しかし、スポーツカーは5リッターまでOKだったため、今度はポルシェ917が圧倒的強さを示した。そして76年からグループ6によるレースが始まったが、今度はポルシェ936が圧倒的な強さを示した。そんなこともあって、グループ6によるレースは76年から82年までで終了し、82年からはグループCによるレースが開催されることは、すでに81年の段階で告知されていた。 70年代に主としてラリーで大きな成功を収めていたランチアは、スポーツカーレースに復活すべく、新たなマシンの開発を模索した。しかし、グループCは燃料制限が設けられ、使える燃料は1000kmあたり600リッター。車両重量も最低重量が800�に定められていた。ただエンジン排気量は無制限で、燃料タンプ容量が100リッターとされた。そしてボディはクローズドタイプであることが条件であった。 当時ランチアには無制限の排気量に対処できるようなエンジンはなく、一計を案じた当時のレーシングマネージャー、チェザーレ・フィオリオは、今度はレギュレーションの盲点を突いた。エンジンは1.5リッター4気筒のモンテカルロ用がある。これを高度にチューンし、グループ6のマシンに搭載する。このグループ6マシンは、1982年シーズンも出場が可能であった。もっともチャンピオンタイトルはドライバーにのみ与えられ、コンストラクターには与えられなかったが、宣伝効果は十分と判断したのだろう。しかもグループCカーと違って、燃料制限もなければ最低重量制限もない。エンジンは2リッター以下であれば出場できた。モンテカルロのエンジン排気量は1425cc。これにターボを装着して係数1.4をかければ2リッターである。 こうして完成したのがLC1と呼ばれるマシンで、オープン2シーターのボディにモンテカルロ用4気筒ユニット。ダラーラが作り上げたアルミ・モノコックシャシーは軽量で(モノコックはたったの55�しかなかった)、車両重量はグループCの800�制限を大きく下回る665�に仕上がっていた。ただ、エンジンパワーは430psでしかなく、武器となるのは軽量な車重による運動性能の高さや、いくらでも使える燃料。そして抜群のパワーウェイトレシオなどであった。 このマシンをドライブしたリカルド・パトレーゼは、「LC1の強みは、軽くて機敏なことだ。パワフルではないけれど、グループCの燃費規制に従う必要がないからポルシェ956とも十分に戦える」と話していたそうだ。 そんなパトレーゼの言葉を裏付けるように、LC1は1982年を快走した。初戦のモンツァ1000kmこそマシントラブルに泣いたが、次のシルバーストーン1000kmではパトレーゼ/アルボレートのコンビが見事に優勝を飾っている。そして9月のムジェロ1000kmでは、ピエルカルロ・ギンツァーニ/ミケーレ・アルボレート組が優勝。2位にもアレサンドロ・ナニーニ/コラード・ファビ組が入り1-2フィニッシュを達成した。しかしながらドライバーにしか与えられなかったポイントは、惜しくもパトレーゼが取り逃がし2位に甘んじた。 LC1は82年1シーズンのみを戦い、優勝3回を記録し、記憶に残るマシンとなった。83年からはニューマシンにしてグループCに適合したLC2が登場する。 LC1は合計4台が作られた。そして現在も4台ともに健在である。そして4台のうち3台が別々に優勝を記録しており、優勝できなかったのはシャシーナンバー0003のみである。ロッソビアンコ博物館が所有していたのは、1号車ともいえるシャシーナンバー0001。モンツァにデビューした2台のうちの1台で、この車がポールポジションを獲得している。レースではリタイアを喫したが、次のシルバーストーンでは見事この0001が優勝した。現在もオランダのローマン博物館に保存されている。 文:中村孝仁 写真:T. Etoh

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