最新Macを連続発表! 10月の最終週、アップルはMacの新製品を相次いで発表した。 その背景にあるのは、同社が主要製品へといっせいに導入を進めているAI機能群「Apple Intelligence」の存在だ。日本語への対応は2025年4月以降とまだかなり先のことだが、アメリカでは10月28日から利用可能になっている。 筆者は今回、明日8日の発売を控えた最新機種「MacBook Pro 14インチ(M4 Pro搭載モデル)」の実機をテストする機会を得た。性能や使い勝手を確認しながら、Macの新しいラインナップに込められたアップルの思惑を探ってみよう。 「M4」シリーズを搭載 今回発表されたMacは、3つのジャンルに分けられる。 1つ目はデスクトップ型の「iMac」。次に小型の「Mac mini」。そして「MacBook Pro」だ。 特徴はいずれも、新しいプロセッサーである「M4」シリーズを搭載して性能アップしたこと。M4は、今年5月に「iPad Pro」で初めて採用されたプロセッサーだが、Macへの採用は今秋からとなった。 iMacはカラーリングが変わったもののデザインに変更はなく、MacBook Proも外観上の変更は加えられていない。 14年ぶりのデザイン変更 Mac miniについては、じつに14年ぶりのデザイン変更がなされ、サイズが19.7cm角から一気に12.7cm角まで小さくなった。 アップルが販売する外付けトラックパッド「Magic Trackpad」より小さく、まるでキャンディの缶のようだ。 ここまで小型化できたのは、現在のMacが使っているプロセッサー「Mシリーズ」がもともと、モバイル機器向けの技術を軸にしているからだ。 性能が高い一方で消費電力は低く、コンパクトな基板で構成されている。冷却がきちんとできさえすれば、バッテリーを積まなくていいぶん、サイズを小さくできるわけだ。iMacも、ディスプレイ内蔵で1.1cmと薄いが、それも同じ事情で可能となったものだ。 こうしたトレンドはWindows PCでも進んでいるが、アップルは「14年ぶりの刷新という機会」を使ってわかりやすくアピールしてきた。宣伝のうまい同社らしい訴求の仕方といえるだろう。 進化を遂げた第4世代 すでに述べたように、新製品の特徴は「M4」という新しいプロセッサーにある。2020年に登場し、Mac向けとしては初代にあたる「M1」から4世代目であり、かなり大きな変化を遂げている。 今回は、アップルから「M4 Pro」(CPUコア14・GPUコア20・メインメモリー48GB)を搭載したMacBook Proの評価モデルを借りているので、そのスペックから検証してみよう。 手元にある機材や過去にテストした製品のテスト結果をまとめ、グラフにしてみた。 高性能を示す2つのグラフ 以下の2つのグラフは、CPUとGPUの性能を測る「Geekbench 6」というソフトでのテスト結果である。参考として、最新のiPhoneである「iPhone 16 Pro Max」と、M4を搭載した「iPad Pro」の数値も入れてある。赤い点線で枠囲みしてあるのが、今回のM4 Pro搭載MacBook Proだ。 際立って高いマルチコア性能 M4 Proはその名のとおり、性能重視のプロ向けプロセッサーである。さらに上の「M4 Max」もあるが、ハイグレードな性能を求める人向けの高付加価値品であることに変わりはない。 M4 Pro搭載MacBook Proは、今回グラフにまとめた機種の中では群を抜いて性能が高い。昨年のモデルである「M3 Pro」搭載製品からの性能アップも著しいのが一目瞭然だ。 目を引くのは、CPU1コアあたり(シングルコア)の性能はそこまで変化していないのに、マルチコア性能の伸びが際立って大きい点だ。 また、OSが異なるため参考値にとどまるものの、iPad Proに使われているM4のテスト結果がM3 Proに迫っているのも興味深い。 だが、これらの数値と同様に重要なテスト結果がもう1つある。それは何か? 「AIの能力」を計ってみたら…? もう1つの重要なテスト結果とは、「AIの推論能力」をチェックしたものだ。「Geekbench AI」によるテスト結果が、非常に興味深い内容になっている。 左端にある2020年登場のM1に比べ、AI戦略がターゲットに入ってきた2023年発売の「M3 Pro」以降で、性能が急速に上がっているのがわかる。この背景には、2020年の段階では負荷の大きな生成AI利用はそこまで増えておらず、「モデルを最適化したAIを重視した設計になっていなかったから」という事情がありそうだ。 同時に、今年発売の「iPad Pro」「iPhone 16 Pro Max」「M4 Pro搭載MacBook Pro」でのAI推論性能が同クラスである、というのも興味深い結果だ。 これは、プロセッサーの中でAI推論をするしくみである「Neural Engine」が、各機種でほぼ同じ性能となっているから起きることだ。冒頭で述べたApple Intelligenceは、Neural Engineを活かし、ほとんどの処理をクラウドではなく機器の中でおこなう。 Apple IntelligenceはM1でも動くことになっているが、より快適に動作するのは最新のNeural Engineを搭載した新機種……ということになるわけだ。 「メモリーの増量」が意味することは? アップルは今回、新たに発表した製品群でメインメモリー量をいっせいに増やしている。 従来のMacは、低価格なモデルでは8GBのメインメモリーを搭載していた。だがこの秋からは、全機種で「16GB以上」に増量されている。 しかも、新しく発表された製品だけではなく、発売済みの「MacBook Air」についても、8GBからだったメモリーを、同価格に据え置いたまま16GBからに変更して出荷する。 この動きはMacだけではない。 メモリーのメーカーに訪れた「好機」 iPhoneについても、今秋の製品からメインメモリーが全機種で8GBになり、先月新機種が発表されたばかりの「iPad mini(A17 Pro)」も、前モデルでは4GBだったメインメモリーを8GBに変更している。 なぜメインメモリーの容量を軒並み増やしているのか? Apple Intelligenceのような機能では、多数のAIモデルが併用される。それらはメインメモリーの中に配置され、Neural Engineなどで処理される。したがって、メインメモリーはそのぶん多く必要になる……という想定をしているからである。 こうした傾向はアップルだけのことではなく、他のPCメーカーやスマホメーカーにもみられる。AIの導入は機器メーカーだけでなく、メモリーのメーカーにもチャンスをもたらしている、といえるかもしれない。 Apple Intelligenceより「ハードの魅力」を 冒頭で述べたように、日本語の環境ではまだ、Apple Intelligenceは使えない。Mac上の設定項目を確認しても、現状では「使用できません」との表示が出るだけだ(使用言語の設定を英語に変えれば使用可能)。 アップルは、Apple Intelligenceを慎重に開発している。提供が始まったアメリカでも、機能が一挙に公開されたわけではない。今後数ヵ月をかけて機能が追加され、充実させていく方針を採っている。日本でのスタートは早くとも2025年4月であり、それまでは慌ててもしかたがない……という部分はある。 そうなると、新しいMacを買うかどうかの決め手となるのは、きわめて常識的な話ではあるが、新しいハードウエア自体の魅力ということになる。 デザインが大きく変更されたMac miniの魅力はわかりやすいが、MacBook Proの場合は果たしてどうだろうか? Nano-textureディスプレイの実力 新しいMacBook Proは一見、プロセッサーが変わっただけに見えるが、じつは結構細かく進化している。 今回テスト使用したモデルには、「Nano-textureディスプレイ」という加工がなされている。いわゆる反射低減処理なのだが、ザラついた質感はなく、非常にスッキリとした見栄えでありながら、映り込みを大きく減らす効果がある。 Macは伝統的に発色重視の光沢ディスプレイを基本としているが、反射を嫌う人には魅力的だ。単なる低反射ディスプレイとは異なる、美しいディスプレイに仕上がっているからだ。 最高輝度を比べたら ただし、反射低減の代償として、ピーク輝度は下がってしまう。 映り込みのないディスプレイは見やすいが、映像の純度や高い輝度がもたらす発色を重視するなら、通常モデルのほうが向いている。 Nano-textureディスプレイを選ぶと、価格が2万2000円も上がるのも痛いところだ。微細な加工を施しているので、メインテナンスとして指紋や汚れを柔らかい布などでていねいに拭いてやる必要もある。あくまで必要な人に向けた選択肢、というところだろう。 カメラの進化は? カメラも大きく進化した。 動画のドット数自体は1920×1080ドットと同じだが、若干の解像感向上と発色改善が見られる。 そして、いろいろな機能が追加されているのが大きい。 「センターフレーム」も搭載 アップルはiPadなどに、カメラがユーザーの顔を自動的に中心に近い場所へと捉え続ける「センターフレーム」という技術を導入しているが、これがMacBook Proのカメラにも搭載された。単に顔を中心に捉えるだけでなく、ズーム倍率なども変えられる。 さらに、「買い替えてよかった」と思えるであろう機能も搭載されている。 「買い替えてよかった機能」に もう一つ大きいのが、机の上に置いたものを1台のカメラで捉える「デスクビュー」に対応したこと。デスクビューとは従来、iPhoneの超広角カメラを使用して、ビデオ会議などの最中にデスクの上に置いてあるものを表示できるmacOSの機能を指していたが、この機能がMacBook Proのカメラにも搭載された。 書類やスマホなど、手元にあるものを見せるために、上から下へカメラを向けた、いわゆる「書画カメラ」というものがある。デスクビューが搭載されたMacBook Proの新しいカメラでは、別途機器を用意しなくて済むわけだ。 超広角カメラということもあって、さすがに映像にゆがみが出やすいきらいはある。とはいえ、自分の顔と机の上を同時に映しながら話せるのは大きい。 ビデオ会議をする機会は引き続き多いが、そこではこうした機能の存在が望ましく、ありがたい。この機能自体が「買い替えの決め手」にまではならないかもしれないが、「買い替えてよかった機能」の1つにはなるだろう。 「地味」だが「良い」変更点 今回のテスト対象ではなかったが、MacBook Proとしてはより安価なM4モデルでも「USB-Cが3つになった」ことは大きい。 従来は左側に2つだけだったが、M4モデルでは右側にも1つ追加された。拡張性が上がったこと以上に、左右どちらからでも充電できる、ということが地味に利便性を高めてくれる。 性能そのものより価格重視でMacBook Proを選びたい人にとって、隠れた良い変更点といえそうだ。 「買い替えタイミング」をどう考えるか 最後に、iMacについても触れておこう。新しいiMacは果たして買いなのか? 現在、Appleシリコン移行後のモデルを使っているなら、すぐに買い替える必要はないかもしれない。M1でもApple Intelligenceは使えるし、性能面もまだ問題になっていないからだ。 ただし、当然ながらMacも、販売から時間が経過すれば「中古買い取り価格」が下がってくる。アップルは自ら製品を下取りするようになっているが、それを新機種購入の費用にあてる人も増えている。 買い取り価格のことを考えるなら、販売開始から2年もしくは3年くらいが、買い替えの美味しいタイミングではないか……と筆者は考えている。 なお、インテル版のiMacを使っているのなら、間違いなく買い替えがおすすめだ。デザインも性能も、まったく違うレベルにまで進化しているし、OSのサポートが終了する時期も近づいているからだ。 使いたくなければ、「ノー」と言えばいい…ついに、「Apple Intelligence」で露わになったアップル独自の戦略
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