娼婦として働く25歳白人女性の悲しい現実…アメリカ唯一の合法風俗は「救い」なのか

ラスベガス、ハリー・リード国際空港から西に97km。およそ1時間のドライブ中、剥き出しになった岩山をいくつか超え、地平線が見える砂漠地帯を抜けてナイ郡パウランプに辿り着く。文字通り、人里離れた土地だ。その一角に建つCHICKEN RANCH。アメリカ国内で唯一合法化されているネバダ州の売春宿の一つだ。そこで働く女性たちの声を聞いた。 両親は離婚して、11歳で養子に出される 15センチはあろうかというハイヒールを履いたサディは、歩きにくそうだった。両腕と左腿に入れたTATTOOが目を引く。ブロンドヘアに見えるが、染めているようだ。毛先から20センチほどはピンク色だ。 25歳の彼女は、カリフォルニア州サンフランシスコ近くの、海沿いの地で生まれた。 「人口8万人ほどの小都市だった。最も、生後間も無く、北に車で2時間半くらいの場所に引っ越したの。オリーブ畑が広がっていた。住民は8000人弱の田舎で、のんびりと暮らしていたわ。父は警備員、母は専業主婦で、私は一人っ子だった。 2歳の時、両親が離婚した。それで父方の祖母が私を世話してくれたんだけど、色々問題があってね……。母の元へ行くなんて話もあったし、親友の家で過ごす時間が長くなった。11歳の頃、養子として別の家庭に引き取られた。私の人生で一番哀しかった日ね。その後、すぐに馴染んだけれど」 RANCHでの取材を重ねていると、生い立ちに恵まれなかった女性と出会うことが多い。サディは早口で喋ったが、その様が逆に痛々しかった。 「幼い頃、祖母にディズニーランドに連れて行ってもらった。シンデレラとかプリンセスに憧れたわ。成長してからも、ああいうテーマパークで仕事が出来たらなって思っていた」 祖母は常々「家族を大事にしなさい」と彼女に言ったが、共に過ごす事が適わなくなる。その理由について質すと、彼女は視線を外した。根掘り葉掘り訊くことは、躊躇われた。 「里親は窓ガラスの施工会社を経営していて、明るい家庭だった。私の他に6人の子を預かっていて、一気に大家族になったの。フィギュアスケートやテニスもやらせてもらったけれど、私は音楽にハマっていった。 小学校は近所の公立に通ったけれど、新しい家庭に入ってからはホームスクールで学んだ。自分のペースで勉強出来る方が私には合っていたのよ。中学、高校の過程は自宅で学習したわ。普通の人よりも3年早く、15歳で高校を卒業した。 一人で机に向かう事がどんどん好きになっていった。いつの間にか、音楽を聴くことと並行して読書も趣味になった。今でも、サイエンス・フィクションを読み出すと、止まらないわ。CIAとかマフィアが出てくる小説も好みね(笑)」 ホームスクールだったとはいえ、15歳で高校卒業に必要な単位を全て履修するには固い意志が必要だ。彼女は里親に認められたかったのではないか。あるいは居場所を探していたのか。 「とってもいい人達だったから、日々の会話も楽しかった。でも、15で高校を卒業しても、なかなか仕事に就けないのよ。エスティシャンの資格を取ったって、未成年という理由で就職は断られた。16歳の時、アパレルメーカーの小売店で働いた。数カ月だったけれど、お客さんにジーンズやパーカー、Tシャツなんかを売った。クレジットカードの勧誘もやったわね。いつまでも里親に頼っていられないでしょう。懸命に働いた。 アップルパイを売る店、ドライフルーツを扱う店、ホテルにも勤務した。フロントデスクでお客さんと接したわ。歯科医院のマネージメントの手伝いもやった。それから学校通って、透析技師の資格を取得したの。腎臓に問題を抱えた方のケアね。そういう人々を支えたい気持ちからよ」 CHICKEN RANCHに安心した サディは透析技師の資格を得るために、オンラインの大学に入っている。現在も在籍中で、コミュニケーションを専攻中だ。学ぶことへのモチベーションが高いようだ。 そんな彼女が、なぜ娼婦を選んだのか。 「19歳の時、旅行でコロラドスプリングスに行ったの。そこで、ストリップバーでちょっと稼いだ。正式な契約じゃなかったけどね。数日間の飛び入りみたいな感じ。 当時の私はレストランで働いていて、週給で800ドル近く稼いでいた。悪いお給料じゃなかったわ。でも、そのお店が潰れることになって、仕事を探さなきゃ行けない状況に陥った。COVID-19(コロナ)の影響よ。あぁ、コロラドではお金になったなって思い出して、21歳でストリッパーになった。最初はネバダ州のリノ、その後ラスベガスへ移ったの。やがて、CHICKEN RANCHを知って興味を持った。物凄く興奮して応募し、採用されたの。ここで働き始めて2年半になる」 サディは書類審査の際、CHICKEN RANCHが犯罪歴の有無の提出を求めた点に、安心感を覚えた。 「法律で認められているところに惹かれた。指紋もとったし、HIVはもちろん、性病の検査、当時はCOVID-19のテストもあった。徹底していると感じたし、雇用する人をきちんと保護する姿勢が良かったわ。 まず2週間の契約を結んだ。とても働きやすかった。部屋も食堂もトイレも清潔に保たれているし、バーやスパがあって、バンガローでも落ち着けて、外に出れば自然がある」 サディがRANCHで働く最も大きな理由は、やはりカネだった。 「32歳くらいまで、この仕事をやって稼ごうかなと。今、私がコミュニケーションを専攻しているのも、このビジネスに役立つからよ。明るい人、自信家、陰のある人……、色んな人がやって来るでしょう。私との時間を共有してくれた全員に、心から満足してもらいたい。だから、接し方には気を遣っている。コミュニケーションを多角的に学ぶことって、本当にためになるわ」 外見とは裏腹に、サディの学習意欲はかなり高い印象を受けた。 「大学はルイジアナ州立大あたりを考えたこともある。でも、育った州外の公立大は、授業料が高くなるでしょう。色々検討して、オンラインの大学に決めたの。6カ月で3575ドルだから、十分払う事が出来る。 将来は、さらにコミュニケーションを磨きたい。サンノゼにコミュニケーション論が有名な大学があるの。そこの授業料は卒業までに78000ドル。奨学金が出ないコースなのよね。だから、貯蓄している。しっかり学を身に付けたいわ」 米国大学の費用は、日本の私大医学部と同レベルと言っていい。「いい教育を売る」という考えが根底にあるため、本気で知識を得たい、レベルの高い教授やクラスメイトから刺激を受けたいと願うなら、金銭面の準備が欠かせない。 高校時代に抜群の成績を収めていた学生が、裕福でない育ちをしている場合、有名大学が手を差し伸べてくれる。が、サディの希望する大学は、そういったケアがなされないようだ。現在、彼女が通っているオンライン大学をどんな成績で終えるかにもよるが、本人がしっかりリサーチし奨学金ゼロと突き付けられたのであれば、カネを貯める以外に方法は無い。 「私もそれなりに様々な仕事をこなして来たし、複数の土地で生活した。おカネを作ってこの仕事を引退したら、コミュニケーションを突き詰めて学ぶ。ゆくゆくはサンフランシスコあたりで暮らしたいわね。歯科医院に勤めていた頃、職場も患者さんも、アッパーミドルクラス以上の人々ばかりで過ごしやすかったの。ああいう空間に身を置きたいと常々考えている。 そして、病気にならないために、いかに衛生が大切かを説く活動がしたいわ。出来れば、そんな学校を創れないかと思っている。サンフランシスコのベイエリアにね」 CHICKEN RANCHで働く中で、最も幸せを感じたのはいつですか? と訊ねると、こんな回答だった。 「職場の仲間が23歳の誕生日に、サプライズパーティーを催してくれたの。私の好きなケーキをと、大きな花束を用意してくれた。お客さんは無しでの祝福だった。カードに、それぞれが温かい言葉を記してくれた。何て素敵な人たち何だろうって、心が震えちゃった。 ここで働いて、オフをもらってまた戻って来るでしょう。仲の良い子がいないと、やっぱり寂しくなるな」 多くの娼婦と同様、サディも2週間CHICKEN RANCHに勤務し、その後オフをもらってまたこの場所に戻ることの繰り返しだ。2週間で平均何人の客を取るのか? と訊ねると、「平均は言いにくいわ。3人の時もあれば15人だったケースもある」と答えた。 「とってもいい人達だった」と語った里親に、サディは娼婦として働いていることを告げていない。ピンク色の毛先が、11歳時の彼女の叫びを物語っているかのようだった。 アメリカはフェアじゃない…合法風俗で働く41歳の元モデル女性が「性」を売り続ける理由

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