空き時間に手軽に働ける「スキマバイト」。スマートフォンのアプリに登録して働く人は3200万人を超え、中には介護や保育などの求人といった人手不足に悩む業界にも広がりつつあります。幅広い世代で利用者が増える一方で、さまざまなトラブルも…。 ■空き時間に働ける“スキマバイト” これからスキマバイトで働くという小林さん（22）。 この日の仕事は、カレー店での調理の補助です。お店に着くと、チェックイン用の二次元コードを読み込み、すぐに勤務開始。 隙間時間に短時間から働けるスキマバイト。履歴書の提出や面接は必要ありません。 声優の養成所に通っている小林さんは、突然のオーディションなどもあり、スケジュールの調整がしやすいという理由で、スキマバイトを始めたといいます。 小林さん（22） 「自分のできる時間帯で、いろんな仕事があったりする。いままでやったことない仕事とかも体験できるし、お金ももらえるしみたいな」 ■スキマバイト“労働者”1年で2倍に 大手のスキマバイトアプリに登録して働く人は、この1年で倍増。のべ3200万人を突破しました。 中には介護や保育などの求人もあり、人手不足に悩む業界にも広がりつつあります。 小林さんは仕事が終わると、「こんな感じで、すぐ入金される」と話した。この日は2時間で2326円稼ぎました。 すぐに手元に給料が入ることも、魅力のひとつです。 お店の人もスキマバイトのメリットを感じていました。 サファリカレーショップ中野店・安部美紀店長 「求人を出してもほとんど（応募が）来なかったのに、（スキマバイトで）募集したらすぐいっぱい来た」 「（スキマバイトの）おかげでやれてる感じがある」 ■急拡大の一方…半数近く“トラブル経験” 人手不足に悩む業界と手軽に働きたい人たちの需要がマッチし、急速に広がったスキマバイト。 しかし今、さまざまな課題が浮き彫りになってきています。 株式会社タイミー・小川嶺代表取締役 「事業者の実態確認に、厳正に取り組む事を実施いたしました」 最大手スキマバイトサービスのアプリ内に、断定はできないものの闇バイトと疑わしき求人が数件掲載されたことが判明。運営会社は事業者の確認を強化するとしました。 また、厚生労働省も…。 福岡資麿厚労相 「（スキマバイトについて）労働基準関係法令の違反が認められた場合、監督指導を行うなど適切に対応したい」 1人が複数の会社のアプリを併用してスキマバイトをした場合、適切に時間管理ができず、労働基準法の上限時間を超えてしまう可能性も指摘されています。 さらに、スキマバイトで働いたことがある人への調査では、「仕事内容が求人と違った」など、半数近くの人が何らかのトラブルを経験していることが分かっています。 ■スキマバイト中に事故 杖なしで歩けない大けが 宮城県に住む中村さん（仮名・48）は去年3月、スキマバイト中の事故により杖なしでは歩けないほどの大けがをしました。現在もリハビリを続けています。 中村さん（仮名・48） 「ここが痛い。ギプス巻いてるんですよ」 「就職氷河期世代」にあたる中村さん。20代の頃から日雇い派遣などに頼る生活を送ってきたといいます。 中村さん（仮名・48） 「ずっと非正規暮らし。40代になると、非正規すら雇ってくれない。スキマバイトをやらざるを得なくなってしまった」 2種類のスキマバイトアプリを使って、生活費を稼いでいたという中村さん。 事故が起きたのは、月の半分ほどスキマバイトをしていたピザ店での配達中のことでした。 店側が渡し忘れた商品があり、急いで再配達に向かっていたとき、「土砂にタイヤが取られて、右足をバイクに挟まれてしまった」と話します。右足首の骨折を始めとした全身の大けが。仕事を続けることも難しくなってしまいました。 中村さんは、この事故の要因のひとつに、スキマバイトに対する安全教育の不足が関係していたのではないかと考えています。 中村さん（仮名・48） 「配達の仕事の説明とか、どこが危険だとか、正直教えてもらえない。研修もない。初回入ったときに、10分、15分のDVDを見せられただけで『はい終わり』『即配達に行け』というような感じだった」 通常のアルバイトには、時間をかけて行われる安全運転のための研修が、配達業務経験のあるスキマバイトの中村さんは、10分ほど研修ビデオを見ただけで終わったと話します。 ■スキマバイトに関する相談増 法律規制の必要性 事故の後、中村さんは個人が加盟できる労働組合に入りました。 その労働組合「仙台けやきユニオン」には、スキマバイトに関する相談も増えてきているといいます。 仙台けやきユニオン・鴫原宏一朗さん 「研修を受けられないという声はすごく多い。『安全研修を受けました』という紙に名前だけ書いてと言われて、作業に従事したという話も聞いたことがある」 「（労働者は）思っているより、客観的に危険な状況に置かれてしまう」 さらに、労働問題に詳しい弁護士は、法律による規制の必要性を指摘します。 旬報法律事務所・大久保修一弁護士 「安全教育に必要な時間が確保される契約になっているか、気になっている。ただ単に『安全教育が必要ですよ』と周知するだけではなくて、契約上、安全教育が必要ということであれば、（安全教育の）時間も確保した契約にしなければならないと定める必要がある」 ■「立場の弱さ…」労働者が意見言いづらい構造 事故に遭った中村さんは、スキマバイトの立場の弱さも感じたといいます。 中村さん（仮名・48） 「まず、名前で呼ばれない。『おいタイミー』『おいシェアフル』みたいに、高校生に怒鳴られますから。楯突けばすぐ『帰って』ってなるから、なにも言えない」 中村さんが恐れていたのは、アプリに搭載されている「ブロック機能」。 職場の責任者に「もう来てほしくない」と判断されると、そのアプリ利用者にだけ求人を表示させないことができるため、意見を言いづらい構造になっているといいます。 旬報法律事務所・大久保修一弁護士 「契約が一日一日になっている形態。使用者側からすると、気に入らなければ『別の人を探せばいい』という感覚になりやすい。『きょうは帰っていいよ』とか、給料をちゃんと払わないとか、ひとりひとりの雇用に関してずさんに扱ってしまう」 ■労災適用も…国の最低保障額「生活できない」 中村さんのけがには労災が適用され、月10万円ほどの休業補償がもらえました。 しかし、一日に換算するとわずか4090円。国が定める最低保障額です。 「この額では生活ができない」と、ピザ店の運営会社と団体交渉を行った中村さん。 事故からおよそ9か月後、運営会社から見舞金50万円が支払われ、後遺症の補償金などについても交渉を進めています。 ピザ店の運営会社は日本テレビの取材に対し、「業務中に重大なけがをされたことに心を痛めている」「補償の案内が遅れてしまったことを課題ととらえる」とする一方で、「事故そのものは自損事故で、必要な安全教育は行っていた」としています。 中村さんは、スキマバイトに頼り切る生活について、こう語ります。 中村さん（仮名・48） 「労働できるのかってなると、できない。労災に遭った場合、結局満足な補償が得られない。簡単に稼げるとは思うけど、けがをするとこういうことにしかならないのが実情」 （4月14日『news every.』より）
