「一般市民の皆様には、ご迷惑をおかけしました」 六代目山口組から神戸山口組が分裂し、十年にわたって続いてきた壮絶な抗争がついに終わった。 4月7日午後、圧倒的な戦闘能力で抗争を展開していた、六代目山口組の森尾卯太男本部長、安東美樹若頭補佐、津田力若頭補佐が兵庫県警本部を訪れた。そこで、六代目山口組は「抗争を終結する」として、 「今後、神戸山口組の井上邦雄組長らを含めて、六代目山口組の処分者とはもめごとを起こしません」 という内容の誓約書を提出したのだ。ここには「一般市民の皆様には、ご迷惑をおかけしました」という言葉もあったという。 六代目山口組からの一方的な抗争の「終結宣言」がなされたのだ。 2019年11月、神戸山口組の古川恵一幹部が兵庫県内で射殺されたのをきっかけに、六代目山口組は大攻勢をかけてきた。神戸山口組は劣勢の展開を跳ね返せず、池田組、宅見組など有力組長が次々と離反した。「六代目」と「神戸」のあいだで勝敗は明らかになっていたのだ。 分裂当時、六代目山口組約14000人、神戸山口組約6100人だった組員は、昨年末の時点で六代目山口組が6900人に減り、神戸山口組にいたっては、わずか120人にまで減少した。 「注目はいつ井上組長が白旗をあげるかだった」(捜査関係者) 今年3月になって、現代ビジネスでも既報の通り、六代目山口組と親しい指定暴力団・稲川会が主導した「和解」案が動いた。全国の暴力団組織が「連判状」に署名し、それを井上組長に届けて、引退と身の安全、さらに資産の保全を約束するという計画のもと、稲川会は六代目山口組の了解のもとに動いていた。 「要望書」に切り替えられた連判状 しかし、最終段階になって九州の暴力団組織が署名を保留。また井上組長は「連判状」を受け取らない姿勢が続いた。そこで稲川会に加えて住吉会が4月4日に六代目山口組の高山清司若頭を訪ね「連判状」ではなく、「要望書」に切り替えたという。 現代ビジネスが入手した「要望書」の写真によれば、こう綴られている。 《六代目山口組に於ける2015年より続く一部の離反者達との抗争も 早10年の歳月が流れました 斯道界の有志が 現在の抗争がもたらす影響を深く憂慮しておりこの抗争が長く続く事は 地域社会の安定を脅かし 一般社会に多大な迷惑を掛けるのみならず 任侠界にも甚大なる障害をもたらすと 言わざるを得ません》 と長期間の抗争に懸念を表明。 そして 《任侠道の原点に帰り 抗争の早期終結を決断していただきたい》 《有志友好団体一同は 中立な立場から 不退転の決意で仲介に入る事も 厭いません》 と強く六代目山口組に抗争終結を嘆願している。 しかし、六代目山口組にとって相手は神戸山口組だけではなかった。「現代ビジネス」で数度にわたって報じてきた事件がある。2023年4月、弘道会幹部の余嶋学組長が経営する神戸市内のラーメン店で、絆会ナンバー2の金成行被告に射殺された抗争だ。 絆会は織田絆誠会長が、2017年に神戸山口組から割って出て結成した。絆会がヒットマンを放った相手が、六代目山口組のトップ、司忍組長の出身母体の弘道会幹部だったことは、大きな衝撃を与えた。 臨時定例会に現れた高山清司若頭 「六代目山口組は、絆会への報復にも動いていた。弘道会の幹部が絆会のヒットマンにやられたというのは、メンツが丸つぶれ。抗争がさらに大きくなるのではないかと危惧されていた」(捜査関係者) だが「要望書」が六代目山口組に届く前後に、周辺で急激な動きがあった。 4月初め、岐阜県の弘道会の事務所を絆会の関係者が訪ねていた。また、神戸山口組の関係者も六代目山口組幹部と会談をしていた。 「抗争しているもの同士が話し合いをするというのは、異例なことだ。この時点で、抗争終結の方向性とその後について、六代目山口組を中心に模索されていた」(捜査関係者) そして、六代目山口組の最高幹部が兵庫県警に「終結宣言」を告げた翌日、4月8日に愛知県内で直参組長が全員参加する「臨時定例会」が開催された。 ナンバー2の高山清司若頭が直参組長を前に 「抗争が一方的に終結したことを、面白くないと思う者もいるだろう。それにずっとかかわってはいけない。(神戸山口組らを)相手にせず、前を向かなければならない」 などと語ったという。 緊急集会の模様を知る六代目山口組の関係者はこう証言する。 「高山若頭のお言葉は、数分程度でしたが、非常に重みがある内容でした。菱形の六代目山口組の代紋バッジは絶対に着用し、紺色のスーツとされていた。特定抗争指定暴力団 とされ、神戸の六代目山口組本部などでは集まれないため、長く大きな会合は行われていなかった。それだけ、抗争終結の通達の会合の重要性を示すものだった」 この関係者はさらにこう続ける。 「神戸山口組の井上組長や絆会の織田会長らいくら強がりを言っても引退に追い込まれる。ただ、親分についていくしかなかった若い衆は、六代目山口組に移籍することもあるだろう。4月になって神戸山口組や絆会の関係者と六代目山口組の幹部が接触しはじめたのは、その調整のためだ」 大阪万博が引き金か? 「10年戦争」は、かくて六代目山口組の一方的な「終結宣言」で終わるのか。警察庁の幹部はこう語る。 「六代目山口組はまだまだ抗争を続ける余裕はあるはずだ。井上組長のタマだけは狙い続けるのではないか。特定抗争指定暴力団の指定はすぐに解除されないはず。 ただ、司組長も83歳、高山若頭も77歳と高齢だ。抗争が続くと、七代目への代替わりにも影響する。神戸山口組や絆会も活動する組員もほとんどおらず壊滅状態。 稲川会、住吉会が動いたこともあって、六代目山口組も決着をつけるいい理由になったはず。 それと特定抗争指定暴力団が続く限り暴力団としての活動は極めて制限され食っていけないからだ」 六代目山口組側の「後継」問題にも、終結劇の背景があったというのだ。 さらに暴力団を取り巻く環境の変化も見逃せないという。 「2021年の東京五輪はコロナ禍で無観客で、世界からも来る人は限られていた。しかし、4月13日から開幕した大阪・関西万博は日本の威信をかけた国際イベントだ。 世界中から要人が訪れる。そんな中で山口組が抗争で一発でも撃てば日本の信用は地に堕ちます。そんなことがあれば、警察というより国がさらに暴力団への介入を強めることになる」(警察庁幹部) 「結社罪」はヨーロッパなどですでに法律となっている。組織的な犯罪集団を結成したことそのものが罪となるわけで、もともと法制化を進めようという動きがないではない。この幹部はこう続ける。 「結社罪ができれば、暴力団はすべてすぐに解散。そうしないと、全員逮捕となる。さすがに六代目山口組として、結社罪ができればやくざとしてやっていけないでしょう。業界延命のために、六代目山口組は抗争終結を選んだのでしょう」 【独自】人気ラーメン店長の組長を射殺容疑「最強ヒットマン」は逃亡しながら「山口組トップ」も狙ったか《服役中も同房者から慕われた「任侠」の信念》