戦後のベビーブームで生まれた「団塊の世代」は今年、全員が７５歳以上の後期高齢者となり、介護の需要が急増することが予測される。 　働く人の介護離職を食い止めようと、改正育児・介護休業法が４月に施行された。企業が従業員を支援する取り組みも広がっている。（谷本陽子） 　「介護は決して一人で抱え込まないでください」 　ＴＯＰＰＡＮエッジ（東京）が２月に開いたセミナーで、講師を務めるパソナライフケアのシニアマネジャー、継枝綾子さんが訴えた。参加者は現在介護中の人のほか、将来に不安を抱える人も多く、セミナーでは介護と仕事を両立する支援制度などについて解説。高齢の親が遠方にいるという４０代の女性社員は「不安は尽きないが、受講してやるべきことがわかった。今から準備したい」と話した。 　エッジ社では昨年の調査で約６割の社員が「今後５年間に親などを介護する可能性がある」と回答。だが全回答者の半数が「介護と仕事を両立する方法がわからない」と答えた。これを受け、同社は定期的なセミナーやガイドブックの改訂で社員に情報を提供。介護のために会社から遠い地域へ転居した社員に新幹線通勤を認めるなどの制度もある。総務部の高橋裕恵さんは「優秀な人材の離職を防ぎたい」と語る。 　総務省の２０２２年の就業構造基本調査によると、介護をしながら働く人は３６５万人。１７〜２２年に約１８万人も増加した。介護・看護を理由とする直近１年間の離職者は約１１万人で、１７年調査と比べて約１万人増えている。 　独立行政法人労働政策研究・研修機構の副統括研究員、池田心豪（しんごう）さんは「親の介護が必要になる社員の多くは４０〜５０代で職場の中核的存在だ。持続的に介護と両立できる働き方について、企業は社員とともに考え、取り組む必要がある」と話す。 　こうした働き手を支えるため、国は育児・介護休業法で仕組みを整備。独自の支援制度を設ける企業も出てきた。 　東京海上日動火災保険（東京）は、午前５時から午後１０時の範囲で就業時間を１５分刻みで変更でき、休憩も自由に挟める制度があり、家族を施設へ送迎する社員らが活用している。大成建設（同）は社員がケアマネジャーと打ち合わせの際に自分の働き方などを的確に伝えられる記入シートを用意した。親に関するデータから介護の切迫度などがわかるシステムを利用するのはハウス食品グループ（同）。結果を基に、上司らと面談することもできる。 　パソナライフケアの継枝さんは「介護休業は自ら介護するためだけではなく、介護の長期的な方針を決めて体制を整える準備に使ってほしい」と助言する。そのためには介護が始まる前から、法律や制度について理解を深めておくことが大切だ。「企業も働く人へ積極的に情報提供することが望ましい」と話す。 　親など高齢者が元気なうちから、どんな介護を受けてどのように過ごしたいかを話し合っておきたい。働きながら介護を続けるためには、地域包括支援センターやケアマネジャーなど介護、医療の専門家との連携も重要となる。「ＳＯＳを出せる場所を探しておきましょう」 　◆育児・介護休業法＝介護される家族１人につき通算９３日まで、３回まで分割して介護休業が取得でき、賃金の６７％が雇用保険から支給されるなど、働きながら介護や育児をする人の両立を支援する。４月施行の改正法では、４０歳前後の従業員に対して自社の介護休業制度を個別周知するなど、雇用環境の整備が企業に義務づけられた。