水凪トリさんの同名人気コミックを原作に据え、脚本を『心の傷を癒すということ』(2020年)や朝ドラ『舞いあがれ!』の桑原亮子さんが、主演を桜井ユキさんが務める “薬膳ドラマ”『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合 火曜22時〜)。 38歳独身の麦巻さとこ(桜井)が、一生付き合っていかなければならない病気によりすべてを失いながらも、週4日パートで働き、団地で質素に暮らしながら、隣に住む大家さん(加賀まりこ)とワケあり料理番の青年(宮沢氷魚)との交流に癒やされていく物語だ。そんな本作で、大きな魅力の1つとなっているのが、旬の食材を取り入れた食事で体調を整える「薬膳」である。 料理監修を手掛けるのは、映画『かもめ食堂』『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』『めがね』や、テレビドラマ『深夜食堂』シリーズ、朝ドラ『ごちそうさん』、ドラマ『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』など、数々の作品でフードスタイリグを手掛ける飯島奈美さん。 飯島さんが作品の中で作るものの多くは日常的な定番料理だが、携わった作品の出演者やスタッフからは「とにかく美味しい!」という感激の声がたびたび聞かれる。 飯島奈美さんへのインタビュー前編に続き、後編となる本記事では、『しあわせは食べて寝て待て』の現場で桜井ユキさんが「感動した」という「肉団子と野菜のスープ」をはじめとするドラマに登場したメニュー全3品に加え、飯島さんが特別に考えてくれたオリジナル薬膳メニューのレシピを紹介します。 (インタビュー・構成:田幸和歌子) 【前編を読む】俳優らも絶賛!飯島奈美が教える、より美味しい、より体にいい「定番料理」のコツ レンコンのすりながし入り「肉団子と野菜のスープ」(第1話より) <材料(2〜3人分)> キャベツ 1/6個 しめじ 1/2パック れんこん 150グラム 粗塩 小さじ1 水 600ml 【鶏団子】 鶏ひき肉 200g みそ 小さじ1 酒 大さじ1 水 大さじ1 しょうがみじん切り 小さじ1/2 玉ねぎみじん切り 大さじ2 薄力粉 小さじ2 <作り方> 1. キャベツは一口大に切り、しめじは食べやすくほぐし、れんこんはすりおろしておく 2. ボールに鶏ひき肉、みそ、酒、水、しょうがのみじん切りを加えて混ぜる。玉ねぎのみじん切りに薄力粉をまぶし、ひき肉に混ぜる。 3. 鍋に水600mlを入れて沸かし、鶏団子を一口大に丸めて加え、しめじ、キャベツも加える。鶏団子に火が通ったら粗塩を加える。 4. 3の鍋にれんこんを加え、2 〜3分加熱し味を見て薄ければ粗塩(分量外)を加える。 「ポイントは、お出汁に仕上げとしてすりおろしたレンコンをたっぷり入れること。レンコンは薬膳において、のどや肺を潤す役割があると言われています。すりおろすのはちょっと面倒ですが、薬膳の場合は皮ごと食べるので、今回は皮をむかなくてOK。レンコンを入れることで、とろみがつきますし、顆粒出汁などを入れないことで、キャベツやしめじの旨味や肉団子から出るお出汁を楽しむことができます。 普段、顆粒だしに慣れていると、もしかしたら1口目や2口目は物足りなく感じるかもしれませんが、ゆっくり食べているうちに素材の淡い美味しさが感じられるはずです。外食で濃い味の料理を食べる機会が多い方なども、たまには普段と違う味を試すつもりで楽しんでいただければと思います」(飯島さん、以下同) 体をより温めたいなら、生姜を入れるのがおすすめだそう。 「生姜が入っていると、薬膳的にも体が温まります。生姜は肉の中に入れなくても、例えばスープができた上にトッピングしたり、スープに入れずに、ほうじ茶などに生姜のスライスを入れて食事のときに一緒に飲むのでもOK」 美しい緑を楽しむ「そら豆ごはん」(第2話より) <材料> 米 2合 そら豆 さやで10本〜15本位 そら豆のゆで汁 2合の線まで(360ml目安) 酒 大さじ1 粗塩 小さじ1 昆布 5cm位 <作り方> 1. 米を洗って浸水し、ざる上げしておく。 2. そら豆はさやをむき、薄皮に切れ目を入れて400mlの沸騰したお湯でゆで、柔らかくなったらザルに広げて粗熱を取って皮をむく。ゆで汁も取っておく(ゆで汁に豆の風味を残したいので、程よい湯の量でゆでる。足りなければ水を足して調節する)。 3. 炊飯釜に米、酒、粗塩、冷ましたゆで汁の順で加えてひと混ぜし、昆布をのせて炊飯する。炊き上がったら昆布を取り除き、薄皮をむいたそら豆を加えてさっくりと混ぜ、少し蒸らす。 「一般的な作り方では、そら豆をのせてそのまま炊飯するため、あらかじめゆでる工程はありませんが、今回はドラマと同じく『そら豆の色を楽しむ』ための作り方をご提案します。 ポイントは、そら豆をゆで、ゆで汁でご飯を炊くこと。そら豆がすぐむけるように切れ目を入れてさっとゆで、ザルに広げて冷まておきます。ゆですぎると、皮をむいたときに崩れてしまうので、早めにあげましよう。 たっぷりのお湯でそら豆をゆでると、ゆで汁の味が薄くなるので、かぶるくらいのお湯でゆでましょう。そこに水を足せばすぐ冷めるし、便利です」 米の粒が感じられる「おかゆ」(第3話より) <材料> ※作りやすい分量 米 0.7合(110g) 水 750〜850ml <作り方> 1. 米を洗い浸水し、(浸水する際の水加減は大まかで良いです)ザルに上げる。 2. 鍋に米と分量の水を入れて中火にかける。 3. 沸騰したら鍋底に張り付いた米をヘラなどではがし、ふたを少しずらしてのせ、ごく弱く沸騰するくらいの火加減で15分炊く。火を止め、ふたを閉じ、5分ほど蒸らす。 「美味しいおかゆの作り方のポイントは、鍋底を1回ヘラなどではがすこと。米が張り付きっぱなしになって、鍋底が焦げるのも心配だし、対流したほうが美味しく仕上がると思ってそうしています」 米の粒の残り具合はその人の好みだけれど、飯島さんは「米がおかゆになる瞬間」を狙っているそう。 「おかゆをゆっくり時間をかけて炊くやり方もありますが、この作り方では、『米がおかゆになりました』という瞬間の米の、のびていないおかゆが食べられます。この時間で炊くと、米の粒も感じられるおかゆになり、食べ始めたときと食べ終わったときの違いも楽しめます」 飯島さんのオリジナル薬膳メニュー「春野菜のシチュー」 <材料(2人分)> あさり 200g 鶏もも肉 140g 春キャベツ 1/6玉 新玉ねぎ 1/2個 新じゃがいも 大1個 にんにく 1/2片 オリーブオイル 小さじ1 酒 50ml 水 250ml 昆布 3cm角 味噌 大さじ1/2 無調整豆乳 200ml 塩 適宜 <作り方> 1. あさりは砂抜きをする。鶏肉は一口大のそぎ切りにする。キャベツはざく切り、玉ねぎは皮をむき一口大に切る。じゃがいもは皮をむき半分は角切りに、残りはすりおろす。にんにくは皮をむきスライスして、芽を取る。 2. 鍋にオリーブオイルを引き、にんにくを炒める。香りが出たらあさりを加え、油が馴染んだら酒、水、昆布を加える。蓋をして加熱し、あさりが開いたら、あさりを取り出し、身を出す(一部は盛り付け用に殻付きのまま)。 3. 2に角切りのじゃがいも、鶏肉、キャベツ、玉ねぎを入れ蓋をして、沸騰したら弱火にし、10分煮る。 4. じゃがいもが煮えたら味噌を溶き、すりおろしたじゃがいも、あさりを加えて、一煮立ちしたら豆乳を加える。塩で味を調える。 「使用するじゃがいもでとろみ具合が違うので、すりおろしたじゃがいもは加減しながら加えてください」と飯島さん。 飯島さんによると、春野菜のシチューの食材にはそれぞれ次のような効能があるそう。 •気を補い、胃腸を整える(鶏肉、じゃがいも、キャベツ) •体の余分な熱や毒を排出(あさり、昆布) •体を内側から温め、冷えを改善(にんにく、味噌) •春の乾燥やアレルギー対策にも良い(新玉ねぎ、豆乳) 参考:『現代の食卓に生かす「食物性味表」』(日本中医食養学会) 俳優らも絶賛!飯島奈美が教える、より美味しい、より体にいい「定番料理」のコツ