玉木雄一郎氏を首相にする構想もあるか 参院選めぐり竹中平蔵氏が見解

 財務省解体デモなど、政府に対する国民の不満が爆発している。これに対して経済学者の竹中平蔵氏は「意味があまりない」「解体したところで税金が減るわけではない」とばっさり切る。一方で石破政権の支持率は低い。このままいけば次期参院選で自公で過半数を失う恐れもある。そうなった場合、竹中氏は「玉木雄一郎総理もあり得る」と語る。一体どういうことかーー。 なぜ「財務省解体デモ」は意味がないのか  「財務省解体デモ」が話題を呼んでいます。これについては以前の記事で「意味があまりない」むねを解説しました。解体してどうしたいのか、そこが明確でないことなどをその理由に上げました。が、他にも解体したところで税金が減るわけでもなく、税金を減らすにしても財源が明確になっていないこともその理由にあげられるでしょう。  これは国民民主党が掲げた年収の壁を103万円から178万円に引き上げる政策にも共通していることです。178万円に引き上げれば国民の負担は減るのかもしれませんが、その財源が示されていません。MMT(現代貨幣理論)のもと、いくらでも国は借金をできると主張する政党もありますが、実際問題、バランスが崩れれば国はデフォルトを起こしますし、とてもリスクの高いことです。だからこそ、国民民主党には政策の財源を明らかにしてほしかったのですが、残念ながら最後まで明確なものはありませんでした。  財政問題の本質は「入るを量りて出ずるを制す」という基本原則にあると考えています。減税するためには歳出削減をしなくてはいけません。しかし、歳出を削減するというのはとても大きなポリティカルパワーが必要です。それは玉木氏にも、今の石破政権にもありません。  たしかに、年金支給開始年齢の引き上げや医療費の自己負担割合の見直し、行政の電子化による人件費削減など、様々な歳出削減が考えられます。しかし、これらの改革は短期的には痛みを伴うため、政治家は避ける傾向にあります。  実際、日本の財政規模は拡大を続けてきました。約20年前の小泉政権下で、一般会計はずっと84兆円だったのが、金融ショックの時に100兆を超えて、そのままコロナの時まで119~120兆円に膨れ上がりました。2024年は選挙対策のために石破内閣が13.9兆円の補正予算を閣議決定しました。どんどん増えていく一方なのです。 民主主義の中には「財政膨張が自動的に組み込まれている」  私が小泉政権で経済財政担当大臣を務めていた頃は、「骨太の方針」を通じて歳出削減の道筋を示しました。当時は「プライマリーバランスの黒字化」という明確な目標を掲げ、それに向けた具体的な道筋を示していました。しかし、その後の政権では財政規律が緩み、コロナ禍を経て財政赤字は拡大の一途をたどっています。  民主主義の中には「財政膨張が自動的に組み込まれている」という問題があります。ノーベル経済学賞をとったブキャナン教授の指摘です。景気が悪い時には財政を拡大し、景気が良くなったら縮小するはずですが、実際には縮小しない。責任政治の人気取りのために支出を増やすわけです。絶対減らないんです。  これは日本だけの問題ではありません。アメリカでも財政赤字は拡大し続けていますし、欧州諸国も同様の問題を抱えています。しかし、日本の場合は高齢化が急速に進んでいるため、問題はより深刻です。 本当に歳出を削減するなら「年金の開始年齢を65歳から70歳に」  本当に歳出を削減するなら「年金の開始年齢を65歳から70歳にする」などの改革が必要ですが、そうした議論は進んでいないのが現状です。政治家は選挙を意識するあまり、有権者に痛みを伴う改革を提案することを避けています。しかし、このままでは財政膨張は避けられません。  さて、今の石破政権にはポリティカルパワーがないと前述しましたが、現在の石破政権を見て、明らかに「霞が関ベース」になっていると感じています。霞が関、つまり官僚が政策決定に大きな影響力を持っているのです。石破内閣が力を持てていないため、相対的に霞が関の力が強くなっています。もちろん、官僚だけでなく他のセクターも結構影響力を与えていますが、政策の実際は官僚が決めているといっても過言ではありません。  また石破さんは安全保障や地域創生以外のことに対してほとんど興味がないといわれています。だからこそ余計に「霞が関ベース」になりやすい。自分でこうやるべきだという感じで方針を出すことはほとんどありません。著書などを読んでも、とても経済政策や社会保障政策については深い関心を持っていないようにはみられません。 官僚からのレクをただただ受け入れる石破総理  実際、高額医療制度の見直しについても、一旦見送りが決まっていたものの、厚生労働省が巻き返して議論が再燃した経緯があります。これは典型的な官僚主導の政策決定プロセスです。本来であれば、政治主導で「この問題はこう決める」と明確に方針を示すべきところ、官僚の意向に流される形になったのです。  特に医療政策など専門性の高い分野については、石破さんが「興味ないはずなのに突っ込んだこと言ってる」と思われる場面もあります。が、それはみんな官僚による石破総理へのレクなんですよね。官僚からのレクチャー(説明)に基づいて発言しているということです。これは政治家として致命的な弱点だと私は考えています。  ちなみに、私が小泉政権で経済財政担当大臣を務めていた頃と比較すると、状況は大きく異なります。小泉首相は「官僚の抵抗勢力」と戦うという明確なビジョンを持っていました。「抵抗勢力」という言葉自体、官僚機構に対する挑戦状でした。しかし石破政権にはそのような明確な姿勢が見られません。 石破政権、政策決定プロセスに大きな問題  小泉政権時代、私たちは「官から民へ」というスローガンを掲げ、郵政民営化をはじめとする構造改革を進めました。その際、官僚からの反発は相当なものでしたが、政治主導で改革を推し進めることができました。しかし、石破政権ではそのような政治主導の姿勢が見られません。  石破政権の政策決定プロセスには大きな問題があります。例えば、経済対策を打ち出す際も、財務省や経済産業省の意向が強く反映されているように見えます。  石破さんは記者会見などで「専門家の意見を聞きながら」という表現をよく使いますが、その「専門家」とは多くの場合、各省庁の官僚を指しています。本来であれば、多様な立場の専門家から意見を聴取し、政治的判断を下すべきところ、官僚の意見をそのまま採用しているケースが多いのです。  これは日本の政策決定における構造的な問題でもあります。政治家が専門知識を持たず、官僚に依存する体質が長年続いてきました。石破政権もその例外ではなく、むしろその傾向が強まっているように見えます。  私が経済財政担当大臣だった頃は、経済財政諮問会議を通じて、官邸主導の政策決定を行いました。諮問会議では民間議員の意見も重視され、官僚の意向だけで政策が決まることはありませんでした。しかし、石破政権では諮問会議の機能が形骸化しているように見えます。 玉木雄一郎総理説  このような状況で参院選に向かう自民党の見通しは厳しいと私は見ています。このままだとかなり厳しい結果になるでしょう。なぜなら、今の政府には明確な政策ビジョンがなく、有権者に対して「この政権で何が変わるのか」というメッセージを発信できていないからです。  自民党内でも現政権の先行きを不安視する声が広がっています。特に若手・中堅議員の間では、このままでは参院選で議席を失うという危機感が強まっています。では石破おろしが本格化するかといえば、残念ながら、他になり手がいません。人気のある小泉進次郎氏でも小林鷹之氏でも高市早苗氏でも、総理になったところで自民党は勝つことはできそうにないからです。  次の参院選で自民公明が過半数を失った場合、当然、政界再編の可能性も浮上します。国民民主党と維新と一緒に連立政権を組んで、玉木雄一郎氏を総理にするという構想もあると私は見ています。この構想は一見突飛に思えるかもしれませんが、政治の世界では常にバックアッププランが検討されているものです。自民党が大敗した場合、党内からも「このままでは次の衆院選も負ける」という声が上がり、連立の枠組みを変える動きが出てくるのは当然です。 野田佳彦総理説も…  では長年自民党と二人三脚で連立を組んできた公明党がこうした構想を容認するかという疑問については、「容認しなくても仕方ない」と自民党は考えるでしょう。他にやり方がないのですから。公明党も現実主義的な政党ですから、自民党が弱体化した場合には新たな連立の枠組みを模索するでしょう。  さらに「玉木総理」以外にも「野田総理の可能性もある」と私は考えています。野田佳彦元首相は政界での経験も豊富で、自民党内からも一定の評価を得ています。政界再編の際のキーパーソンになる可能性は十分にあります。もっとも、野党にその力と気概がなければ、政治の低位安定がさらに続くことになります。

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