「え、マジで? 大丈夫?」僧侶たちによる法話の競演『H1法話グランプリ』で優勝した住職が明かす…アドバイスをくれた「意外な人物」

法話の『M-1グランプリ』を制した住職 お坊さんが法話の伝わりやすさや技術を競う大会『H1法話1グランプリ』(以下、法話1)。 お葬式の席くらいでしか法話に触れる機会のない私たちに、仏教に触れるチャンスを広げ、法話を競技にすることでエンタメ性(=伝わりやすさ)の高い法話が生まれている点については、前編記事『超宗派の僧侶たちがガチで法話を競う『H1法話グランプリ』で優勝!日本一に輝いた住職が明かす、M-1との「意外な共通点」』の通り。 ここからは、2023年大会優勝者の小谷剛璋氏(岡山県・福王寺)に、優勝までの軌跡を聞いた。 そこには、普通の法話では考えられない努力と、意外すぎる弟子との関係があった。 「私が指導しますから」と背中を押した人物 ——小谷さんは、なぜ法話1に出場しようと思われたんですか? 小谷剛璋氏(以下、同):弟子に「出てみたらどうですか?」と言われたからです。 ——弟子の推薦ということは、小谷さんの法話には定評があったんですか? 自分ではわかりませんが、私は以前、京都の大きなお寺に10年くらいいて、団体の方々への案内はよくやっていました。なので、大勢の人の前で話すことには慣れていたと思います。 ——とはいえ、団体向けの参拝案内と法話は別物のように思いますが。 だから、出場は不安でしたよ。ですが、弟子が「私も指導しますから出てください!」と熱量を持ってすすめてくれたので。 ——え、弟子が師匠に進言するって珍しくないですか? まして「指導します」とまで。 そうですよね。私たちはこれを「釣りバカ日誌状態」って呼んでいます(笑)。 ——『釣りバカ日誌』も、ヒラ社員が社長の「釣りの師匠」になる話ですね。ただ、弟子から「指導します」と言える関係であることが素晴らしいですね。 それから、うちのお寺は観光バスの受け入れをしていたのですが、私の代になってコロナ禍でストップしてしまいました。それで、法話で仏教のことを伝える機会が減っていた。だから、そういう場に出たいという気持ちも自分の中にはありました。 最初は弟子のことを見くびっていた ——大会は「各宗派の教えに沿った法話」を話す決まりですが、小谷さんはどんな話を? 真言宗の祖である弘法大師・空海は「眼(まなこ)明らかなれば則(すなわ)ち途(みち)に触れて皆宝なり」という言葉を残しています。「幸せって遠くのどこかではなく、何気ない友達との会話や、朝起きた時の気持ちいい天気など、身近にありますよね。みなさん、宝に囲まれて暮らしているんですよ」ということですね。 ——幸せになるのではなく、すでにある幸せに気付きましょうということですね。 真言宗では「即身成仏」を説きます。ずっと先の未来ではなく「今、この身のままで幸せじゃないですか」と。 ——それを、どんな風に法話にしていくんですか? 私の身近な幸せへの気づきは、弟子がもたらしてくれたで、そのエピソードから導入しました。 ——ここでもお弟子さんから! 存在感がありますね。 私は最初、彼のことをバカだと思っていたんですよ(笑)。いつも、「やりすぎ!」「攻めすぎ!」と。 ——というと? 出家して即「インドに行く」って言い出しました。そして、2週間後に本当に行っちゃったんです。 ——確かに「攻めすぎ」です。 私も「え、マジで? 大丈夫?」と思っていました。でも、向こうでインド仏教の最高指導者と友達になって、10ヵ月後に、その人を日本に連れて帰ってきた。仏道を進もうとする心を「発心」と言いますが、弟子は発心を行動に移すんですよね。これは、なかなかできないことです。 ——それをお弟子さんから学んだ。 そんな弟子が縁あって近くにいてくれることに気がついて、弘法大師さんの「眼明らかなれば〜」に繋がったんです。 法話1は競技であり修行の場だ ——その話を、大会で話そうとすると、やはり普段の葬儀での法話とは違いますか? まったく違います。葬儀などでは20人くらいが相手ですが、大会の本戦は1500人が入るホールですからね。しかも、法話で“競う”という経験も初めてでした。 ——その中でも優勝できた要因はなんだったのでしょうか? とにかく稽古量です。一人でもやりますが、ZOOMなどはかなり活用しました。オンラインで繋いで、聴いてもらったのは100人以上になると思います。 ——それは、どんな100人ですか? 知り合いを手当たり次第なので、お坊さんや会社員など様々です。知り合いの知り合いを紹介してもらったり、あらゆる人に聞いてもらいました。その上で、みなさんにフィードバックをいただいて、まず言われた通りにやってみるという稽古をひたすらやりました。 ——まず受け止めてやってみたんですね。その刺客たちのアドバイスで響いたものはありますか? みほとけちゃんというお笑い芸人さんがいるのです。彼女が「1人で稽古するときも、動画を撮りながらやってください」とアドバイスをくれました。それを実践して、かなり成長できたと思います。 映画や小説のテクニックも入れて ——多くのフィードバックを受け、話し方はもちろんですが、原稿はどのようにアップデートしたんですか? 映画や小説で使われる「感情曲線」を弟子が作ってくれました。ここには、聴く人が法話の登場人物である私や弟子に感情移入して共感してもらいたいという意図がありました。 ——法話では昔から「初めしんみり、中おかしく、終い尊く」という構成が良いと言われていますが。 それをそのまま使うのではなく、現代に置き換えて考えましたね。例えば「しんみり」は「共感」、「おかしく」を「飽きない」と置き換えたり。最後の「尊く」は「説得力」だと思ったので、お祖師さん(弘法大師・空海)の言葉を、現代の仏教にあまり触れていない人にも届かせるにはどうすればいいかを考えて言葉選びをしました。 ——そうやって稽古を繰り返した。ただ、漫才でも稽古をしすぎると「感情が見えない」などと言われ、ウケなくなることがあるといいます。法話はどうですか? 法話も同じだと思います。ただ、まずは完璧に身につけたからこそ感情が入れられると思っています。実際、私は本番でアドリブをめちゃくちゃ入れていました。しっかり身についているから、会場の良い反応があると「ありがとうございます」と、ニッコリしたりすることもできました。 小谷氏は、弟子との関係や多くのフィードバックを通じて、より伝わりやすい法話を作り上げた。仏教の誕生から2500年以上、その歴史の中で揉まれてきた言葉や考え方には、現代の私たちにも大切なエッセンスが多く含まれている。 それに触れる機会が、法話1の盛り上がりによってさらに増えることを期待してやまない。 (取材・文/Mr.tsubaking) 超宗派の僧侶たちがガチで法話を競う『H1法話グランプリ』で優勝!日本一に輝いた住職が明かす、M-1との「意外な共通点」

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