気づけば街中に「整体」「もみほぐし」「リラクゼーション」の看板…女性客が“おなら”よりも気にする“悩み”について施術側はどう考えているのか

 高齢化の加速や、健康・美容、癒やしに対する意識が高まり、昨今、街中にはマッサージ院やリラクゼーション施設などが目立つようになった。  コロナ禍前には、マッサージ院、鍼灸院、整骨院、整体院などを含むリラクゼーション業界全体の市場規模は、コンビニの9兆円を大きく上回る16兆円で、店舗数もコンビニの2倍ほどだと試算されたことも。  今回は、そんな人の体に触れながら施術を提供するマッサージ・リラクゼーション業界の市場の実情や、現場からの声を紹介していく。 【写真を見る】店舗数はコンビニの2倍!! マッサージ・リラクゼーション業界の問題点 街中チェーン店は「マッサージ店」ではない  一般的に「マッサージ」と聞くと、「もみほぐし」を謳う大型チェーン店などのリラクゼーション施設や、エステ、セラピーなどを思い浮かべることが多いかもしれない。 市場規模は拡大している(写真はイメージ)  しかし実のところ、マッサージは「医業類似行為」に分類されており、それに該当しない職業の人たちは、マッサージは施せないことになっているのだ。現在、日本で法的に「マッサージ」が施せるのは、「医師」と「あん摩マッサージ指圧師」のみ。  この「あん摩マッサージ指圧師」は主に、手や指を使って押し・揉み・叩きなど力学的な刺激を体に与える施術を行う職業で、医師や看護師と同業、人体を扱う職業として定められた医療系の国家資格だ。  一方、エステティシャンや整体、もみほぐし店などは、施設名やメニュー名に「マッサージ」という言葉は使ってはならず、医業類似行為ではなく「リラクゼーション」という「疲労回復・美容目的のための施術」として行われているのが実情だ。 「あん摩マッサージ指圧師」のほかに「施術系」の職業において国家資格が必要なのは、適切なツボや皮膚・筋肉に鍼を用いて刺激を与える「鍼師」や、ツボや冷えている部位に、艾(もぐさ)の燃焼などによる温熱刺激を与える「灸師」などがあり、これら3種の頭文字をとって「あはき業」と呼ばれている。  こうした資格における明確な違いはあるが、細かな違いはまた追って紹介するとして、本稿では、「顧客の体に触れて施術の仕事」としてまとめて紹介することにする。 職に就いたきっかけ  上述した通り、これらの施術業には「あはき業」以外にも、疲労回復・美容などを目的とした「エステティシャン」、「整体師」、「カイロプラクター」など多くある。今回、施術系の仕事に就く人たち計11名に話を聞いたが、総じて「やりがいがある」という声が聞かれた。 「以前は建築・製造関連の仕事をしていましたが、エンドユーザーの顔を見ることができず。一方、マッサージの仕事は直接お客さんの反応を見ることができるので、やりがいを感じます」(あん摩マッサージ指圧師)  今の職に就いた理由として多く聞かれたのが、「自分自身がスポーツや体を酷使する仕事に従事していた」という声だ。 「元々トラックドライバーをしていたが、腰を悪くしたことがきっかけで、同じドライバーの悩みに寄り添える仕事をしたいと思った」(カイロプラクター) 「32年間の競輪選手時代、自分が受けてきて施術を勉強してみたいと思ったことと、家内がマラソンランナーなので少しでも手助けができるのかなと」(カイロプラクター)  ちなみに、前出の「あはき業」においては、昔から視覚障害者たちが多い。  諸説あるが、「日本視覚障害者団体連合」の資料によると、江戸時代、全盲の杉山和一が鍼の施術法の一つである「管鍼法」を考案。さらに、あん摩技術の習得の場として、世界初の視覚障害者教育施設「杉山流鍼治導引稽古所」を開設するなどしたことで、あはき業は「視覚障害者の専業」といわれるまでになったそうだ。  しかし近年、この視覚障害者の施術者は減少傾向にあるという。「あん摩マッサージ指圧師」の場合、視覚障害者は1960年代まで6割を超えていたが、2022年には2割程度にまでになった。  その要因として、晴眼者(目が見える人)による業界進出や、目の不自由な人たちが選べる業種が少しずつ多様化してきたことがあるが、それ以外にも「あはき業」以外のリラクゼーション産業の需要の増大を指摘する人も多い。 施術中の客が我慢していること  他人の体や肌に触れ、触れられることでサービスが成り立つ現場。リラックスするための場とは言え、客側と施術側にはなんとも言えない独特の緊張感が漂う。  そんななか、客ならば誰もが1度は耐え忍んだことがあると思われるものがある。 「おなら」だ。  突然こんな話で恐縮だが、筆者自身も月に2回ほど体を整えるための施術を受けるのだが、腹周りを刺激されるとどうしても腸が活発になる。そうなった場合、ひとり静かに、かつ必死に尻に力を入れ耐え忍ぶのだが、体がこわばっているんだろう、毎度「力を抜いてください」と言われてしまう。  が、今力を抜こうものならば、その日がその店での最後の施術になることは間違いない。  そんな月2回の経験が、今回「施術者」を取り上げようと思った大きな理由の1つになっていることはさておき、実際、施術中におならをしてしまう客はいるのだろうか。 「普通にいますよ。僕は気にならないが、患者さんは当然恥ずかしいと思いますね。もし出てしまった場合、『骨盤整えて腸が動き出しましたね。良い傾向です』とお伝えするようにしてます」(カイロプラクター) 「せっかくお金を出して来てるんですから、そんなこと気にせずリラックスしてください(笑)。あれだけお腹周りを刺激しているんですから、おならが出てしまうのはある意味当然だと思います」 「気になるようでしたら、施術前に繊維質のある食べ物を控えるなどするといいかもしれません。いずれにしても施術者にとっては日常事なので気になさらなくて大丈夫です」 ムダ毛の処理に一喜一憂  また、SNSなどを分析してみると、もみほぐしなどの施術でもう一つ気になることとして多かったのが「ムダ毛の処理」に関する女性客の声だった。 「仕事のあとエステの予定あったのに、ムダ毛を剃ってくるの忘れたので家に帰ります」 「施術中、何度か『あれ…スネ毛ってどうなってたっけ…』と気になって気になってマッサージどころじゃなくなった」  女性は施術前、ムダ毛を処理することをエチケットと感じている人が少なくない。たとえ施術者が同じ女性でも、やはり気になってしまう。  これに対し、施術側はどう思っているのか。 「そのままで全く問題ありません。むしろ剃ってから時間が経っているとチクチクして痛い」(アロマセラピスト) 「全く気にしません。男性のお客様も多くいらっしゃるので、女性のムダ毛にも抵抗はありません。ただ、オイルを使った施術は、産毛を含むムダ毛があると、オイルの伸びが全く違います。よりスムーズな滑りを体感したい方は処理してみていただけるといいのではないでしょうか」(アロマセラピスト)  一方、施術者が「困る」と感じる客としては、「遅刻をしてくる人」、「隣の客に迷惑がかかるほど大きな声で話を続ける人」という定番の回答のほか、こんな声もあった。 「施術中、スマホをそばに置いたりいじったりする客。身体を良くしようとするにしても、リラクゼーション目的にしても、スマホに集中すると自律神経の交感神経が優位となり、全体的に効果が薄れます」(あん摩マッサージ指圧師) ハラスメントに対峙しやすい業界  いわずもがな、「施術業」は完全なる客商売。そのため、カスハラやトラブルに遭いやすい職業の筆頭でもある。 「効果を感じられないからという理由で、支払いを渋るお客様がいる」(カイロプラクター) 「タイマーをセットして時間いっぱい施術をしているのに『2分短い』といって喚き散らす方がいました」(もみほぐし施術者)  さらに、こうした手に職系の仕事ではよく聞く話だが、「友人知人からの依頼だとお金を払ってくれなかったり、値下げを当然だと思われたりする」という声も。  最も多かったのが「セクハラ」に関するトラブルだ。 「一般的なリラクゼーション施設なのに、男性客から性的なサービスを強要されることがある」(もみほぐし施術者) 「男性客からはあり得ない要求や行為(局部を露出するなど)を受けることがあります。閉鎖的な空間で2人きり、しかも監視カメラなどもないので毎度怖い思いをします」(アロマセラピスト)  一方、男性施術者の場合、客からセクハラだと訴えられてしまうケースも少なくない。 「患部以外の場所に触れないといけないことがあるので、こうした説明はしっかりします。男性施術者として、特に女性のお客様には触れる部分を細かく確認するようにしている」(あん摩マッサージ指圧師)  しかし、こうしたセクハラは、なにも男性客・男性施術者から女性施術者・女性客に対してのみ起こるものではない。今回の取材では、男性の施術者が「性的な要求をされることがある」とする人もいた。  直接人の肌に触れる場なうえ、リラクゼーションという心身ともに解放されやすい環境下では、セクハラ対策は今後も強化していく必要があると言えるだろう。 施術者あるある  最後に本連載恒例の「職業あるある」を聞いてみた。 「『自分がもう1人いたらな』と思います(同じ施術を自分で受けたい)」 「疲れた日は家族にマッサージしてもらっている」 「大柄な人からは追加料金を取りたい。施術で体力を消耗するので」 「華奢な人よりも、中肉中背で筋肉や脂肪が柔らかい中年の女性のほうが施術しやすい」 「爪は絶対短くしておかないといけないが、缶を開けられなかったり、シールをはがせなかったり、痒いところを掻いても気持ちよくなかったりと、とにかく日常生活が色々やりにくい」 「深爪してしまった時、親指に体重をかけるとすごく痛い」 「年末年始などに実家へ帰省すると、おじいさんおばあさんの施術大会が始まり、ある意味普段の仕事より忙しくなる」 「施術中、お客様が眠ってしまった時は少しずつ力を強めて起こす」 「不妊の方などへ鍼灸施術をしても、途中で来なくなった方は無事妊娠されたのか、またその他の病気でも軽快して来なくなったのか分からず悶々とすることがある」  自分の不調を解消しに行って、現場ではたらく人たちを不調にさせるようなことはあってはならない。心からリフレッシュするには、そこで働く人との信頼関係の構築が必要不可欠なのだと彼らの話を通じて強く思う。 橋本愛喜(はしもと・あいき) フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA) デイリー新潮編集部

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