現在、日本人男性がいちばんかかりやすいがん——それが、ほかでもない前立腺がんです。国立がん研究センターがん情報サービスによれば、前立腺がんの罹患数は、近年、トップの座を占め続けていると推測されています。 長く、よい状態を保って生きていくためには、患者さん自身のがんの状態、全身の健康状態などを勘案しながら、最良の治療法を「選択」していくことが必要です。『名医が答える! 前立腺がん 治療大全』よりそのためのヒントを紹介します。 前立腺がん検診を受けたほうがよいですか? 前立腺がんは、早期の段階ではこれといった症状が現れないのが普通です。しかし、症状がない段階でもPSA検査を受ければ早期発見が可能です。 現在、「前立腺がん検診」として実施されている検査方法のほとんどはPSA検査です。人間ドックをおこなう施設は9割以上、住民検診をおこなう自治体の約8割は、前立腺がん検診を実施しています。検診でおこなわれるPSA検査は、基本的には自分から希望して受けるオプションの検査ですが、排尿トラブルなどで受診すれば、診療の一環としてPSA検査がおこなわれることもあります。 血液を調べるだけで早期発見が可能なのは、血液のがん以外の固形がんでは前立腺がんだけです。直腸診や超音波検査で前立腺がんが見つかることもありますが、前立腺がんの患者さんのおよそ9割は、PSA検査が発見のきっかけになっています。 一般的には前立腺がんが増え始める50歳以上になったら、排尿トラブルがある人や血縁者に前立腺がんの経験者がいる人は40歳を過ぎたら、定期的にPSA検査を受け、前立腺がんが疑われる変化はないか調べておくことがすすめられます。 一般にPSA値が「4」を超えると、さらに詳しい検査が必要になります。 検診で発見された場合と、なんらかの理由で受診したあとに発見された場合では、がんの進行度に違いがみられます。検診の普及によって前立腺がんの死亡率が低下することは、数々のデータから明確に証明されています。 それでも、前立腺がんの検診については、「わざわざ検診を受けなくても……」と考える人が少なくないようです。命にかかわらないがん(ラテントがん→Q7)を見つけ、治療してしまうことの問題も指摘されてきました。 たしかに、検診を受ければ命にかかわる心配のないがんも見つかりやすくなりますが、前立腺がんとわかったからといって、自動的にすべての患者さんに積極的な治療がすすめられるわけではありません。年齢、体調、がんの状態をみながら、適切な対応を考えていけばよいのです。不要な治療で寿命が縮むような事態は避けられます。「症状が現れてからでも遅くはないだろう」というのも、ひとつの考え方です。 どの段階で見つかってもなんらかの対応は可能です。しかし、発見が遅くなるほど治療は難しくなっていくのもまた事実です。症状が現れる前に見つけるほうが選択肢は格段に多く、それぞれの状態に合った対応を取りやすくなります。 なお、一度の検査で基準値未満だったからといって、この先ずっとがんの心配はないとはいえません。定期的にPSA検査を受けておきましょう。 前立腺がん検診は何歳まで続ければよいですか? 50歳、場合によっては40歳を過ぎたら前立腺がん検診を受けたほうがよい、というのはそのとおりなのですが、検診を何歳まで続けるべきかについて、はっきりした指針は示されていません。 前立腺がん検診の究極的な目的は、前立腺がんによる死亡を避けることにありますが、人間の命には限りがあります。余命わずかと考えられる人が検診を受ける意義は見出せません。また、非常に高齢で、体調もすぐれないなどという場合、治療がかえって寿命を縮めてしまうおそれもないとはいえません。前立腺がんが見つかっても、治療は受けないと決めている、治療を受けられる状態ではないのであれば、発見のための検査自体、受ける必要はないともいえます。 逆に、高齢であっても「10年先も元気だろう。元気でいたい」と考えられる人なら、前立腺がんを早い段階で見つけ、適切に対処していくことには意味があると考えられます。 少数ながら、がんがあってもPSAがあまり増えないタイプの前立腺がんもあるため、検査を受ければ100%、発見が可能とまではいえません。しかし、少なくとも9割程度の前立腺がんはPSA検査で早期発見が可能です。PSA検査は血液を調べるだけなので、検査そのものが負担になるおそれはあまりありません。がんの疑いがあるとわかったら、その段階で対応を決めていけばよいでしょう。 同じ年齢でも、健康状態は人によって大きく違います。年齢が高くなればなるほど、その差は大きくなります。 今は、元気な高齢者がどんどん増えています。何歳まで検診を受けるべきか、一律に区切ることはできません。検診を終える時期は、自分の健康状態などを考えながらご自身で判断されるべきことともいえます。 なお、高齢者の健康状態を客観的に評価する方法はいろいろあります。G8スクリーニングツールもそのひとつです。「まだまだ元気!」という自覚があり、実際、健康状態も良好と判断されているなら、検診を受ける意義は大きいといえます。 前立腺がんの生存率はどれくらいですか? がんには、全身をむしばむ怖い病気というイメージがつきものです。「がんかもしれない」とわかり、不安な思いをいだくのは当然です。しかし、幸いなことに、前立腺がんは大きく広がらないうちに適切に対処していけば、コントロール可能な病気になってきています。 検診などで判明した「前立腺がんの疑い」が、疑いではなく真実だったとしても、おびえる必要はありません。前立腺がんがあっても適切に対処していくことで、多くの人は寿命を全うできると期待できます。 診断を受けた5年後に生きている人の割合が、同じ年齢・性別の人全体の生存率の何%に当たるかを示す数字を5年相対生存率といいます。前立腺がんは、男性のがんのなかで5年相対生存率が最も高いがんです。 診断時に転移が起きていない前立腺がんなら、5年相対生存率は100%です。がんが前立腺内にとどまっていれば根治すると考えてよいでしょう。 前立腺がんが進行し、ほかの臓器に転移がある状態で見つかった場合でも5年相対生存率は65.6%(全がん協生存率調査2011︱2013年診断症例)であり、診断後10年を超えて命を保っている人もめずらしくありません。 とはいえ、「命にかかわる心配はない」というわけではありません。前立腺がんが極度に進行し、命を落とす人もいるのが現実です。 油断はせず、病状に合わせて適切な対応を続けていくことが重要です。 【前編はこちら】前立腺がんは「進行が遅いから放っておいても大丈夫」? その症状と進行の見極め