2016年の熊本地震で被災した熊本城(熊本市中央区)で9年続くと見込まれる赤字から脱却しようと、管理する熊本市は、市や熊本県に限っていた城内でのイベント開催を解禁した。 普段は使えない特別な場所を会議の会場にする「ユニークベニュー」の推進も目指す。52年度とされる復旧事業完了に向け、市関係者は「復旧を円滑に進めるため、安定的な自主財源を確保したい」としている。(有馬友則) 保存に配慮 解禁の対象は、21年に一般公開が始まった天守閣内や、20年に完成した特別見学通路など有料エリアの4か所と、入園料が不要な二の丸芝生広場。天守閣などでは、学会のレセプションや企業が商品をPRする展示会、二の丸芝生広場ではコンサートなどを想定している。 使用料はいずれも1回で、特別見学通路が20万円、天守閣内30万円、天守閣前広場100万円、二の丸芝生広場200万円などで、市や県との共催なら無料。今月から受け付けを始めており、審査会の審議などを経て、早ければ秋にも開催される。 使用にあたって、二の丸芝生広場以外は、観光客らの見学に支障が出ないように、時間を午前6時〜8時半、午後5時半〜9時に限定し、遺構保護のため、不特定多数が参加するようなイベントを禁止する。 市熊本城総合事務所総務管理課の谷崎謙一郎主幹は「文化財としての価値を守りながら、民間のアイデアを活用し、より多くの人に熊本城の魅力を届けたい」と利用増に期待を込めた。 かさむ費用 熊本城では、宇土櫓(やぐら)など国指定重要文化財の建造物13棟が地震で全て損壊し、石垣も全体の1割が崩落した。有料エリアは入場規制され、収入(有料エリアの入園料や駐車料金)が地震前の4分の1以下に減少。市は収支の詳細を明らかにしていないが、16年度は約5億円の赤字に転落したという。 復旧が進み、19年に天守閣の外観が修復されると、一部有料エリアを公開し、収入は徐々に回復した。21年度には入園料を300円値上げして高校生以上800円とし、入園者数が100万人を超えた22年度、収入は地震前と同程度の約8億円に達した。 主な支出は、入園者が工事区域に入らないようにする警備員を配置する人件費、園路の街灯といった設備補修費などで、22年度は地震前の約1・3倍の約11億円に上った。23年度は入園者が130万人以上となったが、人件費や物価の高騰で赤字。24年度の収支は未確定だが、入園者は140万人を超えたものの、赤字となる見込みという。 ファン増やす 現状を打開しようと、市は有識者らでつくる委員会に民間イベントの解禁を提案。委員からは「オーバーツーリズム(観光公害)にならないか」など慎重な意見もあったが、熊本城の保存の重要性をイベントで訴えることや文化財を損傷させないといった要件を盛り込み、最終的に承認された。 市は昨年11月、大学や経済界の関係者を招いてユニークベニューの実証実験を実施。約30人が天守閣内での飲食や天守閣前広場でのステージを楽しんだ。市は民間イベントで注目されることが、寄付につながると期待している。谷崎主幹は「県内外からの寄付は、復旧事業費の4分の1を占める重要な財源。訪れた人が引き続き支援してくれるように、熊本城のファンを増やしたい」と語った。 二条城や姫路城でも 全国でも、民間イベントを開催する城郭が増加している。 京都市は2013年度から、二条城でユニークベニューに取り組み、年間5〜10件のイベントを開催する。ファッションショーや写真展などで、中には1000人規模のイベントもあった。城の23年度の収支は約9億円の黒字で、使用料は建造物の修復事業の一部に充てている。 兵庫県姫路市は18年から、姫路城の一部を有料で貸し出している。学会のレセプションパーティーや式典で利用できるが、不特定多数が参加する催しを対象外としている。市は収支を明らかにしていない。 城西大の土屋正臣准教授(文化遺産保護)は「文化財の活用は、企業や市民が価値を知るきっかけになり、守る意識も向上する。一方、品位を損なったり、文化財を破損したりする懸念もあるので、活用範囲や方法などを地域全体で検討すべきだ」と指摘した。