テヘラン支局長　吉形祐司 　イラン北西部ガズビン州の郷土料理「ゲイメ・ネサール」は、多くの食材がライスにちりばめられ、「宝石」とも形容される色鮮やかな一品だ。 　何層にも重なった具材とスパイスの絶妙な風味が飽きを感じさせない。 結婚式や宗教行事で定番 　イランで「ゲイメ」の名が付く料理は、肉などを煮込んだシチューをライスにかける。だが、結婚式や宗教行事で定番のゲイメ・ネサールは、ガズビン特有のまったく別の料理だ。 　首都テヘランから西へ約１６０キロの州都ガズビン。老舗レストランがひしめく中、２０１５年に開店した「アルマニ」は、ガズビン市が１８年に催したゲイメ・ネサールのコンクールで優勝し、地元で屈指の店として知られる。総料理長として夫とレストランを共同経営するマリヤム・サラフハさん（５５）は、料理学校の講師として地元では著名人だった。レシピは母親譲りという。 「スパイスを入れるタイミングが重要」 　肉は庶民に優しい手頃な価格の牛肉をタマネギと一緒に焼き、３０〜６０分ボイルする。ターメリックや黒コショウ、サフラン、カルダモンなどで風味をつける。サラフハさんは「スパイスを入れるタイミングが重要。調和で魔法の味になる。ゲイメ・ネサールは交響曲に似ている」と話す。 　前日から塩水につけたイラン米を炊き、バーベリーやオレンジピール、地元産ピスタチオやアーモンドを次々とトッピングしていく。料理人の素早い手さばきは圧巻だ。 　バーベリーの酸味が口に広がったかと思うと、ピスタチオやアーモンドなどの香ばしい味に変わり、ライスの中から肉が姿を現す。何が出てくるのか。１皿４２０万リアル（実勢レートで約６４０円）で、ワクワク感もたっぷりだ。 ９種類のスパイス 　「アルマニ」で使う９種類のスパイスは一般的なものばかり。味はシェフの腕次第で詳細は「秘密」。家庭用の「ゲイメ・ネサール・スパイス」も市販されているが、プロは使わないという。 料理に欠かせないピスタチオ 　ガズビン料理で欠かせないのがピスタチオだ。米国が生産・輸出量で世界１位で、イランは隣国トルコと２位を競う。主要産地は南東部ケルマン州だが、ガズビン産の実は緑色で小さく、料理や菓子類に彩りを添える食材として不動の地位を築いている。 　農業省傘下の「ピスタチオ研究センター」のホジャット・ハシェミナサブ専門員（植物生理学）は「他の産地のものとは別種で、葉緑素を含み寒冷地に適している」と話す。脂肪が５２〜５４％と他種より２ポイント多く、料理用に刻みやすいのが特徴で、海外での需要も多い。 　ガズビン市のピスタチオ工場「ホシュバル・ネムネ」では、年間１２０トンの食材用ピスタチオを生産し、６０〜７０％が輸出用だという。 　緑色のピスタチオは郷土料理のほか、焼き菓子のバクラバなどにも不可欠だ。市内の菓子店で働くナザニン・モハンマディさん（２５）は「ガズビンはピスタチオ畑に囲まれ、地元住民にはとても大切なもの。ピスタチオを使用する割合でお菓子の値段も違う」と誇らしげに話した。 ◇ 　国内外の総支局長が、地域の自慢の味を紹介します。