ニュースのその先を考える記者解説。10日のテーマは「日本を守れる?飛べない海自輸送機」です。政治部・細川恵里記者の解説です。【きっかけ解説】 海上自衛隊はC130Rという輸送機を6機保有しています。 海自の持つ輸送機はこの6機だけで、主に、海自が管理する硫黄島や南鳥島など民間人が立ち入れない離島の基地に装備や食料、人員などを輸送するため使われています。 この輸送機が故障や不具合などで1機も飛べない期間が多いことが政府関係者への取材でわかりました。 —1機も飛べないというのはどういうことなんですか? 近年6機中、1機も飛べないという状況が数週間続くことが複数回ありました。導入以来「飛べる機体を1〜2機にするだけで大変な苦労をしている状況」だというんです。 もちろん、定期修理などで使用できない機体があるのは当然ですが、飛べる機体の割合は「非常に低い」といえます。 —そんなに飛べる機体が少なくて困ることはないんですか? 離島への定期便が欠航することもあり基地への物資補給に影響が出ています。航空自衛隊に協力を仰いだり、運用担当者が事前に飛べる数を予測し、「物資を多めに送っておく」ことで、しのいでいるといいます。 —なぜそんなに飛べない機体が多いのでしょう? 主な原因は「機体の古さにある」といいます。そもそも、この機種の導入のきっかけは東日本大震災への対応でした。 支援物資などの輸送のため、海自の当時の輸送機YS-11の飛行時間が急増。想定よりも耐用年数が早まったため、急きょ選定を行いアメリカ軍ですでに退役し砂漠で保管されていた空中給油機に白羽の矢をたてたのです。 輸送型に改造して、1機およそ20億円諸経費こみで、6機約150億円で中古購入しました。航空機としては破格といえます。 —かなり高額ですけれど中古で安く買ってきたということですね。 ですが、維持整備の費用がかなり高額なんです。直近ですと、2022年から5年間、およそ128億円で民間の会社と維持整備の包括的な契約を結んでいます。 それでも、機体から多くのさびやひび割れが見つかったり機内装備の経年劣化により現場からは「直しきれない」という悲鳴があがっているそうです。 —新たな輸送機を買うなど、根本的な改善策はとれないのはなぜなんでしょう? 政府関係者からは「輸送という任務が軽視されてきたのではないか」との指摘が上がっています。「ミサイルやイージス艦など、直接戦闘に用いる装備品のほうが予算が通りやすい傾向にある」というんです。 防衛省の今年度予算をみても概算要求に盛り込まれた戦闘機や艦船などの中で、財務省などとの折衝の結果、数が削られたのは輸送関連の船舶のみでした。輸送機をめぐっては別の懸念もあります。 —どんな心配があるんですか? C130Rの代わりとは別に、関係者によりますと石破総理は大型輸送機C17の購入の検討を防衛省に指示しました。 C17はアメリカ製で全世界で使われてきましたが、離着陸に長い滑走路が必要で使用できる空港が限定されるとの課題が指摘されています。 また、C17は製造が終了している機種で、関係者からは「購入当初はよくても、修理を重ねるなかでC130Rと同様に修復不能な機体も出てくるのではないか」つまり「C130Rの二の舞いになるのでは」という懸念が出ているんです。 —このニュースで一番伝えたいことはなんですか? 先を見据えた機種選定です。 厳しさを増す安全保障環境の中輸送力はますます重要になってきます。 「海上輸送群」が新設されるなど輸送に光が当たりつつありますが、島しょ部への物資輸送を滞らせないために、検討時のニーズでその場しのぎの購入をするのでなく5年、10年後も見据えた機種選定が必要ではないかと思います。【#きっかけ解説】