長野県飯山市常盤で９日夕、６０〜９０歳代の男女３人が相次いでクマに襲われ、重軽傷を負った。 　クマは近くの空き家に逃げ込んだとみられる。県は今後、広く注意を呼びかけるため、「ツキノワグマ出没警報・注意報」の発出を検討する。クマが冬眠から目覚める季節に起きた住宅地での人身被害に、住民は「どうすることもできず怖い」と不安な表情を浮かべた。 　県警や岳北消防本部によると、クマは最初に自宅敷地内の物置で作業をしていた男性（６５）を襲った。この男性の義母（８５）は自宅にいたところ、男性の「誰か助けてくれ」という叫び声を聞き、駆けつけたら、男性が大量の血を流していたという。「もう何十年も住んでいるが、クマを見たことはない」と声を震わせた。 　男性を襲ったクマは向かい側の住宅に行き、住人の男性（９６）、女性（６６）を襲った。女性の３０歳代の娘は「ずっとここで暮らしてきたが、今までクマを見たことがなかった。まさかうちが襲われるとは」と驚いた様子で話す。 　病院に搬送される前にけがをした女性から当時の状況を聞いたところ、クマは玄関のガラスを割って住宅に侵入し、２人を立て続けに襲ったとみられるという。女性は「台所にいてガシャンガシャンという音がして何だろうと思ったら、茶の間に大きな黒い物体がいた」と話していたという。 　目撃情報などから、クマは３人を襲った後、近くの空き家に逃げ込んだとみられる。同市は空き家の周辺に、エサを入れた檻（おり）を三つ設置し、クマをおびき寄せようと試みた。この空き家の周辺では、パトカーが周囲を取り囲むなど物々しい雰囲気だった。 　３人が負傷したことを受け、県は９日夜、職員や「クマ対策員」を派遣して情報収集にあたったほか、幹部らが対応を協議した。 　県のまとめによると、県内の集落やその周辺の「里地」における昨年度のクマの目撃件数は、１４３０件と過去１０年で２番目に多く、人身被害は１３人だった。 　一般的に春のクマは、冬眠明けで食べ物を求めて山中を歩き回る傾向にあり、例年、４月は人が暮らすエリアでの目撃も少ない。県は、「今回のように住宅が近い場所での人身被害自体は珍しい」とした上で、外出時に鈴など音が出るものを携帯することや、生ゴミを外に放置しないといった基本的な対策を呼びかけている。