銃撃事件の衝撃と絶望感 阻止活動を進めるうち、身近な現場に統一教会信者が食い込んでいる事例を鈴木氏は知る。 東京・北千住の荒川河川敷で開かれていた町内イベントを統一教会青年部が実質的に乗っ取っていた例。教団のフロント組織の理事が複数の中学・高校で教団の純潔思想を説く性教育の講演を行っていた例。沖縄のコミュニティラジオ局で、教会長夫妻が伝道番組を放送していた例—— そんな取材結果をニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で発信する中で、統一教会を利用する国会議員も大いに追及するべきだと考えた。 ・・・・・・ '13年には、第2次安倍政権発足後初の国政選挙で、政権中枢と裏取引が結ばれていたことを、教団内部資料から掴みました。 当時は教団のコンプライアンス違反が多数発覚していたのですが、国会での追及から教団を守ってもらう交換条件として、安倍氏肝いりの候補者への組織票支援を統一教会に依頼していたことが記されていたんです。 安倍氏が'21年9月に教団関連のイベントに送ったビデオメッセージを見たときは、関係が明らかになっても大した影響はないと高を括ったことに衝撃と絶望感を覚えました。だからこそ、「ある団体への恨み」によって安倍氏が撃たれたという第一報を聞いたときは、統一教会に間違いないと直感した。 あの事件で一気に世間の目が統一教会に向きましたが、本来なら重大な事件が起きる前に、もっと社会にその実態を問うべきだった……私の力不足を感じ、教団被害者の怒りの強さに思いを馳せられなかったことを反省しています。 誰もがカルト宗教にハマりうる 不動産賃貸業や一般の仕事によって最低限の収入を得ながら、自由に取材できる時間をなんとか週3日確保してきたという鈴木氏。「執念の取材」と評される、その原動力は何か。 ・・・・・・ ほとんどのメディアには統一教会との戦いを取り上げてもらえず、教団の活動も止まらず、取材をやめたいと思ったことは何度もあります。 ですが、ここまで続けてこられたのは、誰もがカルト宗教にハマりうることを伝えたいという強いモチベーションがあったからです。 手相の勉強やアンケートに協力してあげたいという素直で優しい気持ちを持った人を、教団は勧誘して信者にする。無垢な人の心の隙間に、「それはあなたのせいじゃなくて先祖の因縁が……」と言って、教団は巧みに忍び込む。カルト問題はある日突然、自分の身に降りかかるもの。 昨日の友、恋人、子供は明日の信者かもしれません。 意識の高い学生が狙われている 安倍氏銃撃事件以降、統一教会の街頭勧誘はほぼ見られなくなりました。逆に言えばその実態が見えにくくなっていて、「フレンド勧誘」のように大学のサークル仲間を引き入れているかもしれない。 これからは引き続き、他のカルト宗教の活動も正していきます。統一教会の方法を手本にして勧誘を活発化させる団体も多いですから。 たとえば、'82年に鄭明析が韓国で設立した「韓国大学宣教会」を起源とする摂理(キリスト教福音宣教会)には、要警戒です。 春の入学シーズンにはキャンパス勧誘が活発になりますが、摂理はXなどのSNSを使って、新入生に声をかけます。 最初は「春から●●大生」のようなハッシュタグをつけたアカウントに「いいね」を押して、ネット上の友達になり、メッセージをやり取りしていく。SNSを駆使した「ステルス勧誘」は外部から見えません。 SDGsを掲げて意識の高い学生を集めるオンラインサミットの主催者や、河川敷を清掃するボランティア団体を調べると、カルト宗教につながったりもする。自分の子が知らぬ間にカルト信者になってしまったという相談事例も増えています。 統一教会が解散しても、私の戦いは終わらないのです。 「週刊現代」2025年4月5・12日合併号より 統一教会に解散命令!22年にわたって一人で戦い続けた鈴木エイト氏が明かす、「私はなぜ統一教会と闘えたのか?」